僕はたぶん、無害な超能力を持っている
僕は、超能力者なんじゃないかと思うことがある。
しかも、無意識に発動してしまうタイプだ。
さっきまで使っていた参考書がない。
指にページの感触だけが残っている。
机にない。
床にもない。
カバンにもない。
移動したと考えるのが、一番自然だ。
キッチンに行くと、炊飯器の上に参考書があった。
炊飯器は沈黙している。
米は炊かれていない。
それでも、参考書はそこにある。
能力だ。
外出しようとして、ダウンジャケットを羽織る。
右ポケットが重い。
嫌な重さだ。
手を入れると、豆腐だった。
しかも焼き豆腐である。
もちろんパックのままである。
僕は少し安心した。
能力は、まだ暴力的ではない。
影響が広がる前に、
豆腐を冷蔵庫へ戻す。
それで終わると思った。
電子レンジを開ける。
中に、ネックウォーマーがある。
お前、今までどこに…
回した記憶はない。
温める意図もない。
それでも、そこにある。
僕は、すべてを元の場所へ戻した。
参考書を机に。
豆腐を冷蔵庫に。
ネックウォーマーを首元へ。
今日に限って、
首元が冷えなかった。
最近ひとつだけ心配していることがある。
この能力が、もし他人に気づかれたらどうなるのか。
気づかれなければいい。
今はまだ、
「物を変な場所に置く人」で済んでいる。
だが、もし誰かが法則を見つけたら。
「この人の周りでは、物が勝手に移動する」
と気づいてしまったら。
役には立たない。
だが、完全に無害とも言い切れない。
組織が来る可能性だって、ゼロではない。
白い部屋。
無機質な机。
「次は、もう少し大きな物で試してみましょう」
そう言われたら、困る。
だから今日も僕は、
能力が世に漏れないように、
なるべく普通の顔で生活している。
