立秋|気づくより前に、季節は動く
きょう七日は二十四節気の「立秋」。暦の上では秋が始まる。そう聞いて窓の外を見ても、秋らしいものはなかなか見つからない。道内ではオホーツク海側の津別で最高気温36.9度を観測するなど、各地で厳しい暑さとなった。秋という文字の置き場所に困るような一日である。
それでも、朝早く羊蹄山麓を走ると、深い霧が立ち込めていた。いつもなら大きくそびえる山は白の向こうに姿を隠し、木々や畑も輪郭を失っていた。ニセコパノラマラインを越え、岩内から日本海沿いを南へ走る。日が高くなれば夏そのものだったが、道端にはススキがひっそりと穂を育てていた。

「秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる」
平安時代の歌人、藤原敏行が立秋の日に詠んだ歌である。秋が来たとは目にははっきり分からない。それでも風の音に、その訪れを知る。千年以上前の人も、立秋の日に同じような戸惑いを覚えていたらしい。

季節の変わり目には、言葉にしにくい何かを感じることがある。気温でもなければ、景色でもない。朝、外へ出た瞬間の空気。窓から入ってくる風の感触。日の傾き方。そんな小さな違いが重なって、ある日ふと「季節が変わった」と気づく。
風は目に見えない。だからこそ、人は木の葉の揺れや草のなびき方を見て、その存在を知る。

わたしたちの暮らしにも、目には見えない変化がある。きのうまでと何も変わらないように思えても、考え方や気持ちは、知らないうちに少しずつ動いている。変化とは、ある日突然始まるのではなく、気づくより前から進んでいるものなのだろう。

日中の暑さだけを見れば、秋はまだ遠い。けれど、暦はひと足先に次の季節を指し示す。
目にはさやかに見えなくても、耳を澄ませば分かるものがある。
立秋。秋はまず、風の中からやってくる。

いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします。頂戴したチップは、誰かの心が少しでも軽くなるような記事の執筆に向け、大切に使わせていただきます。