短編小説 : スモック
「どうしてって聞いてるの」
彼女は泣きながら聞いている。
いや、聞いてはいない。これはなんだろう。
僕の理由が、彼女には届かなかったのだろうか。
「君と同棲してると、部屋が汚くなるから」
一限をサボって、ベッドに貼りついている僕たち。二限もサボり、陽が高くなってからも寝返りを打っていた。舌をねだって愛撫を交わす。「お腹が空いたな」。僕が呟くと、彼女は下着も着けずに笑みだけをスモックに通して僕のキャップを被り、徒歩三分のコンビニでおにぎりを買ってきてくれた。頬張りながら脚を絡める。鼻を寄せ、上唇を舐めて噛む。米粒がどちらのものかも分からなくなる。唾液は二人のものでもなくなり、床に細い糸を引いた。
堕落、放蕩、学んでいるのは性の快楽だけ。身体の研究に没頭するあまり排泄すらも一緒に済ませた。僕の部屋は濡れていった。愛液とスペルマと唾液と、それからゲータレードがフローリングに染み込んでいく。ゲータレードは、なるべく栄養価の高いものをと彼女が選んで買ってきてくれたものだ。
部屋が汚くなった。洗濯物は山積み。どうせ着ないのだからもう洗う意味もない。ソファの上の心理学概論の上に彼女のスモックだけが小さく畳まれている。シーツの上にはバスタオルが敷かれ、その替えだけが室内に干されていた。西陽が差し込むと、無数の埃が光のなかで踊っていた。そんな明るく汚い部屋のなかで、僕の硬さを唇に包んでくれている彼女が愛おしかった。
部屋が汚くなるから、同棲をやめよう。
「別れるってこと?」
「私に飽きた?」
「じゃあ、なんなの?」
どう問われても、僕の答えは「部屋が汚くなるから」でしかない。掃除がしたいんだ。シンクを洗いたい。ごみを出したい。洗濯も。
けれど、彼女は問い続ける。それが「問い」ではなく、別の何かであることを僕が理解するのには、少しの時間が必要だった。彼女は僕に何も尋ねてなどいなかった。恫喝なのか、脅迫なのか。そういった裸の別のものが、問いという形のスモックをまとっているだけだった。「部屋が汚くなるから」。僕の正解は誰にも受け取られずくしゃくしゃに丸められて、ますます部屋を汚くするだけだった。
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