【創作大賞感想】⑳『公務員の加賀美』を読んで
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誰かの「星」であった自分に、いつか気づくために。恵黒町という、アイヌ語で「真っ暗である」ことを意味する地名を持つ小さな町で働く新人公務員・加賀美静夜の物語を読み終えた今、心地よい夜風に吹かれているような静かな充足感に包まれています。
50代後半までサラリーマンとして組織の歯車を回し続けてきた私にとって、静夜が直面する「つまらない仕事」の数々は、あまりにも身に覚えのあるものでした。住民からの理不尽な怒号、終わりの見えない書類作成、そしてイベントでの着ぐるみという過酷な役回り。若き日の私たちが、日々の忙殺の中で「自分の価値とは何か」と自問自答し、理想と現実のギャップに膝をつく姿が、そこには丁寧に描き出されています。
本作の白眉は、静夜が抱く「自分は、輝く兄の陰に過ぎない」という深い自己否定が、思いもよらない場所で救われる瞬間にあります。かつて彼が「何もできなかった」と絶望した迷子との遭遇。しかしその子供にとっては、傍に寄り添い続けてくれた静夜こそが「スターグリーン」というヒーローだったのです。
私自身も自分の仕事が誰の役に立っているのか、砂を噛むような思いでデスクに向かう日が多々あります。しかし仕事の真の価値というものは、渦中にいる時には見えず、ずっと後になってから過去を振り返る景色の中にポツリと灯る街灯のように気づくものなのだと、50代後半までサラリーマンを続けてきた今、改めて深く実感しています。
吉門町長や大澤課長といった、一癖も二癖もある大人たちが語る「役場の仕事はつまらない。でも、一生懸命やると楽しい」という言葉には、長年組織で苦労を重ねてきた者にしか出せない説得力があります。
この物語は、今まさに「自分は代わりのきく存在だ」と真っ暗な夜の中にいる全ての働く人々へ、優しい肯定を届けてくれます。派手な奇跡は起きないかもしれません。しかし真面目に、誠実に誰かの傍に居続けること。その「公務員の鑑」とも評された静夜の姿勢は、私たちサラリーマンが忘れかけていた仕事に対する誠実さそのものです。
エピローグで描かれる、星の見えない漆黒の空。しかしその闇があるからこそ、私たちは自分の中にある小さな輝きを信じることができる。読後、自分の歩んできた「つまらない」はずの数十年が、少しだけ愛おしく感じられるような滋味深い名作でした。
