芹沢達也はミドルエイジ・クライシスを「批評」によって乗り越える ~らーめん再遊記論~
※サムネイルは『らーめん再遊記(2)』No.90より
ネットのみんなが大好きなラーメンハゲが主人公の漫画『らーめん再遊記』久部緑郎(原作)河合単(作画)が現在(2026年2月11日)キャンペーン中のため2026年2月14日まで37話分無料である。今連載している漫画の中で5本の指に入るほど面白いのでみんな読もう。
今なら48時間だけ最新刊直前まで全話無料で読める『らーめん再遊記』感動しました。特に初っ端萎れてた芹沢さんが「好きなラーメンを好きに作りたいだけのイカれたラーメン馬鹿だっ!!」とラーメン馬鹿を再認識するシーンは涙無しには見られませんでした。皆も今のうちに読もう!… pic.twitter.com/bvMnhflBIo
— ビッコミ (@biccomi) January 29, 2026
有名な「ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ!」を始めとするネットミームとして非常に有名な『ラーメン発見伝』から始まり、ついには脇役としてキャラ立ちし過ぎてついには芹沢が主人公になって継続しているシリーズの最新作が『らーめん再遊記』なのだが、ネットミーム的な消費をされるだけなのはもったいないくらい、本作は圧倒的に面白い。ぶっちゃけ『らーめん再遊記』から読み始めても楽しめる。事実私はここから読み始めている。

『らーめん再遊記』の面白さ、それは物語の開始早々に切り抜き画像だとあんなにギラギラしていたラーメンハゲこと芹沢がすっかり枯れてさほど美味くもないラーメン屋で黄昏れ孤独のグルメしてるさまを味わうところ、ではない。まあそれはそれで面白いし、発表された当時はやっぱりネットでもその様が話題になったりもしたのだが、本作が本当に面白いのは、ミドルエイジ・クライシスに陥った芹沢が「批評」と出会うことでそれを乗り越えていくところにある。
ラーメンへの情熱を失いスランプに陥っていた芹沢が再び情熱を取り戻し一人のラーメン馬鹿へと戻ることで復活する場面は確かに感動的ではある。だが、そこで細かい理屈を否定するのではなく、そこからさらに理屈を掘り下げ、ラーメンが進化してきた歴史とかつて自分が所属したシーンが衰退した理由を分析し、自分なりの歴史観を構築していく点に、本作の見所はある。
とくに序盤の白眉と言えるのは第12杯、13杯(12話、13話)目だ。文芸評論家の小林秀雄の語る形式の時代から個性の時代へという芸術の変遷についての言葉を引き合いに出しながら、現代ラーメンの発展の歴史とその中での自分の立ち位置を整理した上で、芹沢自身が次に歩むべき道を見出すこのエピソードは素晴らしい。間違いなく『らーめん再遊記』のマスターピースだろう。
過去の自分の経歴を過剰に美化も卑下もせず、適切に価値を評価しつつ、積み重ねられた歳月に歴史を見出し、次に進むべき地平を見出す。ここでは明確に批評が機能している。

そう、昨今忌み嫌われがちな批評だが、この漫画では明確に批評や評論が機能している。本作の準主役とでも呼ぶべきキャラクター、ラーメン評論家の有栖涼と、芹沢との間で交わされるプロレスや音楽など他ジャンルを参照しつつ交わされるラーメン論議が物語の骨子となることで、単なるラーメングルメ漫画を超えて、世界で起こる事象や歴史とラーメンが接続される。
作り手である芹沢と、受け手であり分析者である有栖。この二人の間で交わされる言葉、単なる知識のひけらかしではない。異なるジャンルの構造をスライドさせてラーメンを読み解くその対話は、停滞した現状に風穴を開けるための「補助線」を引く作業なのだ。
批評が機能するとはどういうことか。それは蓄積した経験や事象の中に道筋を見出し、それが次の一歩を示す標(しるべ)となるということだ。 『らーめん再遊記』において、芹沢は批評という武器を使い、一度は「終わった」はずの自分を再定義している。かつて「情報を食っている」と大衆を突き放した彼は、今、最も誠実な情報の扱い手——すなわち「批評家」としての視点を持つことで、再び「表現者」としての熱量を取り戻したのである。
現在(2026年2月)、発売された単行本は14巻を数え、その過程でかつての同志やライバル、尊敬していた先達との交流を通しながら、「万人の形式」を探求する旅を続けている。
その過程においていわゆる批評の俎上に載りにくい郊外に展開されるチェーン店やラーメンの自動販売機を取り上げながらそこに一種の「形式」を見出す視点と、ある種ベタと言っていいほどに芹沢とはまた別の形で「再起」が並行して描かれることで、物語に厚みが生まれる。
最新エピソードにおいては、とうとう作り手と語り手が直接ラーメン対決を通してラーメンを作る技術以上に、互いのラーメン観をぶつけ合うにまで至っており、そろそろ『らーめん再遊記』の完結は近いのかなと思うのだが、ネットミーム的に知っているでとどめるにはあまりに勿体ない漫画であることは間違いない。広くお勧めしたい。
↓原作者の久部緑郎氏は元ロッキング・オン社員なので作中でロック史が参照されるのは当然っちゃ当然だし、最新エピソードの締めがああなるのは、着地すべきところに着地してるわけですね。ラストのコマで描かれるアレはやっぱグッときちゃいました。
本日発売! https://t.co/Hx53DpNNSs pic.twitter.com/7tmBcR4cEU
— 吉田光雄 (@WORLDJAPAN) June 2, 2022
