ひらひらのワンピースを着なくても、結婚できた
「おれ、やっちゃった」
そろそろ仕事を終えて帰宅しよう、そう思ってデスクのコーヒーを飲みほしたところで、自宅にいる夫からポロンとLINEの通知が届いた。
夫から届いた写真を見て目を疑う。
我が家のダイニングテーブルの上に、見慣れた店の買い物かごが置いてある。「ん?え?」あの店はマイかごとかそんなシステムはなかったはずだけど。まじでどういうこと?
オフィスを出て早々に夫へ電話をかけた。ちょっとテンションの低い声で、どうやら落ち込んでいる様子だった。
何やら、お会計はしたもののぼーっと考え事をしていたら、袋に詰め替えることなく、そのまま家までかごを持ったまま帰ってきたというのだ。
「どんだけ考え事してんだよ」と言いかけたが、落ち込んでいる様子だったので言わずに飲み込んだ。うちの夫はたまにこういうことをしでかす、憎めない奴である。
*
夫との出会いは、転職した職場で同期になったことだった。中途採用で同期がいることってあまりなかったので、もう一人の女の子を含めてすぐに仲良くなった。
真面目そうでおとなしそうな人。そんな印象だった。おまけに出会ったときは肌が大荒れだったので、韓国男子のようなツルツルお肌に憧れを抱いていた私は、恋愛対象の「れ」の字もなかった。
よく、結婚相手に出会ったとき「雷に打たれたような!」と、表現する人がいるけどもちろん雷なんて鳴っていなかったし、心は静かに晴れたままだった。
帰りはいつも、電車のドア付近に立って「合コンしようよー」とか好きなタイプとか、絶対に好きな相手には言わないようなことばかり話してた。
夫はいつもドア横の座席の壁にもたれかかって、私はその横の吊革につかまって話すスタイルだった。
それがいつからだろう。「この人、気を使わないけど、男として見れないこともない。悪くない」そんな風に思っている自分がいた。
それまでの恋愛を振り返ると、相手の望む自分になろうとしてばかりだった。言いたいことを我慢したり、行きたいところ、食べたいものも素直に言えなかった。「なんでもいいよ。食べたいものある?」それが口癖だった。
昔付き合っていた人に「うるせーっ」ってつい言ったら、「その言葉使いやめなよ。可愛くないよ」そう言われたことがあった。
でも、私はいま目の前にいる彼に「自分の中のおっさん」を見せている。それでも嫌がっている様子はない。むしろ彼もそれが居心地がよさそうだ。
私は初めて、ありのままの姿で受け入れてくれる男性に出会ったと思った。やらなかったけど、付き合う前におならとかしちゃっても普通に笑い飛ばしてくれそうなそんな人だった。
そして友だち同士のような関係をつづけながら、私たちは絆を深めいつのまにか恋人同士、夫婦へと形を変えていった。
サッカーとか好きな映画とか音楽とか、夫からの影響を受けて好きになったものが沢山あるけれど、どれも「好かれたい」から興味を持ったわけじゃない。自然と彼の好きなものが自分の好きなものになっていた。
私たちの関係は、私が理想としている「気づいたらそうなっていた」そのものであった。サプライズや派手な演出が得意じゃない私には、ぴったりの相手であった。
可愛いひらひらのワンピースを着なくても、可愛い喋り方ができなくても。お酒が大好きで、口を開けて寝ていても。
結婚できた女がいるということは、ここに残しておきたい。
*
夫が持って帰ってきた買い物かごは、しばらく家に置いたままだった。
返しに行く勇気のでない夫の代わりに夜中にこっそり返しに行っておいた。
ありのままいさせてくれるのなら、尻ぬぐいぐらいたまにはしてやろう。
