《紙ヒコーキシリーズ 第11話》佳織、見てしまう
1|病院の朝は、いつもよりざわついていた
病院の朝は、いつもよりざわついていた朝の病院は、いつもより少しざわついていた。
「佳織ちゃーん、巡回まだー?」
「はい行きますっ!」
研修生とはいえ、任される場面は増えてきた。
スクラブの袖を少し捲って、髪をひとつにまとめる。
(今日もバタバタやな…)
カルテを閉じて立ち上がった、その瞬間だった。
──すー……。
自動ドアから吹き込んだ風が、やけに長く伸びる。
まるで誰かが通り抜けたみたいに、不自然で静かな風。
(……あれ?)
次の瞬間。
2|風が長く“滑り込んでくる”
ひとつの紙ヒコーキが、病院の廊下を滑るように飛んできた。
ゆっくり。
本当にゆっくり。
誰かの手を離れてきたような、小さな残像を引きながら。
「え……病院で?誰の?」
周りを見ても、人影はない。
患者の子どもが落としたにしては折り方が雑すぎる。
佳織はしゃがんで拾い上げた。
手の中の紙はあたたかさをまだ少し残している気がした。
(いや……気のせいか)
でも胸が、変に高鳴っている。
開くべきか。
開かない方がいいのか。
でも見ないと、もっと気になる。
深呼吸して、そっと広げた。
3|そこに書いてあったもの
中央に、見覚えのある筆跡。
「つづき」
そして、その下にもう一行。
「きいてくれてありがとう」
佳織は息をのんだ。
(この字……
この紙の感じ……
なんでやろ、あの子の顔がふと浮かんだ)
はっきり根拠があるわけじゃない。
でも、胸の奥に小さく灯るような“つながりの気配”があった。
数日前に拾った紙ヒコーキの折り方とは違う。
けれど、どこか同じ匂いがするような、そんな気がした。
(……気のせいかも。けど……)
自分でも説明できない感覚が、そっと胸の奥を押した。
紙をそっと持ち上げると、裏が透けた。
(……ん? まだ字が?)
4|裏側にあった、もう一つの筆跡
裏返すと、そこには全く違う筆跡があった。。
太くてクセが強い、明らかに別の人間の字。
「いま、動け」
佳織:「……なにこれ。誰が……?」
“まさか校長先生の字に似てる気がする…”
けれど口には出さない。
(いやいや、そんなわけないやろ……)
戸惑いだけが、胸に残った。
主人公の言葉。校長の言葉。
ふたつの人生が、一枚の紙の上で触れ合ってしまっている。
……偶然なのか、それとも。
風だけが、ほんとうの理由を知っているようだった。
5|主任に呼ばれる(現実へ引き戻される)
主任:「佳織さーん!!
ICUの“観察つきそい”お願いしたよね!?
先輩待ってるよー!!」
佳織:「すみませんっ!!今行きます!!」
慌てて紙をポケットにしまう。
でも心臓はバクバクしている。
(……なんで飛んでくるんよ……
これ、ほんまに“風”のいたずらなん?)
走りながらも、
ポケットの紙が太ももの横で小さく揺れるのが分かる。
6|夕方、屋上で
勤務が終わるころには夕日が病院のガラスに反射していた。
佳織はひとりで屋上の階段を上る。
風がやわらかく吹いている。
ポケットから紙ヒコーキを取り出し、
もう一度開く。
中央には、あの子の字で書かれた
「つづき」
「きいてくれてありがとう」
そして、その裏に。
太めの線で
「いま、動け」
ふたつの筆跡が、一枚の紙の上で静かに重なっていた。
佳織(心の声):
(……明日、あの学校行こ)
そうつぶやいた瞬間、
風がふわりと彼女の髪を揺らした。
まるで
“行ってこい”
と言われたみたいに。
■次回予告
校長と元妻が動いた。
佳織も動いた。
残るは――
風の中心にいる“あの少年”。
第12話
《すれ違う再会》
風はまた、誰かを運んでいく。
