大手IPコンテンツ企業に同名のキャラクター名を商標登録され、所有ドメインの移管を求められた話


1. はじめに:この記事の目的と注意書き

この記事は、私が長年使用していたペンネーム/アバターネームと同一名称のキャラクターが大手IPコンテンツ企業から発表され、私が取得した同名の .com ドメインについて、その企業から移管要求を受けた経緯をまとめたものです。

現在は状況が落ち着いており、非常に珍しい体験だったため、個人活動者向けのナレッジとして共有します。

本記事の目的は、特定企業を批判することではありません。ペンネーム、屋号、サークル名などで活動する個人が、商標やドメイン名のトラブルに巻き込まれた際に、何を確認し、何ができるのかを共有することです。

読者の方におかれましても、関係者の特定、問い合わせ、攻撃的な言動などはお控えください。

なお、法的評価については、私が当時調べた範囲の理解であり、専門的な助言ではありません。

2. ざっくり何が起きたか

概要は以下の通りです。

  • 長年使っていた自分の活動名と同一名称のキャラクターが、大手IPコンテンツ企業から発表され、商標登録された

  • 私はその事実を知らないまま、自分の活動名と同じ文字列の .com ドメインを取得した

  • 後日、相手方代理人を名乗る法律事務所から「商標権侵害であり、UDRPに違反する」としてドメイン移管を求められた

  • 私は、調査の結果、ドメインを正当に保有していると判断し、移管コードの提供には応じなかった

  • その後、相手方は「権利侵害」を前提とした移管要求を取り下げた

  • 現在もドメインは私が保有しているが、活動上は一定の注意が必要な状態になっている

3.トラブルの経緯

  • 2022年
    私のペンネーム/アバターネームと同一名称のキャラクターが、IPコンテンツを扱う大手企業により発表されました。
    この時点で、私はそのキャラクターの存在を知りませんでした。

  • 2023年
    当該キャラクターに関する商標登録が行われました。
    この時点でも、私はその事実を把握していませんでした。

  • 2024年前半
    自分のペンネームと同じ文字列のドメイン xxxxxx.com を取得しました。
    取得目的は、自分のホームページやゲームサーバーの名前解決のためです。

  • 2024年後半
    私の保有するドメインについて、相手方代理人を名乗る法律事務所から、レジストラのWhois経由で連絡がありました。
    内容は、私のドメインが相手方商標と類似しており、権利侵害に当たるため、ドメインを移管せよというものでした。

  • 2025年
    記事執筆時に調べたところ、私の保有するドメイン文字列と完全一致する文字商標が、追加で出願・登録されていたことを確認しました。

4.相手からの通知内容

相手方代理人を名乗る法律事務所からは、要旨として以下の内容のメールが届きました。原文は英語です。

①当社は「〇〇〇〇」商標について権利を有している
②<〇〇〇〇.com> は当該商標と混同を生じさせる侵害ドメインである
③当該ドメインはUDRPに違反している
④5暦日以内にレジストラロックを解除し、移管認証コードを提供するよう求める
⑤協力する場合、登録・移管に要した実費を支払う用意がある

※実際のメールには企業名、商標名、ドメイン名、登録番号、法律事務所名等が記載されていましたが、本記事では伏せています。

メールが送られてきた当時、私はドメイン移管を狙った詐欺メール等の可能性を疑いました。理由は以下の通りです。

①海外の法律事務所を名乗る個人からのメールであり、権利を有する企業との関係を証明するもの、もしくは確認手段が何も提示されていないこと。

②事実確認のやり取りを経ず、権利侵害であるとの前提で5暦日以内にレジストラロックを解除し移管認証コードを提供せよ。という今すぐの対応を求められたこと

移管認証コードを提供すると、意図しない形でドメインを失うリスクがあります。そのため、当初は指示通りの対応は行わず、まずは事実確認と調査を行うことにしました。

その後、複数回のリマインドメールが届いたため、正式に対応する必要があると判断しました。

5.自身で調査したこと

ドメイン所有が本当に権利侵害に当たるのか

まず、相手方が根拠として挙げていた「統一ドメイン名紛争処理方針(UDRP)」について調べました。

UDRPでは、申立人がドメインの移転または取消しを求めるには、原則として以下の3要件をすべて立証する必要があります。

  1. 対象ドメイン名が、申立人の有する商標またはサービスマークと同一、または混同を引き起こすほど類似していること

  2. 登録者が、そのドメイン名について権利または正当な利益を有していないこと

  3. ドメイン名が悪意で登録され、かつ悪意で使用されていること

このうち、1つ目の「同一・類似性」については、相手方に立証される可能性があると考えました。

一方で、2つ目の「権利または正当な利益がないこと」については、私は相手方キャラクターの発表以前からその名称を自分のペンネーム/アバターネームとして使用しており、その名称で呼ばれていた記録もありました。

また、3つ目の「悪意の登録・使用」についても、私のドメイン取得目的は、自分のホームページやゲームサーバーの名前解決であり、利用記録も残っていました。

そのため、少なくともUDRP上は、相手方の主張に対して反論できる余地が大きいと判断しました。

商標権そのものを争えるのか

これを機に、商標登録に関する異議申立てや無効審判などの制度についても調べました。

たとえば、登録直後であれば、商標登録異議申立てにより、登録の妥当性について特許庁に見直しを求める制度があります。また、登録後であっても、一定の無効理由がある場合には無効審判という手続があります。

ただし、これらは「自分が昔からその名前を使っていた」というだけで当然に認められるものではありません。先行して商業活動として広く知られていたか、指定商品・指定役務との関係でどのような事情があるかなど、具体的な証拠に基づく検討が必要になります。

私の場合、活動は趣味の範囲であり、名称や商業活動が広く知られていたわけではありません。また、当時、相手方から問題視されていたのはドメインのみでした。

そのため、今回の対応方針としては、商標権そのものの有効性を争うのではなく、あくまで自分が正当に取得・使用しているドメインを守ることに絞りました。

6. 実際に行った対応

過去の活動履歴を保存・整理した

まず、「相手方キャラクターの発表以前、商標登録以前から、その名前を自分の活動名として使っていたこと」を示す証拠を集めました。

具体的には、以下のようなものです。

  • 過去日時のSNS投稿

  • 他者からその名前で呼びかけられている投稿

  • プロフィールページ

  • 過去の活動ページやスクリーンショット

  • ドメイン取得前後の利用目的が分かる記録

SNS上の情報は、削除、凍結、仕様変更、検索精度の変化などにより、後から確認できなくなる可能性があります。

今回、証拠になりそうな情報を慌てて集めることになったため、活動履歴は日頃から保存しておくべきだったと感じました。

レジストラを移管した

当時、対象ドメインのレジストラはアメリカの事業者でした。

私は、万が一紛争になった場合のやり取りを日本語で行いやすくするため、日本国内のレジストラへ移管しました。

また、UDRP上の裁判管轄や手続対応において、レジストラ所在地が関係する可能性があるため、少なくとも自分が対応しやすい環境に寄せておきたいと考えました。ただし、この判断が実際に有効だったのかは分かりません。あくまで、当時の私のリスク管理上の判断です。

ドメインとゲームサーバー周辺のセキュリティを見直した

あわせて、ドメインやゲームサーバー周辺のセキュリティ対策も見直しました。

これは、万が一のトラブル時に「自分が管理しているドメインやサーバーが第三者に悪用されていない」と説明できる状態を保つための対応です。

相手方代理人の真正性を確認した

次に、法律事務所からのメールが、本当に権利者企業の正式な代理人から送られたものなのかを確認しました。

私が確認すべきと考えたのは、主に以下の点です。

  • 送信者が実在する法律事務所・担当者なのか

  • 本当に権利者企業から委任を受けているのか

  • ドメイン移管コードの提供を求める権限があるのか

メールのやり取りでは、委任関係を確認できる資料の提示はありませんでした。そのため、日本の関連会社に問い合わせ、数か月後に、関連会社経由で正当な代理人であることを確認しました。

通知に反論した

上記の調査結果をまとめ、私がドメインの正当な保有者であること、そして移管コードの提供には応じられないことを説明しました。

7.交渉の転換

2025年初頭、日本国内の別の法律事務所から連絡がありました。

内容は、従前の「権利侵害」を前提とした移管要求は取り下げ、任意交渉としてドメインを譲り受けたいという提案でした。
加えて、ドメインの移管手続きの対価の提示がありました。

私は、提示額では承諾できないこと、また一連の対応によって時間的・精神的・実務的負担が発生したことを伝え、謝罪および対応費用の補償を求めました。

しかし、先方からは、違法な行為ではないため、謝罪および補償には応じられないという回答がありました。

対応と譲渡条件の改善があれば交渉を継続する意思があることは伝えていますが、現時点では事実上、交渉は打ち切られた状態です。

8.現在の影響

争点となっていたドメインについては、移管要求が取り下げられたため、当初の目的は達成されました。

そのまま要求に従った場合ドメインは失われていたので、少なくともこちらの事情を説明した意味はあったのではないかと受け止めています。
ただし、今後も移管要求が再開されないという確約を得たわけではありません。

一方で、相手方の商標権は現在も存在しています。そのため、何も知らなかった時と比べて、活動には気を遣うようになりました。

商標権は、文字列そのものをあらゆる場面で独占する権利ではありません。商標権の範囲は、商標と、それを使用する指定商品・指定役務との関係で判断されます。
ただ、今回相手方が取得した商標には、「娯楽の提供」など、私が将来的に行いたい配信、動画、イベント系の活動と重なり得る区分が含まれていました。
そのため、実際に商標権侵害になるかどうかは個別判断であるとしても、実務上はかなり活動しづらくなりました。

ちなみに、商標法には「先使用権」という制度があります。
これは、他人の商標登録出願前から、一定の条件のもとで同一または類似の商標を使用していた場合に、その後も継続して使用できる可能性がある制度です。
ただし、これもまた「先に名乗っていた」だけで認められるものではありません。
「他人の商標登録出願前から需要者の間に広く認識されていること」が条件となるようです。
趣味活動や小規模な個人活動では、この立証が大きなハードルになりそうです。
また、仮に先使用権が認められたとしても、商標権を取られた後に初めてグッズ販売を始めたい、イベントを開催したい、別ジャンルのサービスを始めたいといった場合には、別途リスクが出る可能性があります。

そのため、商標登録をされてしまうと、少なくとも活動を広げにくくなるのは避けられないと感じました。

人によっては、「活動名なんて変えればいい」と思うかもしれません。
もちろん、最も安全な選択肢だと思います。
ただ、長く使ってきた愛着のある名前なので、私は基本的には使い続ける判断をしています。一方で、リスクが高そうな活動を行う場合には、少し変えた別名を使うようにしています。

9.個人活動者に伝えたいこと

今回の事象は、多少のケースの違いはあっても、ペンネーム、屋号、サークル名、アバター名などで活動する人であれば、誰にでも起こり得るトラブルだと思います。

ただし、同じ「活動名の衝突」であっても、すでに著名な活動者や、商業活動が広く知られている人と、趣味の範囲で活動している個人とでは、取り得る選択肢が大きく異なります。

すでに名称や活動が広く知られている場合は、相手方の商標登録に対して、異議申立て、無効審判、取消審判などを検討できる可能性があります。また、そもそも企業側の企画段階で同名・類似名が避けられ、問題化しない場合もあるかもしれません。

一方で、私のように趣味の範囲で活動しており、商業活動を積極的に行っていない個人の場合、あるいは今はまだ広く周知されていないものの、これから活動を広げていきたい個人の場合は、状況がかなり厳しくなります。

商標登録、法律事務所を通じた通知、紛争対応、専門家への相談など、どれを取っても、小規模な個人が企業と同じ土俵で対応するには、時間・費用・精神的負担がかかります。

また、企業側から見ても、著名ではない個人活動者を企画段階ですべて把握し、同名・類似名を避けることは現実的に難しいと思います。つまり、これは単に「企業が悪い」「個人が悪い」という話ではなく、現実として個人活動者側が不利になりやすい構造がある、ということです。

しかし、何もできないわけではありません。

活動開始時期が分かる記録を残すこと、主要なドメインやSNS IDを管理しておくこと。将来的に考えているのであれば小規模でも商業活動を行っておくこと。
こうした活動は、第三者や企業が同名・類似名を使おうとした際に、衝突リスクとして認識されやすくなる可能性に繋がります。

10.個人活動者がやっておくとよいこと

活動名を決める前に商標検索をする

活動名を決める前に、J-PlatPat等で同一・類似の商標を調べておくことをおすすめします。

表記が違っても読みが近い商標が存在する可能性があるため、読み方や表記ゆれも含めて検索したほうがよいです。

ドメインや主要IDを早めに押さえる

活動名を長く使うつもりなら、.com、.jp などのドメインや主要なSNS IDを早めに押さえておくことも検討したほうがよいです。

活動履歴を保存しておく

活動開始日が分かる投稿、プロフィール、動画、配布物、Webサイト、サーバー情報などを保存しておくことは非常に重要です。

特に、他者からその名前で呼ばれている投稿、イベント参加履歴、配布物、告知画像などは、自分がその名前で活動していたことを示す資料になります。

実態のある活動として記録を残す

将来、グッズ販売、配信、イベント、ゲーム、音楽などを行う予定がある場合は、小さくても実態のある活動として公開・記録しておくと良いです。

商標登録も選択肢に入れる

活動名を本格的に使っていくのであれば、先に商標登録をしておくことは非常に有効です。

ただし、商標登録には出願料、登録料、更新料がかかります。特許庁の料金表では、商標登録出願は「3,400円+区分数×8,600円」、商標登録料は「区分数×32,900円」、更新登録申請は「区分数×43,600円」とされています。代理人に依頼する場合は、これとは別に弁理士費用等も発生します。

小規模な個人活動者にとって、すべての活動領域について商標登録を行うのは現実的ではない場合も多いと思います。

10.最後に

今後、状況に大きな変化があった場合は、差し支えない範囲で本記事を更新する可能性があります。

なお、繰り返しになりますが、本記事は特定企業や関係者への批判・攻撃を目的としたものではありません。仮に関係者を推測できたとしても、問い合わせや攻撃的な言動はお控えください。

この記事が、同じように個人名義で活動している方の参考になれば幸いです。

おわり


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