転職の賢者の教え「仕事の説教をまともに聞いてはいけない」
仕事の説教はまともに聞いてはいけない。
仕事の説教? 相手はだれなの?
そうだね、特定の誰かというわけじゃないんだ。人々の意識の集合体を「会社」というふうに擬人化するね。会社はときにAさんに乗り移り、ときにBさんになって現れる。
みんな、自分の都合で怒っているだけ。都合が悪くなると、びっくりするくらいの手のひら返しをする。わたしが極限までそれに逆らった話。
今でこそ転職が当たり前になっているけど、少し前までの日本では、転職は罪だった。会社はそれを絶対悪と断じた。会社に長く勤めていればいるほど正義。
ちょっと考えれば、そんなわけないことくらい誰でもわかるのだが、本気でその理屈がまかり通っていた。
一社辞めると軽犯罪。二社辞めると重罪。三社辞めると極刑。
極端にいうと、そんな感じ。
そう、これが転職ハードデイズ
転職回数の増えたわたしは責められ続けた。
中途採用の面接で責められ、味方のはずの転職コンサルから責められ、たいして知らない同級生から「ぜったいおまえを許さない」と責められた(こちらもおまえを一生許しません笑)。
頭がおかしくなりそうだった。
これは社会的なマインドコントロールだ。
何も仕事をしていないのに、会社で高給をむさぼる人がなぜ泥棒ではなく、正義と見なされるのか?
今の仕事に向いていないのなら、少しでも適正のある職場に移ったほうが全員にとってプラスではないのか?
どうして、会社に長くいることが無条件に正義で、その反対は悪になってしまうのか??
あまりに意味不明なので、わたしは一度、そのマインドコントロールに乗ってみることにした。
カイシャニ、長ク勤メルコトガ、正義デス。
苦難の末、創立90周年を迎える会社に転職することができた。わたしの目的は「長く勤めること」。心を無にして、それだけを行動原則とした。
当初、会社もそれを歓迎した。法外なくらい、社歴が重視される会社だった。
ところがその会社が同業から買収されることになる。
独占禁止法の観点から数年の観察期間を経たのち、いよいよ会社が動き出した。
はじめは、年齢制限を付けた早期退職の募集。すぐにその対象が全員に広がった。
長く勤めろ、から、早く辞めろへ。
会社は態度を一変させた。
社員たちは早期退職制度になかなか応募しない。よそでやっていける能力がないことがわかっているからだ。草食系ブラック企業は、社員を廃人同然にする。
草食系ブラック企業の恐ろしさについては、こちらの記事を読んでみてね(今回の記事の会社がモデルだよ)
社員たちは、人事部から定期的に呼び出しを受けることになった。週に1~2回、個別に面談の場が設けられ、退職を勧められる。
法律の目があるため、強制することはできない。あくまで本人から「制度に応募する」と言わせる。
毎週、毎週ネチネチやられているうちに、多くの社員が脱落していった。わたしの職場の同僚も「こんな会社に関わるのは時間の無駄」と言って、去っていった。
会社側のタイムラインも迫っている。面談もいよいよ追い込み。ほとんどの社員は、すでに会社を去っていた。
最後に立っていた者は、なんと、わたしだった。
首切り役の役員は焦った。
「なんで、君、頑なに辞めないの!」
わたしは首切り役の言葉をぽいぽいと流してきた。当たり前だ。こちらはあえてマインドコントロールに乗ってきたんだ。
長く勤めていればいるほどいい。
あなたたちがずっとわたしに言ってきたことじゃないか。どれだけ説教されたと思っている? 憂さ晴らしに酒の肴にされてきたんだぞ?
逆らい続けて申し訳ない。
— 焔(ほのむら)ふぁい (@rockstar_narite) July 3, 2025
尾崎豊も高齢化してるんだ。
首切り役はこれまでとまったく逆のことを言いだした。
「君ほどのキャリアがあれば、どこでもやっていけるんじゃないか?」
「わたしには明るい未来が見える!」
「会社なんてずっといる必要はないんだ!」
「もっと合理的に考えないと」
なんとも都合のいい話だ。自分のことしか考えていないのが丸わかりだ。
わたしは会社に勝ってしまいそうになった。しかし、そんなつもりは最初からない。マインドコントロールはいつでも解けるので、リミット直前でぱちんと指を鳴らし、制度に応募した。
首切り役はさぞほっとしたことだろう。
会社に長く勤めれば勤めるほどいい?
そんなわけないじゃないか。はじめから知っていた結論を得て、わたしは会社を後にした。
その背中には、転職の罪がまたひとつ増えていた。

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