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【物語】心の余白ーー余裕がある人は、なぜうまくいくのか/第1話

これは、
「心の余白」を知るまでの、ひとつの物語。


第1話

あの人は、なぜあんなに楽しそうなんだろう

これは、まだボクが「余裕」という言葉の意味を、何も分かっていなかった頃の話だ。

ある日のランチタイム、カフェの常連さんがこんな話をしていた。
「近くのスーパーにキッチンカーのすごいクレープ屋さん来てるんだって。」
「へえ。」
「めちゃくちゃ並ぶらしいよ。二時間待ちとか。」
「二時間?」
「しかも甘いのだけじゃなくて、惣菜系のクレープが美味しいらしい。」
その話を聞いた時、ボクは少しだけ興味を持った。
甘いものはあまり得意じゃない。
でも、惣菜系なら食べてみたい。
その日、ランチタイムが終わったあと、ボクはそのスーパーへ向かった。

駐車場に着いて、すぐに足が止まった。
「……は?」
キッチンカーの周りに、人が群がっていた。
田舎町ではまず見ない光景だった。
子ども連れ、学生、夫婦、年配のお客さん。
みんな楽しそうにメニューを見ている。
そして注文口の前に立てかけられたPOPに、こう書いてあった。
『ただいま二時間待ち』
「マジか……」
思わず口に出た。
ディズニーランドじゃあるまいし。
クレープで二時間待ち?
半信半疑のままメニューを見たボクは、さらに目を疑った。
種類が多い。
いや、多すぎる。
 『......これ、100種類以上はあるな。』
しかも人気ランキングの上位が、チョコバナナとかいちごホイップじゃない。
一位、ハムエッグチーズカレー。
二位、生ハムと玉子のイタリアンサラダ。
「何だこれ……」
クレープと言ったら甘い系のはずなのに、妙に美味しそうだった。
注文口が空いたタイミングで、ボクは声をかけた。
「すみませーん、注文いいですか?」
すると、中で作業していた男性スタッフが、ちらっと顔を上げた。
「あっ、ハニ丸くんだ!」
「……え?」
その声に反応して、もう一人の女性スタッフも振り向く。
「あー、こんにちはぁ! ハニ丸くん来てくれたんだぁ。ご来店ありがとうございます。」
そこにいたのは――
幸せ之助さんと、リナさんだった。
「ええええっ!?」
ボクは思わず本気で声を出してしまった。
リナさんが笑う。
「びっくりした?」
「いや、そりゃびっくりしますよ! えっ!? お二人、何してるんですか!?」
幸せ之助さんがきょとんとした顔で言った。
「え? クレープ屋さんだけど。」
「それは見れば分かります!」
「おお、ツッコミが早い!成長してるね、ハニ丸くん。」
「何の成長ですか!」
忙しいはずなのに、幸せ之助さんは妙に楽しそうだった。
リナさんが手際よく作業をしながら説明する。
「私たち、仕事で最近この町に来たって話したでしょ? その仕事がこれなの。」
「いやいやいや、聞いてないですって!」
「聞かれなかったし。」
「聞きます!? 普通、毎晩カフェに来る仲良し夫婦が、昼間は二時間待ちの人気キッチンカーやってるなんて思わないでしょう!」
幸せ之助さんは「たしかにぃ」と他人事みたいにうなずいた。
その反応にちょっとイラッとしながらも、ボクは結局、一番人気のハムエッグチーズカレーを注文した。
受け取りは二時間後。

時間になって取りに行くと、ちょうどできたてだった。
紙に包まれたクレープは、見た目からしてもう美味しそうだった。
車に戻って一口かじった瞬間、思わず目を見開いた。
「……うまっ!?」
言葉が漏れた。
所詮クレープ。
正直、どこかでそんなふうに思っていた自分が恥ずかしくなった。
生地の香ばしさ。
中の具材のバランス。
熱さ、食感、香り。
全部が想像を軽く超えてきた。
気づけば夢中で食べていた。
食べ終わっても、まだ食べたかった。

その日のディナータイム。
ボクはカフェで働きながら、ずっとそのことを考えていた。
あの味。
あの熱気。
あの人だかり。
そして何より、あの二人の空気。
忙しいはずなのに、なんであんなに楽しそうなんだろう。
なんであんなに余裕があるんだろう。
売れてるから余裕があるのか。
余裕があるから売れてるのか。
頭の中で、そんなことばかり考えていた。
ラストオーダーが近づいた頃、待っていた二人が店に入ってきた。
リナさんがいつものように言う。
「こんばんは。」
その横で幸せ之助さんが、なぜか誇らしげに胸を張った。
「こんばん、ニャ〜〜〜!!」
最近のこの人の入店の挨拶は、だいたいこれだった。
いつもなら、
「はい、こんばんニャ。いらっしゃいませ。」
と返すところだった。
でも、その日は違った。
昼からずっと高ぶっていた何かが、その姿を見た瞬間に口から飛び出した。
「どうかボクを弟子にしてください! お願いします!」
店内が、しん、と静まった。
幸せ之助さんは数秒固まったあと、両手をぶんぶん振った。
「もうお弟子さんは取らないことにしてるので、全力でお断りします!」
「そこを何とか! お願いします!」
「やだやだやだやだぁ〜!」
「やだくないです! やだくないやだくないやだくな〜い!」
「チミに師匠と呼ばれる筋合いはな〜い!」
「まだ呼んでないです!」
「今、心で呼んだでしょ!」
「呼んでませんよ!」
「呼んだ!」
「呼んでない!」
その時だった。
カウンターの端に置かれていた、小さな三毛猫の置き物が、カタッとわずかに揺れた。
ほんの一瞬だった。
誰も気づかなかった。
気づいたのは、たぶんボクだけだった。
 『......今、揺れた?』
そう思って視線を向けた次の瞬間、リナさんがすっと二人の間に入った。
「はいはい、二人とも落ち着いて。お店の中だから。」
その声に、ようやくボクは我に返った。
けれど、もう遅かった。
胸の奥では、何かが確かに動き始めていた。
あの人みたいに、なりたい。
売れるとか、成功するとか、そういうことだけじゃない。
あんなふうに、忙しいのに笑っていられる人。
誰かを喜ばせながら、自分も楽しそうにしている人。
外側じゃなく、内側から満たされているように見える人。
あの余裕の正体を、ボクは知りたかった。
そして、その夜の閉店後。
誰もいないはずの店内で。
ボクは、はっきりと声を聞くことになる。
「……お前さん、だいぶ余裕がないようじゃな。」
声のする方を振り向くと、
そこには、あの三毛猫の置き物があった。





🌿この物語は、身近なコリから
健康、社会、生き方、考え方とテーマが広がった
「日本の未来を変えるかもしれない話リメイク版」から生まれました。

“余裕がある=幸せに繋がる”という考えを、
物語として、
そっと置いています。


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