幼児が思うように動いてくれないとき、先生が見直したい5つのこと
――「できない」の前に、その子の中で起きていることを見る
幼児のレッスンをしていると、こちらが用意した活動に子どもが乗ってこない日があります。
「弾いてみよう」と声をかけても、鍵盤に触れない。
歌を始めても、黙ったままこちらを見ている。
カードを見せても、別のおもちゃや教室の隅が気になってしまう。
昨日まではできていたのに、今日は「やらない」と言う。
そんなとき、先生である私たちは、つい焦ります。
準備したことを全部やらなければ。時間内に何かを身につけてもらわなければ。保護者にも成長を見せなければ――。
けれど、子どもが思うように動かない時間は、レッスンが失敗している時間なのでしょうか。
私は、元小中学校の音楽教員として、そしてピアノ・リトミック講師として、18年間、子どもたちと音楽を通して関わってきました。
その中で何度も教えられたのは、幼児の「やらない」「動かない」には、その子なりの理由があるということです。
今日は、幼児が思うように動いてくれないときに、子どもを変えようとする前に、先生が見直したい5つのことを書いてみます。
目次
1. 「動かない」は、子どもからのメッセージ
2. 今日のねらいが大きすぎていないか
3. 説明が長くなっていないか
4. 子どもが選べる余白があるか
5. 「できた」が子ども自身に見えているか
6. 先生の焦りが先に立っていないか
7. 場面別・レッスンの立て直し方
8. 子どもを評価せず、仮説を持って見る
9. まとめ――待つことも、指導のひとつ
1.「動かない」は、子どもからのメッセージ
幼児は、自分の状態を大人のように言葉で説明できるとは限りません。
「今日は少し疲れている」
「初めての活動で、どう動けばよいか分からない」
「失敗するのが恥ずかしい」
「先生の言葉は聞こえているけれど、気持ちがまだ追いついていない」
こうした思いが、「やらない」「ふざける」「違うことをする」という姿になって表れることがあります。
大人から見ると同じ“動かない”でも、子どもの中で起きていることは一人ひとり違います。
だから私は、すぐに「どうしたらやらせられるか」を考える前に、まず「この子は今、何を伝えているのだろう」と立ち止まるようにしています。
その見方に変わると、子どもの姿は問題ではなく、次の指導を考えるための大切な手がかりになります。
2.今日のねらいが大きすぎていないか
一つ目に見直したいのは、今日のねらいです。
先生には、活動の先が見えています。けれど、子どもに見えているのは、今、目の前にある一歩だけです。
たとえば「右手でドレミを弾こう」という活動にも、幼児にとっては、
• 椅子に座る
• 鍵盤を見る
• 右手を出す
• 指を丸くする
• 指定された鍵盤を探す
• 先生の合図を待つ
• 音を鳴らす
という、たくさんの動きが含まれています。
子どもが止まったときは、ねらいをさらに小さくしてみます。
「今日は右手を鍵盤に置けたらいい」
「ドを一つ見つけられたらいい」
「先生の音を聴いて、まねを一回できたらいい」
一歩を小さくすると、子どもは成功しやすくなります。小さな成功は、次の一歩を踏み出す力になります。
予定したページまで進むことより、その子の中に「できた」「もう一度やりたい」が残ること。幼児期には、その積み重ねが何より大切だと感じています。
3.説明が長くなっていないか
二つ目は、先生の説明です。
子どもが動かないと、私たちは伝わっていないと思い、さらに言葉を足しがちです。
「まず右手を出してね。親指をドに置いて、それから先生が合図をしたら……」
丁寧に説明しているつもりでも、幼児にとっては、最初の言葉を覚えているうちに次の言葉が重なり、何をすればよいか分からなくなることがあります。
そんなときは、説明を短くします。
「見てね」
「まねっこしよう」
「一つだけ鳴らそう」
言葉で説明する代わりに、先生が実際にやって見せる。音を一度聴かせる。子どもの手が動き出すまで少し待つ。
幼児のレッスンでは、「分かりやすくたくさん話す」ことより、「分かる量だけ伝える」ことが必要です。
先生の言葉を減らすと、子どもの見る力や聴く力が働き始めることがあります。
4.子どもが選べる余白があるか
三つ目は、子ども自身が選べる場面があるかどうかです。
レッスンでは、先生が活動を決め、順番を決め、使う教材を決めます。当然のことですが、すべてを大人に決められると、子どもは受け身になったり、別の形で「自分で決めたい」と表したりすることがあります。
そこで、小さな選択肢を渡してみます。
「赤いカードと青いカード、どちらからする?」
「高い音と低い音、どちらを先に弾く?」
「先生と一緒にする? 一人でやってみる?」
どちらを選んでも、先生が考えたねらいに近づける二つの選択肢を用意します。
選んだ活動には「自分で決めた」という気持ちが生まれます。その小さな主体性が、レッスンへの参加を変えることがあります。
ただし、選択肢を増やしすぎると迷ってしまいます。幼児には、まず二つから選べる形が分かりやすいでしょう。
5.「できた」が子ども自身に見えているか
四つ目は、子どもが自分の成功に気づけているかどうかです。
大人は、少し姿勢が整ったこと、前回より音をよく聴けたこと、途中でやめずに一回できたことに気づきます。けれど、その成長を子ども自身が分かっているとは限りません。
「上手だね」だけではなく、できたことを具体的に言葉にします。
「先生の音が終わるまで、よく聴いていたね」
「さっきより、やさしい音になったね」
「自分でドを見つけたね」
「一回休んでから、戻ってこられたね」
具体的に伝えると、子どもは何ができたのかを理解できます。そして、「次もやってみよう」という気持ちにつながります。
褒めることは、子どもを動かすためのごほうびではありません。子どもが自分の成長を見つけるための鏡のようなものだと思っています。
6.先生の焦りが先に立っていないか
五つ目は、先生自身の心の状態です。
時間が足りない。教材が進まない。保護者が見ている。次の生徒が待っている。
先生にも事情があります。だから、焦ってしまうこと自体を責める必要はありません。
ただ、先生の「早くやってほしい」という気持ちは、声の速さや表情、間の取り方を通して、子どもに伝わります。
子どもが動かないときほど、一度呼吸を置きます。
予定していた三つの活動を一つに減らしてもいい。教材を閉じてもいい。今、その子が興味を持っている音から始めてもいい。
計画を変えることは、指導を諦めることではありません。目の前の子どもに合わせて、学びへの入口を変えることです。
幼児のレッスンでは、計画どおりに進める力と同じくらい、計画を手放す力も必要なのだと思います。
7.場面別・レッスンの立て直し方
ここからは、よくある場面ごとに、私が意識している対応を紹介します。
🌻「やらない」と言われたとき
すぐに説得せず、「今はやりたくないんだね」と一度受け止めます。そのうえで、「先生がするのを見る?」「最後の一つだけ一緒にする?」と、参加の段階を下げます。
見ることも、音を聴くことも、立派な参加です。見ていた子が、最後の一回だけ自分から動くこともあります。
🌻教室を歩き回るとき
座らせることだけを目標にせず、歩く動きを音楽につなげます。ピアノの音に合わせて歩く、止まる、速さを変える。その後、短い座位の活動へ移ります。
動きたい子にとって、体を動かすことは集中していない証拠ではなく、学ぶための入口である場合があります。
🌻間違えることを怖がるとき
先生がわざと小さく間違え、「あれ?違ったね。もう一度やってみよう」と見せます。間違いがレッスンの終わりではなく、次の試し方を見つける合図だと伝えます。
正解を急ぐより、安心して試せる空気をつくることが先です。
🌻保護者のそばから離れないとき
無理に引き離さず、保護者の膝の上や隣から参加できる活動を始めます。安心できる場所から音楽を経験し、「ここは大丈夫」と分かってから距離を広げていきます。
離れられることを成長の唯一の基準にしないことも大切です。
8.子どもを評価せず、仮説を持って見る
レッスン後の記録に、「集中できなかった」「やる気がなかった」とだけ書くと、次の指導につながりにくくなります。
私は、評価ではなく、見えた事実と小さな仮説を残すようにしています。
たとえば、
「カード活動では席を離れたが、ピアノの低い音には戻ってきた」
「言葉で指示したときは動かなかったが、先生が見本を見せると一回まねをした」
「母親のそばでは歌えた。距離が離れると声が小さくなった」
このように書くと、次回は「説明より先に見本を見せよう」「低い音から活動を始めよう」「安心できる距離を保とう」と、具体的な工夫ができます。
子どもを決めつけるのではなく、「もしかしたら、こうかもしれない」と仮説を持つ。その仮説を、次のレッスンで確かめる。
幼児指導は、この小さな観察と試行錯誤の繰り返しなのだと思います。
9.まとめ――待つことも、指導のひとつ
幼児が思うように動いてくれないとき、見直したいのは次の5つです。
1. 今日のねらいが大きすぎていないか
2. 説明が長くなっていないか
3. 子どもが選べる余白があるか
4. 「できた」が子ども自身に見えているか
5. 先生の焦りが先に立っていないか
子どもを動かす方法を増やすことだけが、指導力ではありません。
動かない姿をよく見ること。理由を想像すること。伝え方や環境を変えること。そして、子どもが自分から一歩を踏み出すまで待つこと。
それらもすべて、指導の大切な一部です。
レッスンの中で予定どおりにできなかったことがあっても、その日、子どもが先生の音を一度聴いた。少し笑った。最後に鍵盤へ触れた。
その小さな出来事の中に、次のレッスンにつながる芽があります。
「今日も進まなかった」と落ち込むのではなく、「今日はこの子のことを一つ知ることができた」と捉えてみる。
先生がそう思えたとき、子どもにも安心して学べる時間が生まれるのではないでしょうか。
教えることと、待つこと。
その両方を大切にしながら、私もこれから、目の前の子どもと音楽を重ねていきたいと思います。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
幼児のレッスンで「こんなとき、どうしている?」という場面があれば、コメントで教えてください。先生方の実践や気づきも、ぜひ伺えたらうれしいです。
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