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【第54話 初恋の人と卓球】初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺

中学一年生・波乱の部活編

第54話 初恋の人と卓球

 つねちゃんの実家を訪れてから、あっという間に四ヶ月が過ぎた。

 季節は夏を越え、二学期。

 俺はつねちゃんと再会できたことで心のつかえが取れ、学校生活にもすっかり慣れ、『普通』の中学一年生として毎日を過ごしている。

 あれから夏休みに一度だけ、つねちゃんと約束していた『市民体育館』で卓球をした。

 試合形式で何度もラリーを重ねたが、結果は全勝。

 つい俺も本気を出してしまったのだ。

 負けるたびにつねちゃんは悔しそうな顔をして、

「もう一回!」

 と何度も挑んできた。

 それでも結果は変わらず、最後には肩を落としながら笑っていた。

「先生のスマッシュをこんなに簡単にカットで返すなんて……もしかして隆君、天才卓球少年じゃないの?」

 目を輝かせながらそう言った、あの嬉しそうな笑顔が今でも頭から離れない。

 それ以来、直接会うことはできていない。

 お互い忙しく、なかなか予定が合わないからだ。

 その代わり、月に数回は電話で話をしている。

 一度実家へ伺い、ご両親とも顔見知りになったおかげで、以前より気兼ねなく電話できるようになった。

 話す内容は、お互いの近況報告がほとんど。

 それだけでも、俺は十分幸せだった。

 ――いや。

『幸せだと思うようにしていた』と言った方が正しい。

 あまり欲張ると、また『前の世界』へタイムリープしてしまうんじゃないか。

 そんな根拠のない不安が、今でも心のどこかに残っているからだ。

 もちろん、本当にそんなルールがあるかどうかは分からない。

そ れでも慎重になってしまう自分がいた。


 一方で、学校生活も順調だった。

 放課後は塾へ通い、部活にも全力で取り組んでいる。

 特に勉強は必死だった。

 今の俺の頭の中は、小学六年生一学期で止まっている。

 少しでも遅れを取り戻さなければならない。

 幸い、高山に紹介してもらった塾は『予習』ではなく『復習』を重視する授業だった。

 『前の世界』では「もっと予習をしてほしい」と不満ばかりだったが、今の俺にはこれ以上ない環境だった。

 塾長の川口先生は、普段は保育園の園長を務めながら夜は塾を経営している少し変わった先生だ。

 大学生のアルバイト講師たちもみんな優しく、一つひとつ丁寧に教えてくれる。

 おかげで、この四ヶ月で学力はかなり追いついてきた。

 塾には高山や石田だけでなく、卓球部の仲間や小学生の頃から仲の良かった女子たちも通っている。

 ライバルが多い環境だからこそ、勉強も楽しかった。

 一学期の中間テストは散々だったが、期末テストでは五教科平均六十五点。

 遅れを考えれば、十分すぎる結果だった。

 俺の最終目標は平均八十点。

 それくらい取れなければ、『前の世界』で通っていた高校には合格できないだろう。


 部活も大きく変わった。

 夏の大会を最後に三年生は引退し、卓球部は二年生キャプテン・羽和はわさんを中心とした新体制になっていた。

 しかし、一年生の待遇は相変わらずだ。

 球拾い、筋トレ、マラソン。

 まともに卓球台に立てる時間など、ほとんどない。

 俺たち一年生の指導を担当しているのは、二年生の井口さんと今田さんだった。

 井口さんは守備型の『カットマン』。

 今はまだレギュラーではないが、人一倍努力家で、後輩思いの優しい先輩だ。

 『前の世界』で俺がカットマンを目指したのも、この人に憧れたからだった。

 一方、今田さんは正反対だった。

 わがままで、すぐ威張る。

 強い相手には愛想よく振る舞うのに、自分より立場の弱い後輩には容赦がない。

 俺が一番嫌いなタイプの人間だった。


 その日も朝から雨。

 体育館が使えないため、俺たちは校舎の廊下で『筋トレ』という名の『しごき』を受けていた。

 しかも担当は今田さん。

 素振り、腕立て伏せ、腹筋、背筋。

 階段ダッシュ、廊下ダッシュ。

 令和なら間違いなく問題になるような練習も、この時代では当たり前だった。

 俺たちは全員、廊下に倒れ込みながら肩で息をしている。

「はぁ……もう無理だ……」

 高山――いや、ケンチが小声でつぶやく。

「今日は今田さんだからな……特にきつい」

 俺も周りに聞こえないように返した。

「俺……卓球部辞めようかな」

「えっ!? 何言ってるんだよ、ケンチ! まだ二学期が始まったばかりだろ!」

「でも、このままずっとこんな事ばっかりだったら……俺だけじゃなくて、他にも辞める奴が出てくるぞ」

 そこへ森重、村瀬、大石も加わってきた。

「ケンチの言う通りだ。このままじゃ何人か辞めるかもしれねぇ。でも俺は絶対辞めないけどな」

 勝ち気な森重が言う。

「今年の一年生って、ここ数年で一番人数が多いらしいしね」

 温厚な村瀬も続けた。

 すると、大石が鼻で笑う。

「辞めたい奴は辞めればいいじゃねぇか。一人減るたびに俺がレギュラーになれる確率が上がるしな」

 その言葉に、俺は思わず声を荒げた。

「おい、テツ! その言い方はないだろ! 部員が減らないとレギュラーになれないくらい、自信がないのか!?」

「何だと!?」

 その瞬間だった。

「おい、お前ら五人!」

 今田さんの怒鳴り声が廊下に響く。

「さっきからコソコソ何話してるんだ!? 俺の悪口でも言ってたんじゃないだろうな!」

「い、いえ! そんなことは……」

 俺が答えると、今田さんは一瞬だけ嫌な笑みを浮かべた。

「うるせぇ!! お前ら五人、壁に背中を付けろ! 両手を頭の後ろで組んで、膝を九十度に曲げろ!!」

――地獄の時間が、また始まろうとしていた。

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