税務調査の「リアル」をお話しします。
「税務調査」と聞くと、多くの人が少し身構えるのではないでしょうか。
「半沢直樹みたいに、ダンボールを抱えたたくさんの調査官が、ある日突然自宅にやってくる…」
そんなイメージを持つ人も少なくありません。
けれど、実際の税務調査は、もっと地味で、もっと人間的です。
ある日、税務署から、いついつ頃に調査に行きたい、という旨の電話連絡が来ます。税務署とこちら側の日程を調整して、その予定日に調査が行われます。
調査は基本的には2日間で、午前10時から午後4時ごろまで、あなたの職場で行われます。
調査対象となるのは過去3年分の帳簿で、調査官は「師匠と弟子」のような2人ペアで来ることが多いですが、最近は新人が1人で来るケースもあります。
税務調査が来るのはあなたが何か怪しまれているからではなく、基本的にはランダム、つまり「運」次第です。法人だと7~10年に一度くらいは来ると思っていて下さい。
ただ、税務署も“成果”を意識するので、「とれそうな相手」を狙い打ちしてくることもあります。
そういう意味で、税理士をつけずに申告している個人事業主の方は、たいてい何かしらの経理ミスをしていることが多いので、狙われるリスクが少し高いと言えます。
調査の現場で起きているのは、「人間と人間」のやりとり
調査の現場では、まさに“人間と人間”のやりとりが行われます。私が立ち会ってきた税務調査には、実にさまざまなドラマがありました。
税務調査は「税金をとりたい側と、とられたくない側」の心理戦。そんな構図にも見えますが、調査官と敵対しても何も生まれません。
経費に入れる・入れないの線引きや、棚卸資産や固定資産の計上根拠など、グレーな部分も多いからこそ、敵対するのではなく、冷静に主張する姿勢が問われます。
印象的だったのは、過去に10年ほど調査官をしていて、その後税理士に転職した仲間が教えてくれた言葉です。
「調査は ” 帳簿に載っていないものを見つけに行く仕事 ” なんです」
帳簿に載っていない隠された売上や、実際に存在しない外注費など、帳簿とは別のところに嘘は隠れているということです。
言い換えれば調査とは、数字の裏にある“人となり”や“経営者の姿勢”を確認しに来るということ。経理の数字の中には、その人の誠実さや姿勢が必ずにじみ出ます。
あと「お話し好きな人」は注意が必要です。
調査官は、世間話からもヒントを得て、税金の取りどころを探ります。
仕事とは関係ないから大丈夫だろうと油断して、余計なことを口走った結果、思わぬところから税金を取られることもあります。
また逆に、敵対的になりすぎるのも良くないです。
調査官も人間なので、対応が悪い人には、調査官も厳しい姿勢でのぞんでくるでしょう。
「フレンドリーすぎず、敵対しすぎず」
まさに人間対人間のバランス感覚が大事だと私は経験則から感じています。
税理士の役割は「翻訳者」であり「弁護人」
前述のとおり、税務調査は単なる数字の確認作業ではありません。
それゆえに、調査では税理士の「説明力」と「交渉力」、そして「人間力」が大きく問われます。
たとえば、取引の中に複雑な経理処理や特殊な契約などがあると、初見では調査官が理解できないこともあります。そんな時、税理士は“翻訳者”のように噛み砕いて調査官に経理処理上の誤りが無いことを説明します。
また顧問先が不利な状況に陥りそうな場合には、「弁護人」として経営者を守る立場にもなります。
調査の終盤では、いわば“手打ち”のポイントを探る場面もあります。
どこで納得してもらうか、どこまで譲るか…
そこで必要なのは、まさに経験と人間関係の妙です。
そして私は常に思うのです。
「経営者にとって一番ストレスなのは、仕事のことからプライベートまで、細かく根掘り葉掘り聞かれること」だと。
だからこそ、そのストレスを少しでも和らげるのが、税理士の腕の見せどころと思っています。
税務調査に立ち会うと、経営者の“人間性”も見えてきます。
真面目な人は経理も丁寧で、調査官への受け答えも真摯。
一方で、嘘をつく人は、調査官のみならず税理士に対しても嘘をついている。
また、調査の現場は、経営者だけでなく、税理士自身が「品定めされる場」でもあります。顧問先がピンチのとき、どんな姿勢を見せられるか。
顧問税理士が信頼に足る人物かどうかが、調査のときに垣間見えるのです。
読者へ伝えたいこと「恐れず、誠実に向き合う」
税務調査は、怖いものではありません。
「税務調査=粗探し」と思われがちですが、実際には「帳簿が正しくつけられているか」を確認するのが目的のほとんどです。
簡単に言えば、普段の経理に対する“丸つけ”のようなもの。
自信を持って、正しい経理をしていれば、必要以上に恐れる必要はありません。
嘘をついていなければ、堂々としていればいい。
なので、自分の経理を自分で理解しておくことは大切です。
調査に対する不安や混乱の原因は、自分の経理が自分で「わかっていない」からなのです。
経営者が、経理を全て自分でやる必要は無いですが、日頃からある程度は経理を”理解”し、誠実に申告していれば、調査はむしろチャンスです。
「自分の経営が正しくできている」ことを確認する機会でもあるのです。
もし自分の経理に不安を感じるなら、税理士をつけることを強くおすすめします。
私たち税理士は、調査の場であなたの味方になるためにいます。
そして若手の税理士さんにも伝えたいことがあります。
初めての調査は誰でも緊張するものです。
でも、社長はあなたを調査官から“守ってくれる唯一の人”として見ています。
日頃からきちんと経理をしていると自信を持って言えるのであれば、頼れる税理士さんだと思ってもらえるよう、堂々としていましょう。
そして調査官とも敵対せず、ビジネスパートナーとして真摯に対応する…
そうした姿が、社長との、そして調査官との信頼関係を作ってくれます。
税務調査は「生き方」が現れる場所
私は、税務調査は、“試される場所”だと思っています。
帳簿の正確さはもちろん、経営者と税理士がどれだけ真摯に日々の仕事や経理に向き合っているか…その「姿勢」を見られている場です。
嘘をつかない。自分に自信をもって生き、間違いはきちんと認め、誠実に対応する。
そういう人は、やっぱり仕事もうまくいっている。
税務調査の現場では、“生き方”が出ます。どんなに数字を整えても、誠実さはごまかせません。
だからこそ私は、いつも思うのです。
税務調査は、「人としてどう生きているか」が映る鏡だと。
