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怒りとの付き合い方— 中国古典に学ぶ「腹が立ったとき」の対処法

人はどんな時に腹を立てるのか。

理不尽な扱いを受けたとき。
思い通りにいかないとき。
期待が裏切られたとき。

いろんな場面があるものです。

怒りは人として自然な反応です。
中国古典も、これ自体を否定していません。

中国古典が問題にしているのは一貫して、
怒りという感情をどう扱うかです。

中国古典のスタンスを先に言えば、こうなります。

怒りはあっていい。だが、コントロールせよ。

この点を、さまざな思想でもそれぞれの角度から繰り返し述べています。

▮怒りで動くな

まず押さえるべきは、怒りと意思決定の冷静な切り分けです。
孫子ではこのように説いています。

「主は怒りを以て師を興すべからず」
「合於利而動、不合於利而止」

怒りで軍を動かしてはならない。
利益にかなうときのみ動け。

ここでのポイントは明確です。

感情を起点に物事を判断しないということです。

なぜなら、怒りの状態では、

  • 視野が狭くなる

  • 相手を過剰に敵視し、実力や状況を客観視できない

  • 短期的な発散を優先する

結果として、「勝つための行動」ではなく「鬱憤を晴らすための行動」に
なるだけです。

怒りに任せて取った行動が結局は後々自分を苦しめることになるのは
世の中の数多の例を見ても明らかです。

カッとなって衝動的に暴言を吐く、手を上げる。

悲惨な事件、事故の始まりはたいがい感情的で衝動的ですし、
家庭内の不和、職場での悪循環が起きる理由も同じです。

だからこそ、

  • 怒っているときは判断しない

  • その場で反応しない

  • 時間を置いてみる

これは我慢ではなく、自分の身を守り、常に正しい判断を選択するための最低条件であると言えるでしょう。後悔先に立たずということです。

私も普段穏やかな性格ですが、人間ですから腹が立つこともあります。
けれど、それでも一切その感情を表には出さず、まして怒りに任せた
行動は取らないように日頃から心がけています。

腹を立てるだけ損で、感情に任せてしたことでいいことがあった試しがないのをよく知っているからです。

また、50をとうに過ぎて、すぐにカッとなるのもみっともないですし、
そんなエネルギーがあったら別のことに使いたい。そう思っています。

▮八つ当たりしない

次に問題になるのが、怒りの行き先です。
論語では怒りという負の感情をこう説いています。

「不遷怒、不貳過」
怒りを遷さず、過ちを繰り返さない。

「遷怒」とは、怒りを別の対象に移すという意味で、簡単に言うと、
八つ当たりです。不貳過は、過ちを繰り返すなという意味です。

人はしばしば、

  • 相手には面と向かって言えず

  • 表面的な関係を壊したくない

そのため、怒りの矛先を言いやすい相手に向けることがあります。

また、モノに当たる場合もあります。私も恥ずかしながらカッとなってPCの
ディスプレイを壊してしまったこともあります。

ただ、八つ当たりは一時的なストレス解消になったとしても、特に対人関係では、次のような状況を生み出します。

  • 信頼関係が損なわれる

  • 関係が歪む

  • 場の空気が悪くなる

一度、そうなってしまうと修復は至難の業です。

「この人は感情的な人間で、対話する価値のない人間だ」
そう思われるとその後にどう関わっても表面的な関係に終始します。

そして、最も重要なのは、八つ当たりでストレスが解消できても、原因は
放置されることです。
だから同じことが繰り返されてしまうのです。

原因は、いろいろあるでしょう。

上司と部下の関係であれば、不明確な指示であったり、傲慢な態度で
あったりとさまざまです。

家庭内であれば、日頃から奥さんにしてもらっていることに感謝や労いも
なく、気に入らないことがあれば怒り出すなどです。

カッとなると頭に浮かんだことをすぐに言葉にし、人によっては手が出る。
普通の顔して、内面が粗暴な人は案外多いような気がします。幼児性を克服できないまま無駄に歳を重ねるとそんな人格になります。

だから、

  • この怒りはどこに向くべきものか

  • 無関係の人に八つ当たりしていないか

  • 怒りに任せると何が起きるのか

この確認だけで、心の無駄な摩擦の大半は防げるようになります。

▮怒りを見せない

さらに踏み込むと、怒りはリスクになります。
韓非子ではこう指摘しています。

「好悪見れば、則ち人これを制す」
好みや嫌悪が表に出れば、人はそれによって操られる。

怒りは「嫌悪」の最も強い表現です。
つまり、怒りを見せた瞬間に、人に操られる存在になるという指摘です。

カッとなっている相手は、

  • 挑発に乗りやすい

  • 誘導されやすい

  • 本音を晒しやすい

特に交渉やマネジメントでは致命的です。
怒りは外に出た瞬間に、情報になり、その情報は必ず相手に利用される
ようになります。

煽られれば相手の思うつぼ。逆上している人間は、挑発によって誘導され
やすくなってしまうことがあります。

売り言葉に買い言葉。
相手はあなたの地雷をわざと踏んで、あなたの軽率な行動を引き出そうと
しているかもしれません。

例えば、あなたを快く思っていない部下があえてあなたに腹立たしい態度で臨んでくる時に部下はあなたを単に嫌いということだけでなく、

パワハラですよね?
モラハラですよね?

こう言えるための証拠作りをしようとしているかもしれません。
こうなると、どちらに主導権があるのかは自明です。

だから、

  • すぐ反応しない

  • 表情・言葉に出さない

  • 一度受け止める

これも我慢ではなく、自らの主導権を守るために必要な行動です。

そして、怒りは放置すると繰り返されたり、増幅されます。
そうならないためには、

  • 期待のズレ

  • 認識のズレ

  • 役割のズレ

これらを冷静に受け止めて、なぜ自分は怒りを感じたのか、次にどう防ぐかを考えない限り、怒りという無駄なエネルギーを消耗し続けることになります。

▮まとめ

中国古典が示しているのは、シンプルです。

孫子は、怒りをもとに判断、行動するなと説く。
論語は、他人に八つ当たりするなと説く。
韓非子は、怒りを安易に見せるなと説く。

すべて共通しているのは、怒りを外に持ち出さないという一点です。

だからやるべきことは一つです。
怒りはその場で止め、外に漏らさず、冷静に原因を探ることです。

そして、もっとも良いのは、忘れることです。

感情と問題を分けて扱い、その線を越えないこと。
それが、中国古典に共通する怒りとの付き合い方の教えです。

私自身はアンガーマネジメントの専門家ではありませんが、
シンプルな心がけだけで、ストレスが少ない時間を過ごしています。