ムカシムカシ……あるところに そのさん
あらすじ
これは、現実の世界ではない全く別の世界のお話です。悪魔をはじめ、不思議な者たちの話。
エルフと そらとぶ ひとつめエイ
むかしむかし、あるところに深い森と大きな湖のそばに、エルフたちの村がありました。
湖は月の光を受けると銀色にかがやき、魚たちは元気に泳ぎ、エルフたちはその恵みに感謝しながら、しずかにくらしていました。
けれども、ある日をさかいに、湖の水がにごりはじめました。
魚たちはどこかへいなくなり、黒ずんだ泡がぷくぷくと浮かびます。
「湖がわるい魔法にかけられたのでは……?」
村のエルフたちは心配そうにささやきました。
だれも原因がわからず、森の長老ですら「こんなことははじめてじゃと首をかしげるばかりでした。
🌙🌿💧
そんなある夜のこと。
エルフの少女 リリアは、湖のほとりで光る何かを見つけました。

それは—— 空を飛ぶ ひとつ目のエイ。
まるで夜の闇をまとったような黒い体。
ひらりと広がる大きなひれ。
そしてその中心には、まばゆく光る ひとつの目。

リリアは思わず息をのみました。
エルフたちは、むかしから魔物をおそれていました。
でも、そのエイは しずかで、もの悲しげ でした。
おそるおそる、リリアはたずねました。
「あなたが湖をにごらせたの?」
エイはゆっくりとリリアを見つめ、低くやわらかな声でこたえました。
「ちがう。でも、わたしは知っている」
🌙🌿💧
エイの目が光ると、湖の水がゆらぎ、
深い底の奥に どす黒くひかる穴 が見えました。
「これは……?」
リリアは目をこらしました。
「封印が こわれている。そこからわるいものが 流れだしているのだ」
湖の底には、むかし悪しきものを封じるための 封印の石 があったのです。
それが いま、ひびわれ、黒いどろどろが あふれていました。

「なおさなきゃ……でも、湖の底なんて、どうやって?」
リリアがそう言うと、エイはそっと羽をひろげました。
「わたしが つれていこう」
🌙🌿💧

エイの背にのったリリアは、すこしの不安とともに目を閉じました。
「息をすいこめ。風と水に身をまかせるのだ」
エイの声がそう言った 次の瞬間——
リリアの体が ふわりとうきました。
ひらひらと湖の上をまい、
やがて すいこまれるように 湖の底へ。

冷たい水が ふたりを包みこみました。
けれど、不思議なことに息苦しくはありませんでした。
エイの体からほのかな光が もれて、
暗い水の中を てらしていました。
🌙🌿💧
やがて、湖のいちばん奥底にたどりつきました。
そこには—— 大きな封印の石 がありました。
しかし、その表面には 深いひびが入り、
そこから 黒い影 がゆらめきながらにじみ出ています。

「このままじゃ、湖は どんどん よごれてしまう……!」
リリアは さっそく 魔法のことばをとなえました。
けれど、封印のひびは びくともしません。
「わたしの魔法だけじゃ たりない……」
そのとき、エイが すこしだけまぶたをとじました。
「わたしの ちからをかそう」
🌙🌿💧
エイのひとつ目が、青白く光りはじめました。
その光は、リリアの手にそっとしみこむようにそそがれました。
——魔物のちからと、エルフの魔法がまじりあう。
リリアの指先にほのかな光がともりました。
彼女はふたたび封印の呪文 をとなえました。
「封じられし ちからよ、いま ふたたびねむれ」
すると、封印の石がかすかにふるえました。
そして——
ひびわれが、 すこしずつすこしずつふさがれていきました。
「できた……!」
封印の石は もとの姿に もどり、
黒いどろどろは すうっときえてしまいました。
🌙🌿💧
エイの背にのって、
リリアは ゆっくりと湖のうえに もどりました。
湖の水は きれいになり、
魚たちがぴょんぴょんとはねています。
「なおった……!」
リリアはよろこびました。
エイはしずかにこたえました。
「おまえは 魔物を おそれなかった。だから、湖を すくうことができた」
リリアはすこしだけ、うれしそうにわらいました。
「あなたがたすけてくれたからよ」
エイの ひとつ目が、
ほんのすこしだけ、やさしくゆれました。
🌙🌿💧
そのよる、湖は ふたたび銀色に かがやき ました。
エルフたちはよろこびましたが、
リリアはエイのことをだれにもはなしませんでした。
——エルフたちは、まだ 魔物をおそれるから。
けれど、
それからというもの、
湖の夜空には、
ひらひらととぶ 黒い影 が みえることがありました。
リリアは そのたびに、
そっと ほほえみました。
「また、いつかお話ししようね」
エイはなにもいわずに、
ただしずかに羽ばたいていました。

🌙🌿💧
——とりあえず、おしまい。
