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あじさい三部作 〜雨 沈没 12歳〜


①「あじさい」


雨だ…

本降りだ

折り畳みだけど
傘は…ある

夜勤明けの僕は
始発の電車を待つために
開店前の駅ビルの
屋根のあるペデストリアンデッキから
雨の駅前を眺めていた

駅に入る人
バスを待つ人
それぞれの行き先へ向かう人

人の流れに咲く傘の花は
一足早いあじさいのようで
柄にもなく
少しだけ詩人ぶってみる

雨 本降り 折り畳み傘

アスファルトを叩く白い雨粒と
車が水たまりをはじく音だけが
やけに大きい

さっさと帰ればよかった

立ってでも
いつもの電車で帰るべきだった

本当にそうか?

夜勤の僕にとって
朝は夜
昼間なんて 真夜中だ

休みの日に出かけても
真夜中の地元に咲く花は
せいぜいコンビニの灯りだけ

あじさいも…眠ってる

だから 少しでも
昼間をつかまえたかった

眠い目をこすってでも
自分を昼間に置いておきたかった

なのに…雨

「一日中降るらしい」なんて
あんまりじゃないか

雨に歌う風情もなく
水たまりにスキップする歳でもない

雨は雨
ただ それだけのことなのに
僕は立ち尽くす

あじさい
水たまり
休みの朝

子供が ちょっぴりうらやましい…

そろそろ時間だ

最後にかたつむりを見たのは
いくつの時だったろう

ガラガラの電車のシートに座り
僕はひとつ
大きなあくびをした

眠気まかせで
知らない駅で降りてみようか

かたつむりを探す
子供のように




②「くもり 時々 沈没」



確かに これだけは覚えてる

雨にも晴れにも転がらない
中途半端なくもり空を
ずっと見ていたことを…

52歳
52歳だ
52歳です
52歳だけど
52歳なんだよ
52歳じゃ…ねえ

24時間 365日 52年
それは ゆっくりと坂を下っていくようで

やがて…
深く 深く また深く

どこまでも
どこまでも

そして…

海底を這いつくばって
足がもつれ
力尽き


沈没…





「先生!」

「ん?」

「起きてください!」

いつから「先生」が僕の名前代わりになったのか

「居眠りしてる暇はありませんよ」

「あ、ああ…」

「お願いしますよ。締切は今日なんですよ
まだ1行も書いてないじゃないですか」

息子がいれば
こんな感じだろう

くたびれた単行本を
小脇に抱えてる編集者

それは…

「何度も読んだんですよ」と
一度だけ言ってくれた
僕の初めての作品

「先生」が名前代わりになった瞬間

そして…

「晴れ」でも「雨」でもない
「くもり空」をよこした

ああ…
夢じゃなければ

でも…
そうでもないか

「ここからだよ、ここから!」

くもり空か
息子のような編集者に向かってか

「ここからだよ」

窓の外では
まだ色を決めかねたあじさいが
くもり空の下にいた




③「12歳」


できることなら
笑って暮らしたいよね

不安や悲しみを放り投げてさ

「現実を見ろ」って言われても
そろそろいいだろうって思うんだ

きみとぼく
お互い苦労してきたね

うまくいかないことばかりで
よかったことは
校庭のタイムカプセルにしまったまま

林間学校のキャンプファイヤー
修学旅行の紅葉のじゅうたん
行けなかった、筑波の科学万博

そして…
未来の僕たちへの手紙

あの頃は
どんな未来が見えていたんだろう?

スマホもAIもなかった
それなのに 未来だけは
今よりずっと眩しかった

答え合わせは しないけど

コスモ星丸に会いたかった…

だから 笑って暮らせたら
今年の雨は
少しだけ やさしいかもしれない

見てよ……あじさい
こんなに綺麗だったんだ

青 紫 ピンク 白

毎年 何気なく通り過ぎてたなんて
可笑しいよね









 
(^^)/   オ・マ・ケ 💐



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