はぐき先生が噛み砕く知識ノート①🔵「食べない」「食べられない」―その理由、3つのフェーズで整理してみませんか?
🌱 はじめに
「離乳食をまったく受けつけない」 「スプーンを近づけるだけで泣いてしまう」 「口に入れてもうまく飲み込めない」 「噛まずに丸のみしてしまう」 「食事のたびにむせてしまう」 「よく吐いてしまう」 「食べる量がなかなか増えない」
こんなお悩みをもつ保護者の方、あるいは日々の支援の中でこうした場面に出会う保育士・支援者の方は、少なくないのではないでしょうか。
食べることに難しさのある子どもたちと向き合うとき、多くの方が感じるのは「いったい、何が原因なんだろう?」という戸惑いです。原因がわからなければ、どう対応すればいいかもわからない。そのもどかしさは、子どもを思う気持ちが強いほど、大きくなるものだと思います。
このシリーズでは、「食べることの難しさ」をもう少し整理して考えるための視点として、はぐき先生が日々の臨床の中で大切にしている「3つのフェーズ」という考え方をご紹介します。専門的な概念ではありますが、できるだけ噛み砕いてお伝えしていきますね。
口から食べることをこれから目指しているお子さんも、おられると思います。どのような状況のご家族にも、少しでもヒントになれば嬉しいです。
🍴「食べる」って、どんな動き?
「食べる」という動作は、実はとても複雑なプロセスです。専門的には「嚥下の5期(えんげのごき)」という考え方があり、①食べものを認識する、②口の中で整える、③飲み込む、④のどを通る、⑤食道から胃へ届く、という段階に分けられます。この5期については、別の記事で詳しく噛み砕いていきますね。
ここではまず、「食べることには複数の段階がある」という点だけ押さえておいてください。そしてどの段階でつまずいているかによって、必要なサポートはまったく変わってきます。それを整理するための視点が、次にご紹介する「3つのフェーズ」です。
食べる機能は、どの子どもでも、ゆっくりと段階を経て成熟していくものです。生まれてすぐは「吸う」ことしかできなかった赤ちゃんが、離乳食を経て、徐々に固いものも食べられるようになっていく。そのプロセス自体が、口の機能の発達そのものです(金子,1987;向井,2000)。
🔍「食べることの難しさ」には、いくつかの"タイプ"がある
食べることに難しさのある子どもたちをみていると、ひとくちに「食べられない」といっても、その背景はさまざまです。
スプーンが口に近づくだけで顔をそむけてしまう子
口には入れるけれど、うまくまとめられずにこぼしてしまう子
飲み込むときにむせやすく、誤嚥(ごえん)のリスクが心配な子
これらはみんな「食べることの難しさ」ではありますが、どのタイプのつまずきかが、それぞれ異なります。
つまずきのタイプが違えば、必要な支援も変わります。そして、どのタイプかを見極めることこそが、適切な支援への第一歩になるのです。
はぐき先生はこの「つまずきのタイプ」を整理するための視点として、日々の臨床の中から3つのフェーズという考え方を大切にしています。
💡 3つのフェーズという考え方
🔵 フェーズ1: 口の「入り口」の機能・感覚の発達が未熟
食べものや道具が口元に近づいたとき、「受け入れてもいい」と感じられるかどうか。これは、口の入り口(口唇や口周囲)の感覚面・機能面の発達に深く関わっています。
このフェーズでつまずいている子どもは、スプーンや食べものそのものへの拒否感が強く現れることが多いです。「食べる気がない」わけではなく、「口に近づくものが怖い・不快」という感覚的な問題が背景にあることが少なくありません。
口の周りや口の中の感覚は、成長とともに徐々に整っていくものですが、何らかの原因でその発達がゆっくりな場合、このような反応が起こります(Toomey & Ross, 2011)。
✅ よく見られるサインの例
スプーンを口元に近づけると顔をそむける・泣く
歯ブラシや指が口に触れると強く嫌がる
口周りを触られることを極端に嫌がる
🔵 フェーズ2: 口の「内側」の機能・感覚の発達が未熟
フェーズ1のつまずき(口の入り口の問題)はある程度クリアできた、つまりスプーンは受け入れられるようになったとしても、今度は口の内側(舌・頬・歯など)での食べものの処理がうまくいかないケースがあります。
「いつまでもドロドロしたものしか食べられない」「丸のみしてしまう」という訴えは、このフェーズのつまずきを示していることがあります。食べものを口に入れてもうまくまとめられない、舌の動きが十分でなく食べものを奥へ送れないといった問題が背景にあることがあります(田村,2021)。
✅ よく見られるサインの例
口の中に食べものをため込んでしまう
ペースト状のものはOKでも、少し粒があるものを嫌がる・うまく処理できない
咀嚼(そしゃく)の練習をしたいのに丸のみしてしまう
食事に時間がかかる、疲れやすい
🔵 フェーズ3: 飲み込みそのものの問題(いわゆる嚥下障害)
フェーズ3は、口の中での処理は比較的できているにもかかわらず、飲み込む段階(咽頭・食道・喉頭など)に問題がある状態です。医学的には「嚥下障害(えんげしょうがい)」と呼ばれる領域です。
具体的には、咽頭(いんとう:のどの奥)に食べものが残ってしまう「咽頭残留」、食べものや液体が誤って気管に入る「誤嚥(ごえん)」などが含まれます。また、飲み込んだものが戻ってきてしまう「胃食道逆流(いしょくどうぎゃくりゅう)」や、のどの構造が生まれつきやわらかく呼吸や嚥下に影響が出る「喉頭軟化症(こうとうなんかしょう)」なども、このフェーズに含まれます。
このフェーズの問題は、外から見えにくいことが多く、注意が必要です。むせが目立つ場合はわかりやすいですが、むせが少なくても誤嚥が起きている「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」というケースもあります(Weir et al., 2011)。
✅ よく見られるサインの例
食事中・食後によくむせる
食後に声がかすれる・ゴロゴロする
気管支炎や肺炎を繰り返す
嘔吐を繰り返している、えずきやすい
空気をよく飲んでいる気がする
⚠️ フェーズ3に該当する場合は、専門的な嚥下機能評価(嚥下造影検査・嚥下内視鏡検査など)が必要になることがあります。必ず医療機関・専門家にご相談ください。

🌟 フェーズを知ることで、何が変わる?
この3つのフェーズという考え方のポイントは、「食べることの難しさ」をひとまとめにしないということです。
たとえば、フェーズ1の子どもに「もっと食べさせなきゃ」と焦って食事の量を増やそうとしても、感覚の問題が解決していなければ、逆に拒否が強まってしまうことがあります。逆に、フェーズ3の子どもに対して「まずは口周りの感覚から」とアプローチしても、本質的なリスクには対応できていません。
どのタイプのつまずきかを見極めてから、はじめて「何をすべきか」が見えてくる。これがフェーズを意識することの大きな意味です。
また、この記事が、専門家に相談するときの「言葉を見つけるヒント」になれば嬉しいです。「むせが多くて心配」「スプーンをすごく嫌がる」「丸のみしてしまう」など、気になるサインを具体的に伝えることで、専門家との対話がスムーズになることがあります。
もちろん、実際の子どもはひとつのフェーズにきれいに当てはまるわけではなく、フェーズ1と2が重なっていたり、状況によって変化することもあります。あくまでも「考えるヒント」として活用していただけると嬉しいです。
🤝 おわりに
「食べない」「食べられない」には、それぞれの理由があります。その理由を丁寧に見つけることが、その子に合った支援への入り口になります。
一人で悩まず、ぜひ専門家に相談してみてください。子どもの摂食嚥下に関わる専門家は、歯科医師・管理栄養士・言語聴覚士・看護師・小児科医など、複数の職種にわたっています。「誰に相談すればいいかわからない」という方も、まずはかかりつけの先生に「食べることについて相談したい」と伝えるところから始めてみてはいかがでしょうか。
次回は、フェーズ1について、もう少し詳しく掘り下げていきます。
📝 個人差について この記事で紹介した内容は、一般的な知識の提供を目的としています。お子さんの状態は一人ひとり異なります。気になることがあれば、摂食嚥下を専門とする医療・福祉の専門家にご相談ください。
📚 参考文献
📕 金子芳洋(編)『食べる機能の障害』医歯薬出版,1987
📕 向井美惠(編著)『乳幼児の摂食指導 お母さんの疑問にこたえる』医歯薬出版,2000
📕 Toomey KA, Ross ES. SOS approach to feeding. Perspectives on Swallowing and Swallowing Disorders. 2011;20(3):82-87.
📕 田村文誉(編著)『子どもとその口腔の診かた 口腔機能発達不全に向き合うための視点』医歯薬出版,2021
📕 Weir K, et al. Oropharyngeal aspiration and silent aspiration in children. Chest. 2011;140(3):589-597.
