電気代の1%が、高校生を社会の当事者に変えた。
人前で話すのは、得意じゃなかった。
誰かを引っ張っていくのも、自分には向いていないと思っていた。
福岡女子商業高校の吉川桃加さんは、一年前の自分を、そんなふうに振り返ります。
高校2年生になる春、面談の席で、先生からある提案を受けました。
毎月支払う電気代の1%を、どの社会貢献団体に寄付するのかを、自分たちで決めてみないか――。
福岡女子商業高校が選んでいるハチドリ電力には、その1%を社会課題に取り組む団体へ寄付できる仕組み「ひとしずくアクション」があります。
この支援先を決める「ハチドリプロジェクト」のリーダーに選ばれたのが、環境委員長をしていた吉川さんでした。
「急にリーダーをしないかと言われた時は、不安がめちゃめちゃ大きくて。」
学校が支払う電気代の1%。その使い道を、自分たちで決める。
その責任の重さに、引き受けるかどうか迷ったといいます。それでも、一歩踏み出そうと思えたのは、ひとりではなく、みんなで取り組むことに意味を感じていたからでした。
「自分ひとりの活動だと、自己完結しちゃうなって。ひとりでするより、みんなでやった方が、学べることも経験できることも多いのかなって。」
校内のチャットで仲間を募ると、学年も所属もばらばらの、15人弱が集まりました。
「もともと環境にすごく関心がある」という子ばかりではありません。
何かやってみたかった子。社会課題に興味のある子。きっかけは、それぞれでした。
「どの団体か」より、「どう決めるか」だった
集まったメンバーで、最初に話し合ったのは「どの団体に寄付するか」ではありませんでした。「どんな基準で選ぶか」そこからでした。何度も対話を重ねて、5つの言葉に行き着きます。
つながり、還元、挑戦、独自性、当事者意識。

なかでも吉川さんが大事にしていたのが、「還元」と「当事者意識」でした。
還元とは、寄付をして終わりではなく、その後も生徒たちが学び続けられる関係であること。支援する・されるという一方通行ではなく、お互いに学び合える相手を選びたい。寄付という言葉から思い浮かぶ「あげる・もらう」とは、少し違う関係を、生徒たちは最初から見ていました。
もうひとつの当事者意識は、「これは全校生徒の――もとをたどれば、おうちの人から預かった大切なお金だから」という実感からきています。だからこそ、全校生徒にとって自分ごととして考えられるテーマかどうかを、 外せない基準にしたのです。
多数決で終わらせなかった
グループごとに調べた団体を持ち寄り、校内でプレゼンをして、候補を5つに。さらに生徒みんなの投票で、3団体まで絞りました。最終候補となった団体は、実際に学校へ招いて、直接話を聞く時間も設けています。
ホームページではわからない、活動に込めた思い。現場で感じている課題。これから目指したい未来。聞けば聞くほど、吉川さんはあることに気づいていきました。

正解は、ひとつじゃない。「どの団体も魅力があって、それぞれ感じることが違ったんです。」最後の話し合いでは、意見がふたつの団体に、きれいに割れました。 ふつうなら、多数決。でも吉川さんは、そうしませんでした。
「多数決で決めるより、それぞれが意見を持った上で、お互いを尊重しながら対話した方が、納得できる答えが出ると思ったんです。」
たとえば、ある団体に強く心を寄せていた子がいました。自然の豊かな地域で暮らし、普段から自然を守る活動に参加してきたその子にとって、その団体の活動は、自分の日々と重なるものだったのだといいます。 多数決なら、そうした一人の思いは、数の中に埋もれてしまう。けれど吉川さんは、その声こそ丁寧に聞きたいと考えていました。
もう一度、5つの基準に立ち返り、この団体は、私たちの学校に何を返してくれるだろう。新しい挑戦につながるだろうか。一人ひとりが理由を持ち寄り、話し、聞き、また話し合いました。
その先で、全員がたどり着いたのが、福岡を拠点に活動する福岡テンジン大学さんでした。
決め手になったのは、寄付という形だけで終わらず、生徒自身も関わりながら学び続けられること。世代を超えた対話を大切にするその活動に、「対話から、実際の行動に移していける」という、自分たちの目指す姿が重なったのです。
このプロセスを、そばで見ていた長友先生は、こう振り返ります。
「多数決で終わらせず、一人ひとりの声を最後まで聞こうとしていた。その姿が、とても印象に残っています。」

生徒に判断を委ねたことで、変わったこと
このプロジェクトには、普段の学校生活や探究学習とは、 少し異なる点がありました。 扱ったのが、本当に社会で使われるお金だったことです。
「挑戦を楽しめ」
これは福岡女子商業高校の教育方針です。
先生が答えを渡すのではなく、生徒自身が考え、挑戦することを大切にしています。長友先生は、自分の役割を「伴走者」と呼びます。
「僕たちが答えを持っていくのではなく、『こういう対話をするとゴールに近づくんじゃないかな』と、問いを投げかける立場でいたいと思っています。」
ただ、と先生は続けます。任せきりにすれば主体性が育つ、という単純な話ではない。鍵になったのは、本物のお金を、勇気を持って生徒に手渡したことでした。
「学校の重要な決断や、家庭からいただいている大切なお金を、生徒に託す。そうすることで、『自分たちが考えなければいけない』という責任感に変わっていくんです。」
責任があるから、本気になる。本気だから、深く調べ、人に会い、何度も話し合う。その積み重ねが、生徒たちを少しずつ変えていきました。

社会は、遠くにあると思っていた
一年を終えて、吉川さんの中で、いちばん大きく変わったもの。それは、社会課題との距離でした。
「社会課題への見方が、180度くらい変わりました。前は、ちょっと遠くにあって、自分には関係ないから、いいやって思ってたんです。でも、手繰り寄せていったら、自分たちと、めちゃめちゃ密接なものなんだなって。」
学ぶ、ということの意味も変わりました。 これまで学びとは、先生や教科書から教わるものだと思っていた。けれど、実際に社会で動いている大人の話には、経験に裏打ちされた説得力があった。現場にいる人にしか見えない課題がある。だからこそ、「もっと深く知りたい」という気持ちが、ふくらんでいったといいます。
この変化は、進路にもつながりました。誰かの困りごとをビジネスで解決する――そんな道に惹かれ、吉川さんは社会学部への進学を考えています。なかでも関心があるのは、地域活性化。
「若い人って休日にどこか行きたいなって思うと、遠くを探しちゃうんです。 近くには何もない、って。でも、本当はすぐそばに、たくさんあるのに。」
自分の住む地域を、誇りに思えること。その魅力を、同じ世代に伝えられる何かをしたい。社会を遠くに感じていた彼女が、いま、いちばん身近な場所に目を向けようとしています。

次の代へ、受け継がれていくもの
来年、このプロジェクトを誰が引き継ぐかは、まだ決まっていません。けれど吉川さんには、ひとつ思うところがあります。寄付先を、毎年その代の生徒が、自分たちで決め直せたらいい、と。
「先輩が決めたから、ここ。じゃなくて、自分たちの代で、ここにしたいって意思を持って関わる方が、活動の質も変わると思うんです。新しい出会いが、考え方や価値観が変わるきっかけにもなるから。その出会いを大切にしたいなって。」
このプロジェクトは、単にお金の使い道を決める枠を超えて、生徒たちが自分の価値観で社会と向き合い、「どうしたいのか」を考える時間そのものになっていました。
電気を選ぶという、小さな選択。
その先には、社会を遠くに感じていた高校生が自分の意思で歩みはじめる、確かな成長と新しい出会いが生まれていました。

▶福岡女子商業高校のみなさんが自然エネルギー100%の電気を選んだ理由も、インタビューでお話いただいています。もしよろしければ、こちらの記事もご覧ください。
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