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【短編恋愛小説】名前のない恋(後編)

新しく作成した無料マガジンです。
これからドンドン増えていく予定です。


のぶの短編恋愛小説集です。
300円で現在27作品が読み放題です。


今回の新企画『💓あなたの恋愛談を教えてください💓思い出の恋愛を短編恋愛小説にさせていただきます』に応募してくださった中田愛美さんの恋愛談をもとに作成した小説です。

中田愛美さんのアカウントはこちら。

最新の記事はこちらです。


原案:中田愛美
制作・構成:のぶ
補助:ちゃぴお


名前のない恋(後編)


 毎日の電話は、いつしか私の生活の中心になっていた。

 特別な話をしているわけではない。
 仕事の愚痴、今日見たニュース、どうでもいい冗談。

 それなのに、彼の声を聞くと不思議と呼吸が整った。

 まるで、乱れていた心の輪郭が、少しずつ元の形に戻っていくようだった。

「今日、ちゃんとご飯食べた?」

 彼はいつも同じことを聞いてくる。
 まるでそれが合言葉みたいに。

 私は笑って「食べたよ」と嘘をつく日もあった。

 でも彼はたぶん、気づいていたと思う。
 それでも責めることはなかった。

 ただ、少しだけ優しい声で言う。

「ちゃんと食べなよ」

 その一言が、なぜか胸に残った。

 ある夜。

 いつものように電話をしていた。

 窓の外は静かで、街の音も遠かった。
 私はベッドに横になりながら、ぼんやり天井を見ていた。

「今日、何食べた?」

「コンビニのお弁当」

「また? ちゃんと食べなきゃダメだよ」

 そのやり取りは、もう何十回も繰り返したものだった。
 なのに、その夜だけは少し違って聞こえた。

 この時間が、当たり前じゃなくなる日が来るかもしれない。

 そんな予感が、ふいに胸をよぎった。

 私はそのまま、言葉を探した。
 でもうまく見つからなかった。

 沈黙のあと、彼が小さく息を吐いた。

「ねえ」

 その声は、いつもより少しだけ低かった。

「ん?」

「俺たちって……何なんだろうね」

 心臓が、静かに一度だけ強く打った。

 ずっと避けてきた問いだった。

 答えを出さないままでも、壊れない関係だと思っていた。

 でも本当は違ったのかもしれない。

 名前がないまま続く関係ほど、曖昧で、繊細で、壊れやすいものはない。

「分からない」

 私は正直にそう言った。

 少しの沈黙。
 その間、彼の呼吸だけが耳に残っていた。

 怖い沈黙のはずなのに、不思議と逃げたくはなかった。

「でも……」

 私は続けた。

「あなたがいない生活は、もう考えられない」

 言葉にした瞬間、自分でも驚くほど静かだった。
 告白というより、事実の確認に近かった。

 電話の向こうで、彼が小さく笑った。

「俺も同じ」

 その一言で、何かがほどけた。

 結ばれるというより、ずっと前から結ばれていたものに気づいたような感覚だった。

 その日を境に、私たちは少しずつ変わっていった。

 恋人と呼ぶにはまだぎこちなくて、
 それでも確かに、距離は近くなっていった。

 「おやすみ」は変わらないのに、
 その言葉の重さだけが少しずつ変わっていく。

 やがて私は気づいた。

 彼はもう「毎日話す人」ではなく、
 私の人生の前提になっていた。



 それから数年後。

 私は彼と結婚した。

 今、隣にはあの頃と同じように、何気なく笑う彼がいる。

「まさか結婚するなんて思わなかったよね」

 そう言うと、彼は少しだけ懐かしそうに笑った。

「最初は恋人になる気なかったもんな」

 本当にそうだった。

 恋をしようとして始まった関係ではなかった。
 未来を約束していたわけでもなかった。

 ただ、毎日の電話があった。

「おやすみ」と言える相手がいた。

 それだけだった。

 でも今なら分かる。

 あの時間は、何もなかったのではなく、
 すでにすべてが始まっていた時間だったのだと思う。

 大きな出来事よりも、

 何気ない日常の積み重ねの方が、
 人の心を深く結びつけることがある。

 私たちの恋には、最初から名前がなかった。

 けれど振り返れば、あの曖昧な時間こそが一番確かな「愛」だった。

 名前なんて、後からついてくるものなのかもしれない。

 大切なのは、その人がいることで、
 明日の自分が少しだけ優しくなれるかどうか。

 私にとって彼は、

 恋人になる前から、ずっと特別な人だった。

 そして今も、そのままだ。

 完


最後までお読み頂きありがとうございました。
そして中田愛美さん、この度は大切な恋愛談を教えて頂きありがとうございました。


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詳しくは下記の記事をご覧ください。


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