ワンピースに溺れかけ、UMAになるところだった話 〜脱げない女の必死の攻防〜
その日、私はめったにしない残業をし、ボロ雑巾のようになって帰宅した。
ひとり暮らしの暗い家に入り、『ただいま』と言い、そして『おかえり』も言った。
帰ったら、いちばん最初に着替える私。
あぁ、早くこのワンピースを脱いで、いつものクタクタの部屋着に着替えたい!
さて・・・と。
そのワンピースを脱ごうとした時に事件は起こった。
アレ?
どうも裏地が引っかかっているようで脱げない。
そう言えば、少しキツイんだった。
「まぁ、ちょっと力を入れれば」と思ったが、肩にがっちり食い止められ、両腕は中途半端な万歳ポーズで固定。
動けば動くほど、裏地は頑なに抵抗してくる。
やばい。
これ、本気で脱げない。
服に溺れる私。
え?
こんなことってある?
・・・
よし。
とりあえず、落ち着こうか私。
まずは深呼吸だ。
スーーー、ハーーー、スーーー、ハーーー、ヒッヒッフー。
そして、残業で疲れきっている頭で考えた。
そうだ!
母か姉に脱がしてもらおう!
なかなかの妙案だ。
実家まで走って8分。姉の家なら5分。
でも、すでに半分脱ぎかけ。
おまけにワカメちゃんの如く、パンツが"こんにちは"してる。
こんな姿で走っていけば、インターホン越しにこう言われるだろう。
『なんか変なのが来た!』
きっと不審者が来たって通報される。
間違いなく、家にも入れてもらえない。
いや、そもそも、そこまで辿り着けるのか。
もし、ご近所に見られたら?
ワンコを散歩中の人に出くわしたら?
間違いなく通報案件だ。
しかもワンコに吠えられて逃走劇が始まったら、さらにカオスじゃないの。
閑静な住宅街に突如現れた変質者・・・
いや、未確認生物(UMA)。
"二足歩行かと思ったら四足歩行していた"
"クマ並みに大きかった"
"唸りながら歩いていた"
"食べられそうになった"
そんな尾ひれが付いた噂が地元を飛び越え、全国ネットにまで波及したらどうしよう。
私はどんな顔で社会復帰すればいいのか。
いや、下手をすれば社会から抹殺されるかも。
ならばいっそ、もう少しでハロウィンだし、仮装の練習ということにして走るのもありかも知れない。
『トリックオアトリート!』と叫びながら。
・・・いや、それでも通報される気しかしない。
色々と考えているうちに、無理な体勢で苦しくなってきた。
もう、こうなったら力技で脱ぐしかない。
もったいないけど、破れても仕方ない。
そして、渾身の力を込めて
でぇぇぇいやぁ!!!
・・・その瞬間、ワンピースはついに脱げた。
どこかで"ピリッ"と破れたような小さな音がしたが。
床に投げつけたワンピースを睨みつけ、思わずこうつぶやいた。
『手こずらせやがって・・・』
まるで長年追っていた犯人をついに捕まえた刑事のように。
静まり返った部屋に、私の荒い息だけが響く。
ワンピースを脱ぐだけなのに、フルマラソンを走ったくらいの疲労感。走ったことないけど。
・・・
まぁいい。
少なくとも、不審者として通報されずに済んだのだから。
そう、私は確かに生き延びたのだ。
ワンピースとの死闘を。
安堵とともに深いため息をつき、
そして誓った。
二度と・・・
二度とこの服には袖を通すまい
と。
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