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#37 ショートショート 『眠りつづけた男』


「みなさんリップ・ヴァン・ウィンクルのお話を
  ご存知でしょうか?
  そうアメリカの作家ワシントン・アーヴィングが
  1819年に発表した短編小説で、実に20年間    眠りつづけた男が目覚めたら世界が一変していた    という物語です」

そう語りだしたのは小説講座の講師
ここはワタシが住むみどり市の自治会館で
小説講座の会場だ。


ワタシは3ヶ月前に37年間勤めた会社を定年退職し、いまはしばし人生の休暇に入っている。

当然このまま何年も生活する蓄えがあるわけでは
ないが、しばらくこうしていられるだけの資金は作ってきた。
と言うことでまずは暇潰しと頭の体操の意味もふくめ小説を書くことにしたのだ。
勿論思いつきではなく、中学生時分の夢は小説家だった。まぁ当時は勇気も自信もなく、普通のサラリーマンになってしまったが、時間もできたことだし
失敗しても何も悪いことはないし。
ということで申込みしてみたわけです。

とはいえ、
無論いきなり長編を書けるわけでもなく、
この講習もショートショートから短編までという
講習内容で、今日は全6回コースの3回目である。

前回までは着想とストーリー作りのコツ
要は起承転結の考え方。
結では、しっかりオチをつけることを学んで
今回からいよいよ本編を書き始めるのだ。


ということで、事前になにを書こうかと
思いを巡らせてきたがまったくなにも思い浮かばず
いままで仕事ばかりで、特段趣味もなく過ごしてきたワタシが如何に周りの事を見てきていなかったと
考えさせられた。
そこでワタシはおそらくワタシが一番知っているであろう、ワタシのことについて書くことにした。

そうは言っても自叙伝ではないので、ワタシの周りで起こったことを題材にお話しを作るということだ。

まずは題材を箇条書き的にあげてみる。

①妻のはなし
②部下のはなし
③行きつけの居酒屋店長のはなし



< 第1章 妻のはなし >

 目覚ましが鳴る
 無意識に止めている
 毎朝おなじ
 眠たいけど仕方なく起き上がる
 朝食の準備をしなくちゃ

 ああ。。。毎朝ため息が出る

 台所に立っているあたし

 アイツが2階から降りてきた
 相変わらず仏頂面でおはようの挨拶もなし

 いつからこんな朝になったのかしら。。。


かしら?

ん?

仏頂面のアイツはワタシではないか

ワタシはあたし?

慣れない小説を書いていて意識がどうかしてしまったか?

いやこれは。。。
心の声が聞こえてくる

 はやく食べて会社行かないかな。。。ほんとにイヤ

 同じ空気吸ってるだけでイヤになる

 タバコもイヤ。。。
 なんども外で吸ってと言ったけど  
 全く聞き入れてくれない
 
 もう諦めたとうの昔に
 定年したら離婚してやる絶対

 そのときのためにパートでお金貯めてるし
 こっそりFX始めたし

 もう懲り懲り 
 あんな昭和の亭主関白みたいな男

 あぁいいからテレビ観てないで早く喰えよ
 クチャクチャ汚い音出しながら喰ってるけど

 いいから早く喰って出かけろ。。。


えっ
夢なのか?


< 第2章 部下のはなし >

おっ会社だ
ついこのまえ辞めたばかりなのに懐かしいな

みんななんだか元気だな?

いつも始業前にこんなに話ししてたっけ?

楽しそうだな

ん?

いま事務所に入ってきたの
ワタシ?

あれ。。。そういえば机が違う
なんかネイルしてる。。。オンナ?

徳永さんの指じゃん?

うわっスカートはいてる

あれなんか急にみんな大人しくなった
会話とまったぞ。。。


 あぁ部長きたよ

 毎日出勤してきやがって、
 テレワークでいいんだよ、目障りだ

 またブツブツなんかいいながらキーボード叩いて

 デカい声で電話して
 仕事してますアピールすんだろ?

 どっか外出しないかな?

 わっこっち来た!?

「徳永さんおはよう! 今日も爪凄いね!」

 はっありがとうございます

「最近の女の子はみんなそんななの?
っていうかそれ幾らぐらいかかるの?」

 。。。弾丸トークだな

 質問攻めであたしの答え聞く気ないじゃん

 これで会社の女子とコミュニケーション
 取ってますとか上役に報告してんのかな?

 怖すぎるよこの昭和の残骸サラリーマン

 家でも奥さんの話し全然聞かないんだろうな。。。
 絶対いやこんな旦那さん

 お腹出てるし、たばこ臭いし
 昔カッコよかったのか知らないけど
 女子慣れしてる感出して不愉快だ


えっいつも笑顔で話してくれてたのに

なんだこれ?


< 第3章 行きつけの居酒屋のはなし >

「あぁきょうも疲れた
 ヤスダくん! きょう飲み行こう!」

 うわっまたかよ

 やべぇほかにだれか誘わないかな

「オカダも行くかあっ!!」

 よしオカダ来いっ!


いらっしゃい!
あぁヤスダくん今日もかいっW

そこのテーブルどうぞ!

店長の威勢の良い声が響く

 あぁ。。。また来たよあの部長さん
 ヤスダくんいつも可哀そうだな
 もう一人の子はオカダくんって言ったけな?

 いつも部長さんの独演会だもんな
 おれが部下だったらうんざりだよ
 付き合い上断れないんだろうな

 あぁでもあと少しで定年って言ってたから
 辛抱だね、あの2人

なににしましょう?

生3つ
はいよろこんで!

 どうせ次はもろきゅうだろ
 そしてエイヒレ

 もっといいもの食わせてやれよ
 無理やり連れてきてんだから

 最悪だな。。。
 ほとんど食べさせないで生ビールのあとは
 格安ハイボール飲み続けて

 自分は喋りまくって解散だもんな。。。
 まぁいつも小一時間で終わるのが
 なによりの救いか?

 ヤスダくん1人で来てくれたら
 サービスしてあげんのに

 いやだねぇサラリーマンって


んん。。。ん

なんなんださっきからこの心の声は

しかも客観的にみるワタシ
最悪じゃないか、、、
腹出てるし、ベルト緩みまくってるし、
たばこ臭いし

とにかく一人で喋りまくってうるさい

だれも話し聞いてやしないじゃないか


これなんなんだ?
ワタシはこんな風に思われていたのか?

みんな出社最後の日はあんな笑顔で見送ってくれたのに。
最後の日、誰も飲みに付き合ってくれなかったな?そういえば
月末ってこともあったけど、

徳永さんいつも優しい笑顔で可愛かったのに
最後素っ気なかったな
そういえば
っていうか彼女、休暇だったな最終日!!


定年した日ウチに帰ったら誰もいなかったな
そういえば
夜食もなくてカップラーメン喰ったな


あれから誰とも会話してなくて
なんだか寂しくて
小説講習に通い始めたんだった

あれ今日本編書き始める日だぞ

ん?

ここどこだ

なんだか体が重い

なんだこの違和感は

なんか手足が不自由だ

どうした?

…… …… ……

あっ妻の声だ

…… ……
ん、娘の声もする

よく聞き取れないけど



ピッピッピッ

ピーーーッ 。



なんの音だ?




ワタシはベッドに寝ている
たくさんの管が繋がっているが
看護師さんが手際よく外していく
そのさまをワタシは天井から見ている

ん?


なんか昔テレビでこんなドラマを見たぞ
ミステリー劇場とかいう夏に特番でやってたやつだ

たいていこういうとき主人公は死ぬ寸前で
断末魔の如く走馬灯を見るのだが
ワタシの場合は客観的走馬灯?

ほんと?

みんなあんな風に思ってた?

ワタシはいったいなにを見てきたんだ

こんなんじゃ37年もの間、
眠っていたも同然じゃないか?
一体どうなっている


そしていま

死んだ?



ワタシ。

随分と眠りすぎてしまったようだ。





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