【短編恋愛小説】名前のない恋(前編)
新しく作成した無料マガジンです。
これからドンドン増えていく予定です。
のぶの短編恋愛小説集です。
300円で現在27作品が読み放題です。
今回の新企画『💓あなたの恋愛談を教えてください💓思い出の恋愛を短編恋愛小説にさせていただきます』に応募してくださった中田愛美さんの恋愛談をもとに作成した小説です。
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原案:中田愛美
制作・構成:のぶ
補助:ちゃぴお
名前のない恋(前編)
「恋人を探しているわけじゃないんです」
マッチングアプリで出会った彼に、私は最初からそう伝えていた。
少し前までの私は、恋愛に疲れていた。
誰かを好きになることが嫌だったわけじゃない。
ただ、期待して、傷ついて、また立ち直る……
その繰り返しに少し疲れていただけだった。
だから、アプリを始めた理由も
「素敵な恋をしたい」なんてものではなかった。
ただ、誰かと話したかった。
仕事から帰った夜。
部屋に一人でいる時間。
テレビをつけても、スマホを眺めても、
なぜか心にぽっかり穴が空いたような気がする日があった。
その穴を埋める方法が分からなかった。
そんな時、たまたま目にしたのが彼のプロフィールだった。
派手な自己紹介でもなかった。
自分を大きく見せるような言葉もなかった。
ただ、
「ゆっくり話せる人と出会えたら嬉しいです」
その一文が、なぜか心に残った。
最初のメッセージも、特別なものではなかった。
好きな食べ物。
休日の過ごし方。
最近あった出来事。
そんな他愛のない会話。
でも、不思議だった。
初めてやり取りした人なのに、無理に会話を続けようとしなくても自然に言葉が出てきた。
気を遣っているはずなのに、疲れなかった。
むしろ、少しだけ心が軽くなっていく感覚があった。
そして数週間後、私たちは初めて会った。
待ち合わせ場所に現れた彼を見た時、胸が高鳴った……
なんてことはなかった。
でも、嫌でもなかった。
ただ、説明のつかない安心感があった。
「初めまして」
そう言った彼の声は、メッセージの時と同じ温度だった。
近くのカフェに入り、二時間ほど話した。
恋愛の話はほとんどしなかった。
仕事のこと。
家族のこと。
昔好きだったもの。
今、頑張っていること。
気づけば、時間はあっという間に過ぎていた。
「今日は楽しかったです」
帰り際、彼はそう言った。
「私もです」
それだけだった。
付き合おうなんて言葉はなかった。
また会おうという約束も、曖昧なままだった。
でも、その夜。
彼から電話がかかってきた。
「少しだけ話しませんか?」
それが、すべての始まりだった。
最初は本当に短い通話だった。
今日あった出来事。
仕事の愚痴。
どうでもいい笑い話。
気づけば一時間。
そして次の日も電話をした。
また次の日も。
いつの間にか、それは習慣になっていた。
不思議な関係だった。
恋人ではない。
でも、毎日声を聞く。
朝起きれば、
「ちゃんと眠れた?」
仕事が終われば、
「今日もお疲れさま」
夜には必ず、
「じゃあ、また明日ね」
「おやすみ」
その言葉を聞いてから眠る。
そんな生活が当たり前になっていった。
友達に話すと、みんな不思議そうな顔をした。
「それって、もう付き合ってるんじゃないの?」
私は笑って答えた。
「違うよ」
本当にそう思っていた。
私たちは恋人ではなかった。
告白もしていない。
手をつないだこともない。
なのに、彼は確かに私の日常の中にいた。
気づけば、彼の存在は「特別」ではなく「必要」になっていた。
嬉しいことがあれば、一番に伝えたい。
悲しいことがあれば、一番に聞いてほしい。
そんな存在。
でも、その関係には名前がなかった。
恋人でもない。
友達とも違う。
家族でもない。
ただ、「大切な人」。
それだけだった。
私は、どこかで分かっていた。
この関係は、いつか終わるかもしれない。
名前がないものは、形を失いやすい。
それでも、やめられなかった。
彼の声を聞く夜が、あまりにも心地よかったから。
そして私はまだ知らなかった。
この「名前のない関係」が、やがて人生そのものを変えていくことを。
後編に続く。
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