4年間同じ席に座って制作会社の仕事を見ていた話。そして、作家へ…
もう二度と制作会社には入りたくない。
仕事が激務。
お客さんの都合に振り回される。
社員に変わった人が多い。
薄給。
いくら仕事をしようが給料は増えない(残業代も支払われない)。
会社にルールなどなく無法地帯。
それでも言わせてもらうなら、
おもしろかった。
普通の会社に勤めていたら、ぜったいに味わえない体験がある。
小さな奇跡からお話させてもらうと、在籍中の4年間、
席が変わらなかった。
それってすごいの……?
地味にすごいと思う。
転職でいろんな職場にいたけど、3年以上在籍して席替えがなかったのはこの会社がはじめてだ。
制作会社は、普通はあるイベントが起こらず、普通はないイベントが起こる。
わたしは、長細いオフィスの、
前後で言うと、真ん中の列
横の位置でいうと、奥から3番目
の席にいた。
その席で、わたしは4年間、不思議なものを見て、聞いて、感じた。
制作会社には、謎の設備がある。
正面に見えるのは、ぶら下がり健康器だ。
制作会社ゆいいつの福利厚生。
今でいう健康経営。
今日もガシャコーンと誰かがぶら下がる。
制作会社には、必要以上に出会いと別れがある。
制作会社は社員が辞めまくるので、わたしの左側の人がしょっちゅう変わった。
東大出のプライドゆえ顧客とずっとケンカしている女性社員がいた。
メガネ屋で接客してただけの謎の経歴の人がいた。
いつもスルメを食ってるおっさんもいた。
制作会社には、謎のサウンドがある。
いつもどこかで誰かが吠えて叫んでいる。
社員たちはここを動物園と表現する。
荒ぶる社員たちの魂を鎮めるため、社長の知人のシャーマンが自主製作した謎音源が流れていたこともある。
制作会社には、いわくつきのエピソードがある。
桜の季節に社内のイベントを行うと、お盆が過ぎるころ、社員が狂暴化する(社長談)。あるときから花見は禁忌となった。
「魔の席」と呼ばれる場所がある。この場所に座ると、社員がかならず悪に染まる。トラブルを起こす社員が続出し、この席は使用禁止となった。
制作会社は魔界だ。
力のない人間は、半年もたない。
1年で辞める人間も多い。
なんとか業務に適応できた人間でも3年で辞めていく。
そう考えると、わたしの4年はすごいのだ。
ずっと自分の実力によるものだと思っていた。
でも、もしかしたら――
あの席のおかげかもしれない。
今ではそんなことを思ったりもする。
魔の席が存在するのなら、加護の席だってあるはずだ。
右どなりの同僚がやさしかった。
エアコンの風が直接当たる位置じゃなかった。
それどころか、みんなが嫌がったスルメの匂いを流してくれてたのかも。
部長の席と斜めの位置だったせいか、いい関係を保てた。
正面は「対立」、横は「協力」の位置関係と言われている。斜めはバランスのいい位置。
それから、もうこれは位置の問題じゃないかもしれないけど、
あの場で声を出せば、
仕事仲間の誰とでもコミュニケーションがとれた。
小さな制作会社の最大の強みだ。
いいところだってあるんだ。
どうか、わたしの席に座っている誰かには、制作会社を楽しんでほしい。
その席には強みがある。加護がある。
こう書くと、譲るのが惜しい気がしてくるから不思議なものだ。
席。
あのときは助けてくれてありがとうな!
わたしは新しい席で新しい物語を書くよ。
笑えて、泣ける、最高のストーリーを。
あの日々が味方なんだから、絶対に書ける。

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