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「蜂蜜色のアップルパイ〜黒猫のバニラ物語〜#1」

「猫ちゃんうちにおいでよ、こんな所にいたら凍えちゃうよ」

人気のない12月の終わり。ダークグレイの雲が立ち込めプラタナスの落ち葉が乾いた風に乗ってかさかさと音をたてて踊る。行くあてもなく公園のベンチの下で震えていた吾輩を彼女が拾い上げてくれたのだ。

彼女の肩にかけていた赤と緑のチェック柄のストールで吾輩を包み、自宅手前のコンビニでミルクを買う。
気温が一桁台に下がり、ストールなしでは彼女も寒いだろう。お腹も空いてるはずなのに自分の食事は買わずに吾輩に飲ませるミルクだけを買っている。
優しくされたのは久し振りである。
吾輩の母猫はとても愛情深く、母猫は我が子である3匹の子猫たちに、自分の生きる背中を見せながら「生きて行かれる術」の全てを教えてくれた。
母の愛にも似た優しさを持つ彼女は、吾輩を包み込んでくれたのだ。


「今日からここが君のお家だよ」
仕事で疲れているはずなのにマンションに着くなりリビングのソファにトナカイ柄のブランケットを敷き、吾輩の寝床を作ってくれたのだ。
「さあ、君は安心して朝までおやすみ」
ミルクを少しだけ飲み、あったかい寝床で吾輩は朝まで眠り続けた。公園のベンチ下では1時間に一度は目が覚める毎日で夢を見ることなど一度もなかったが、ふかふかのソファでブランケットに包まれた吾輩は、母猫と兄弟猫と過ごした幼い頃の夢を見ていた。

こうして飼い主と吾輩の共同生活は始まることになるのだが、命の恩人である飼い主に恩返しをしなくては吾輩の気持ちがすまない。
吾輩が飼い主に出来ることは何だろう……と数日かけて彼女の行動パターンを観察することにしたのだ。

吾輩に" バニラ "などと可愛らしい名前をつけてくれた飼い主は、恋に恋する夢見る少女の空想家。彼女の生業は小説家である。吾輩といえば「バニラ」という名前なのだが、全身黒い毛でおおわれ瞳の色はゴールドなのだ。兄弟猫は茶と黒のぶちなのだが、母猫と吾輩は黒一色なのである。


飼い主といえば執筆作業中のノートパソコンを前にため息ばかりついている。
飼い主の足元でみゃーと鳴いてみるが彼女の耳には届かない。パソコン前に移動してしっぽをぱたりぱたりと鳴らしてみてもまだ飼い主はため息をついている。


「あら、バニちゃん……私のことをなぐさめてくれてるの?ありがと」
と言ってまたため息ひとつ。執筆がいまひとつ進まないのか、それとも恋愛事情が思わしくないのか。


飼い主のお手伝いをと思っても、食事作りや洗濯が出来るわけでもない。本来なら吾輩が落とした黒い毛は自分自身で掃除すべきなのだが、お掃除ロボットが吾輩の代わりに隅から隅まできれいに掃除をしてくれる。吾輩はお掃除ロボットの上に乗って家の中を見回りするだけだ。いやいや、これでは飼い主のお手伝いをしていることにはならない。


お昼過ぎても飼い主はため息をついている。だが朝から引き続きパソコンでインプットをしているようなので、仕事は順調に進んでいるとみえる。


となると、飼い主の恋愛問題が原因でため息ついてるのではないのか。吾輩はこの家の住人になるまでは公園のベンチの下を住処にしていたから、
ベンチで語り合う恋人達のストーリーが自然と耳に入ってくる。なので吾輩は恋愛評論家なみに恋愛事情には詳しいのである。


……そうだ!
吾輩は飼い主の" 床に転がるため息のお掃除係 "と、" 猫ヒーリング "で癒すことが出来るのではないか。一つ目の恩返しの方法が見つかった!これで今夜はよく眠れそうだ。あとは飼い主の仕事が終わるのを待つだけだ。


「もう日が暮れたよ、お仕事終わりの時間だよ」
そろりそろりと吾輩は飼い主のパソコンのキーボードの上に移動することにしよう。そうすると飼い主はキーボードが打てなくなるのでね。お仕事の邪魔をしてるのではないよ。吾輩がやめさせないと飼い主は夜中まで執筆を続けてしまうのだから。仕事のしすぎは身体にこたえるよ、ほどほどにね。

           《 続く 》



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まあな 19歳年下ツインレイ&トリプルのお話、黒猫物語、何気ない家族の日常などを描いています。 お読みいただき、ありがとうございました! もしよろしければサポートをお願い致します。 いただいたサポートはより一層、文筆活動に励むために使わせていただきます!