短編『窓』4800字前後
ノベルジャムの練習用に書いたこの小説。
初稿2.5時間で書き上げました。
テーマは知り合いに適当に振って貰った「窓」。
案の定、たくさん「窓」が出てきます笑
何個あるかしら、なんて数えてもらいながら読んでも面白いかも…?
ではでは本編へどうぞ!
「ウッソだろう?!」
あんなに勉強して検定を取ったエクセルの画面ボタンがアップデートで変わってしまった。
お陰で何がどこにあるか、覚え直しだ⋯。
「だーからコマンド入力覚えりゃ良いのにって、何度も」
隣でプログラミングが趣味の那須田が嘲笑った。
「クソおおおお! プログラミングって! 英語じゃねぇか?! 俺は! 日本男子だから⋯!!」
「プログラミングとコマンドは違うし。そもそも、敗戦後からずっと議論されてた英語教育の是非をこの場でしても意味ねぇだろう⋯そもそもWindowsはアメリカの会社だし、その会社のソフト使うんなら英語は操れたに越したことないよな、っと!」
飲みきったレッドブルを空き缶捨て場へ投げ込む。
2滴、ゴミ箱に掛けてあるビニール袋へレッドブルが飛び散ってから、空き缶はゴミ箱に収まった。
「越したことはない。マスト…だよな? ベスト? じゃないもんな?」
「中学一年生なの?」
「大学一年生、のはず⋯」
大学のパソコンルームは、俺たちの他に誰もいない。
酷暑を避けたくて皆、図書室へ殺到しており、エアコンの効きが悪いパソコンルームは不人気だった。
「へへへ、お前、よくココの大学受かったよな?」
「⋯⋯じいちゃんが、たくさん献金してた、らしい」
「え⋯」
「いや俺も入学祝い貰った時に聞かされて⋯衝撃だったよ。実力じゃなかったかも、なんて」
「⋯⋯あれ? お坊ちゃま?」
「一族、みんな全身『しまむら』だけどね⋯なんか⋯一等地にビル持ってたらしい。じいちゃんそういうの、全然教えてくんないからな」
「んで? 普段はしまむら着てても、孫の学歴は買うんだ?」
「いや⋯⋯実力、かもじゃん?」
「⋯⋯だな。そう思っとくよ」
***
するとスン、と灯りが消えた。
続いてパソコンとエアコンも切れる。
「え、なに、停電?」
立ち上がる俺を他所に、那須田が頭を抱えた。
「えーーーー!!! さっきまで! 書いてた!! コード?! 消えたんだけど?!」
「何文字書いてたの?」
「そーいう、問題じゃねえ!! コードって感性なんだよ! 超絶キレイなやつ組めてたのに⋯⋯!!」
「どんまい」
俺は出入り口に近づくと、廊下へ出て様子を見ようとした。
が、電気由来のロックなのか、一切ドアノブが動かない。
「⋯⋯え、閉じ込められてないか、これ」
パコソンに起きるように訴えかけていた那須田が、近寄ってきた。
「⋯⋯どうやっても開かない?」
「びくとも⋯学務課⋯うわ、この内線、コードが壊れてる⋯」
那須田は、スマホを取り出した。
「スマホも⋯何か電波死んでるな」
「え、俺たちの詰んだ?」
「なんだろ…電波塔?」
それを言った那須田が、ニヒヒと笑った。
「Windowsの呪いじゃねえ?」
最悪、ドアでもぶち破って脱出するつもりなんだろう。
***
「Windowsといえば⋯窓から出るのは?」
肩を落としていた俺は、那須田に投げてみた。
「⋯窓なぁ、ここ5階なんだよなあ」
「落ちたらジエンド?」
「カモ。紐的なものも無いし」
「だよな。陽も落ちて来たから時間かかると、足元が暗くて、見えないとか怖さしかない⋯」
言うと那須田はハンディファンを取り出して、俺に基礎英語の教科書を渡してきた。
「電気が復旧するか、守衛が気づくまで。お前、英語でも勉強してれば?」
「⋯⋯ぐぅ」
「だって一昨日さ、当てられて答えられなかったの、マジで笑えなかった⋯」
交互にファンの風を送ってくれる那須田。
なかなかに心配してくれていたようだ。
「⋯⋯お前は特待生、だもんな」
「おう、スポンサー、母さんしか居ないの」
入学前のオリエンテーションで仲良くなった那須田。
入学式で話した彼の母親に、
「片親だから偏屈なところがあるかも知れないけど、ヨロシクね」
と頼まれていた。
(べつに、偏屈じゃないです、よ。ぶっきらぼうな、だけで)
教科書をペラペラとめくる。
入試で叩き込んだはずの単語たちは、最早何処かへ飛び去っていた。
「えっと。今の時代さ、自動翻訳サイトに打ち込んで、さ」
「それだと、ビジネスの場では英語企業に舐められるらしいよ。サッと返事ができない相手は格下にみられるし、強気の要求飲まされるんだって」
「飲まなきゃ良いじゃん」
「ある程度は飲まなきゃ。何も、得られないから⋯お前、仕事なのに、駄目でしたで終わらせられる?」
「え、向こうが歩み寄ってくれなきゃ、無理じゃない?」
那須田は少し肩をすくめる。
「向こうのせいにして、そのまんま出世できる会社に入れれば良いな。まあ存在するなら、だけど?」
「意地悪、だな?」
「世間の厳しさを、だな」
「⋯⋯そう言うのは、父さん達からだけで良いよ⋯」
本当は、高卒で地元の信用金庫に就職するつもりだった。
部活の仲の良い先輩が誘ってくれていたから、そのまんまゆるい面談だけで入れそうだったのに⋯。「信用金庫なんぞ、貧乏人の尻拭いにしかならん」と、父も母もどうしても首を縦に振らなかった。
「まあ、別に信用金庫でやりたいことがあったわけじゃないからな⋯いんだけど。先輩に悪いことしたな、って」
那須田は俺の話を聞きながら、ドアノブのネジが外れる箇所がないか探っていた。
「⋯⋯なら良かったんじゃないか。金融なんて潔癖な職場、雑なお前は向いてないし、何より向かいたい方向をボンヤリさせたまま出世できるところでも無いだろ」
「でも…何処もそう、なんだろ?」
「…さあ?」
陽が完全に落ちた。
外からの光が落ち、停電の街は暗闇に包まれる。
***
「⋯⋯あちいな」
那須田は立ち上がると、窓を開ける。
一つ、二つと開けるうちに空気が循環して、部屋の倦怠した空気が押し出されていく。
「汗かいてるから、風があるだけて全然違うな⋯」
上着をパタパタさせながら外を覗き込む。
俺も横に並ぶと、階下から学務の人間が隣の棟へ入っていくのが見えた。
「おおおーい!!」
那須田が大声をあげる。
学務の人間が後戻りしてきて、こちらを懐中電灯で照らすと、手で制してから、この棟へ入っていく。
「諦めなきゃ、さ。声を上げ続ければ⋯良いんだよ。ベストを尽くしたのに、って泣きついたら、案外、誰か助けてくれるかも知んないんだから」
「人頼み?」
「助けたくなるような努力を積む。駄目なら諦める前に誰かを頼る」
「⋯⋯努力⋯」
「お前は親やじいちゃんに可愛がられる努力はしてきたじゃん? その方向を、今度は実力つけるのに降ってみろよ」
「⋯⋯うっせー。俺は俺が幸せになることで忙しいんだよ」
「幸せねえ⋯?」
話していたら、部屋の明かりが着いた。
冷房のファンがヴーンと唸り始め、那須田と俺の使っていたパソコンが立ち上がる。
***
那須田がパソコンにかじりついて、ワードを開こうとしていると、扉が開いた。
「遅くなってゴメンナサイね」
学務のオバチャンが懐中電灯をテーブルに置いた。
「近くの変電所で工事の事故が起きたみたいなの。ここの部屋だけ鍵が電気由来なの忘れてたわ。でもさっき、学内の非常電源を充てたから」
「いえ⋯助けていただいたし」
「あら。内線。切れてるわね、これ」
「イタズラっぽいですよね…綺麗に切れてて…」
俺とオバチャンの話し声に、那須田の絶叫が被さった。
「うぉーーーーーー!!! 何これ?! 残ってるううう!!」
「あ、ワード? 今回のアップデートで、定期的にバックアップ取ってくれるようになったみたいよ?」
「最高ですね!」
エアコンを切り、窓を閉めていくオバチャン。
「大事なデータが残っててよかったねえ」
「です!! マジで感謝ぁ!!」
学務のオバチャンとニコニコと、ワードの、Windowsの素晴らしさを語りあう那須田。
なんだ? 熟女専か?
「⋯⋯今日はもう遅いから。USBにデータ移したら帰りなよ。電車はさっき動き出したらしいから、混んでるだけど、乗れると思うよ」
そう言って、別の部屋の施錠をしてくると言い残して退室していくオバチャン。
ルンルンでUSBにデータを移す那須田。
「⋯⋯残ってて良かったな?」
「なー? Windows、流石だわあ」
「⋯⋯俺の、エクセルスキル⋯」
「勉強だ。しなおそうぜ?」
荷物をまとめると、俺の肩を叩いて戸締りと消灯していく那須田。
「たぶんな? ゼロからよりずっと覚えるの早いはずだから。努力ってそういうもんだよ。無駄になったこと、俺は一回も無いもん」
「えええー? それはお前が要領良いからで」
通路へ出ると、学務のオバチャンとすれ違う。
挨拶をしてエレベーターのボタンを押そうとしたら、那須田が止めた。
「まーた、電気止まったら嫌じゃねえ? なんなら電車じゃなくて、歩いて帰ったほうが安全かも」
「⋯⋯エレベーターはそうだけど、電車まで疑う?」
「や、電波が死んでる以上⋯ってまだ死んでんな⋯」
階段を降りながら、途中トイレへ向かうことにした俺たち。
手を洗った後、俺は街灯が殆ど消えた道を歩くために、スマホのライトを使おうと取り出した。
「ん?⋯⋯電波、俺のは生きてるんだけど?」
「え」
那須田が電波塔とか言ってたから、俺は自分のを見ていなかったが⋯もしかして最初から生きてたのか?
「え、じゃあ⋯あ、わかった⋯俺だけか⋯」
そう言うと、那須田はそのまんま黙ってしまった。
「なに? どうした?」
「やー⋯あの。ええと」
「料金払うの、忘れてた?」
「⋯⋯そう。入学準備で沢山使ったからって⋯母さん後回しにしてたっぽい」
「あー⋯」
(そもそも、引き落としじゃないのか⋯?)
俺の心を読んだのか、那須田がため息混じりにボヤく。
「いや、固定費はクレカ払いの引き落としのハズなんだけど⋯なんでだろう⋯え、じゃあもしかして、水道とかも⋯」
ピタと立ち止まり、青ざめる那須田。
「え、ガスとか⋯だよな? 最初に止まるのって、確か」
スマホの引き落とし口座に残高がない、ということは光熱費の引き落としも滞っている、ということだろうか?
「ごめん知らん。え、残高とか見れんの?」
「母さんしか⋯どうしよう⋯俺、大学デビューだって浮かれてて…バイト、あんま入れなかったせいだ⋯」
みるみる血の気を失っていく那須田に、俺は財布を出した。
「えと⋯5000円しか出せないけど⋯」
「い、いらねえよ」
「でもスマホ止まったら何も⋯出来ないじゃん」
「死なない! 大丈夫!」
「大丈夫じゃねーだろ。講義場所変更の情報とかも、コレなのに」
「店のWi-Fi使うし」
「⋯⋯それがお前の『努力』なのか?」
差し出した5000円をそのままに、俺は聞いた。
「講義場所変更の情報も、ゼミのLINEも見逃して、それでお前は目指してる大手IT企業に入れるのかよ?」
「バイト⋯沢山入れるから⋯来月には復活するだろうし」
「最初は慣れてないから、手さぐりしながらだろうが?! そんな中で情報手段をほぼ持ってかれるなんて、ハンデでしかないだろ?」
「⋯⋯だからって、友達から⋯」
「借りるのだって努力だ。プライドを説き伏せる努力、しろよ」
那須田の潤んだ瞳が俺を見た。
やがてギュッと唇を噛むと、5000円を受け取る。
「⋯⋯恩に着る。必ず、返す」
那須田の財布に、四つ折りにして入れられた5000円札を見送った。
***
俺はふっとため息を着くと、
「じゃあ……。母さんにも、ちゃんと頼ってもらえよ?」
と軽口を叩いた。
俯くと唇を尖らせる那須田。
「ヤダ⋯ずっと母さんの子供で、いたい。から⋯」
財布を大事そうに鞄へ仕舞う。
「あー? 熟女専の由来はそこから?」
後ろを歩いていた那須田を振り返った。
奴は口をパクパクさせる。
「熟女専とか! イキナリ変なキャラつけてくんじゃねーよ!!」
肩を殴ろうと手を振りかざすが、俺は那須田を通り過ぎると、ギューーーンと走り出した。
「違うのかよ?! マッザコーーーン!」
「おま⋯3発ぐらい殴らせろ!!」
公園を抜けると、駅の改札がある。
でも俺は改札へ向かわずに、歩いて帰る道の方へ曲がった。
まだまだコイツと、道すがら、沢山話すことがある気がしたから。
おしまい。
いかがでしたか?
本当は推敲をして公募用に取っておこうなんて、画策していたんですが。
ノベルジャムの売り上げ合戦がなかなかに善戦できているようなのでここでリリースさせていただきました。
BCCKSさんの売れている本コーナーに再浮上…してる!!
こちらはラブコメでございます。
そしてプログラマー……。
『窓』を読んだ後だと、「え、那須田くん、後の『SPY×BANKER』のの主人公?!」「いや、『窓』の主人公くん、谷橋?!」なんてつながりを感じてしまうかも…?
ま、まったく意図してませんでしたが。なんか似てるゥ…汗
今日の日付が変わるまでに買っていただくと、グランプリの集計に入ります! タチヨミだけでもどうぞ✨
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こちらは同じチーム、遠隔共同体の一之瀬さんの作品。
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