前世はネコ? noteで、仕事で鍛えた言語化能力が1歳児の思考をよみがえらせる(エッセイ / #いまあなたに伝えたいこと)
小さなころの記憶がほとんどない。
保育園の記憶をやたら細かく話せる人を見ると、おおおと思う。
わたしは幼少のころ何を考えて生きていたのだろう。何も考えず、ぼーっとしていた気もする。
ただ、ひとつだけ鮮明な記憶がある。
記憶のほとんどのボールが「眠い」とか「お腹空いた」とだけ書いてあるのに対し、このボールだけ、マイクロチップが内蔵されている。
……………………
保育園に入る前、はいはいで動きまわっていたころ。1歳ごろと推測される。
この貴重な思考メモを伝えるには、大人のわたしが当時の状況を説明する必要がある。
父は公務員、母は専業主婦
わたしたちは古い公務員住宅で暮らしていた
当時、世間は好況だったが、公務員の給料は安く、お金のない家庭だった
生活はカツカツだったはずなのに、ある日、家に大きなステレオが置かれた。かなり奮発して買ったのではないかと思う。
そのスピーカーは、1歳のわたしが座ったときに頭と同じくらいの高さがあった。
当時の一般的な仕様なのか、スピーカーの表面は黒くてもこもこした素材に覆われていた。
1歳のわたしは当然、「これなんだろー」と思って近づく。
スピーカーの表面に手を伸ばす。黒いもこもこをつまむと、1歳の力でもぶちっと簡単に引っこ抜けた。
「だめだよ」と言われ、引き離される。
わたしは「そうか、だめなのか」と思った。
その日はスピーカーに手を出さなかった。
ところが翌日、なぜかわたしはノーマークにされた。
お父さんもお母さんもいない。
暇だったので、スピーカーのところに行った。
手を伸ばす。黒いもこもこをぶちっと引っこ抜いた。
「昨日、怒られちゃった。ぶちっとしちゃだめなんだ」
わたしはまたぶちっと引っこ抜いた。
「こんなことしちゃだめなのになー」
またぶちっと引っこ抜く。
「怒られちゃうよー。あと少しにしておこう」
ぶちっ、ぶちっ。
こんなときに限って両親は現れない。
気づけば、引っこ抜く場所がなくなっていた。
わたしがお座りするまわりには、黒いもこもこが、散髪をした髪の毛のように散らばっていた。
「あわわ、大変なことになっちゃった。ぼく、怒られてしまうのでは……」
ようやく、両親が現れた。
衝撃の光景だったと思う。わたしは抱っこされてどこかに連れていかれた。
たくさん怒られると思ったのに、なんと、お咎めはなかった。
相手からしたら、だーとか、あーとか言ってる赤ちゃんだからだろう。
言葉の通じないネコのようなもの。
でも、ぼくはこう考えてたんだ。
「ああー、悪いことをしたー。少しくらい怒ってもよかったのに。悪いことをしたってわかってるから。楽しかったんじゃなくて、暇だったから引っ張ってたんだ。途中で止めようと思ったのに、ぜんぶとっちゃった。ごめんね。お父さんの大事なものなのに」
(※ 当時の心の中、本当にこんな感じ)
両親がこの事件をどう受け止めたのかはわからない。
わりとすんなり流れたのかもしれないし、その後音楽がかかったことがないことから察するに、トラウマ級のショックだったのかもしれない。
これまでずっと、音楽に縁のない家庭だなー……と思っていたが、犯人はわたしの可能性がある。
「わかってたんだよー、駄目だって。前世がネコだったのかな。それとも、脳がまだ動物に近かったのかも」
「ああ、ネコの気持ちもわかってしまった。大胆に家を散らかすネコに、悪気はない。楽しくてそうしたんじゃなくて、自分を止められないだけ」
「それにしても、怒らずに自制できたふたりはすごいね。今ならどんなスピーカーも買ってあげれるから遠慮なく言ってね」
そう考えるのは大人になったわたし。

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