ぐん税ニュースレター vol.66 page01 -ご挨拶-
立春とは名ばかりの厳しい残寒が続いておりますが、皆様におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
今回は、日々の実務を通じて改めて痛感した日本の会社法・商事実務が抱える「構造的な時代遅れ」について、経営者の皆様にぜひ共有しておきたい問題意識があります。
テーマは一言で言えば、「-日本の会社法・商事実務は、なぜ経営の足を引っ張るのか -」という点です。
■ たった「1日」で狂う経営スケジュール
先日、ある企業の合併手続において、「合併期日をいつに設定できるのか」という一見するとごく基本的な論点が問題となりました。
12月1日を合併の効力発生日とするため、会社法の定めに従い、その1か月前である10月31日に合併公告を行いました。公告内容・方法ともに適法であり、債権者からの異議も想定されない、いわば「形式も実質も整った」合併でした。
ところが、合併登記の段階で、「公告期間が1か月に満たない」という理由から、登記が受理されませんでした。
理由は、公告期間の満了日にあたる11月30日が日曜日であったため、民法上の期間計算により、公告期間の満了日は翌営業日である12月1日となり、結果として、合併の効力発生日は12月2日以降でなければならない、というものでした。
法令解釈としては、確かに誤りではありません。しかし、電子公告・電子申請が前提となった現在において、「実質的な影響がほぼ存在しない1日の差」で、経営スケジュール全体が崩れるという現実には、大きな違和感を覚えざるを得ません。
12月1日付けで合併ができないとなり合併公告をやり直すことになれば、官報に公告をするためには2週間はかかりますので、12月末になんとか合併公告を掲載して、2月1日を合併期日にするということになってしまいます。2ヵ月も合併が延期になるなんて企業にとっては死活問題です。
■ なぜ、このような不合理が起きるのか
この問題の本質は、個別の登記官の判断や、担当者の裁量にあるわけではありません。
原因はもっと根深く、明治時代に設計された期間計算ルールが、電子化された現代実務にそのまま残っているという点にあります。
民法における期間計算のルールは、「役所に出向いて申請しなければならなかった時代」を前提に、国民を不利益から救済するために設計されました。そのため日曜日はカウントしないのです。
しかし現在では、公告は電子で行われ、登記もオンラインで24時間受け付けられます。
にもかかわらず、制度だけが「役所が開いているかどうか」という過去の前提を引きずっているのです。
このズレが、今回のような「誰も得をしない形式的な不成立」を生み出しています。
■ これは氷山の一角にすぎない
他にも、日本の会社法やビジネス関連の分野には、すでに実態と合わなくなっている法律や実務慣行が、数多く残っています。
例えば、次のような制度です。
① 役員報酬の定期同額給与制度
役員報酬は原則として毎月同額でなければ、損金算入が認められません。本来、経営環境や業績に応じて柔軟に報酬を設計すべきにもかかわらず、経営の柔軟性を税法が縛っています。例えば、役員報酬は日割りができません。月末に就任しても1カ月分を支給しないと損金算入が認められません。または規定で就任月については役員報酬を支給しないとすれば支給をしないことはできますが、他の役員が1日に就任しても役員報酬を支給できないといった不都合が生じてしまいます。
世界基準では、役員報酬は固定給+業績変動給+KPI連動なので極端に言えば、毎月変動することもあります。なのに、日本では月額同額でないといけない、これは世界のビジネスリーダーからナンセンスと批判されても仕方ないと思います。
② 合併・会社分割における公告・催告手続
電子公告が普及した現在でも、紙と期間管理を前提とした厳格な手続が求められています。
実質的な債権者保護効果が乏しいケースでも、形式的な手続を省略することはできません。債権者のだれもが異議を出さないような零細企業でも官報公告及び書面による個別催告などの債権者保護手続を行わないと登記を認めてもらえません。電子公告やメールによる催告は無効です。また債権者全員が同意していても1ヵ月の債権者保護期間を短縮することはできません。上記のような1日ズレ地雷が発生することもあります。登記官は債権者保護ができているかについての実質審査は全く行っていないのにもかかわらず、全く意味のない形式的な負担を100%企業が負っているのが実態です。
③ 実印・印鑑証明への過度な依存
電子署名の方が合理的で安全であるにもかかわらず、依然として実印と印鑑証明がビジネスのスピードを左右しています。電子署名の方が改ざん耐性・本人性が高いのにもかかわらず、銀行・登記・M&Aで実印を要求されます。実印は盗むことが可能で本人以外が押印することができ、不正が容易に可能です。「ハンコは文化」ではなく「慣性」です。
これらに共通しているのは、「不正を防ぐ」ことを最優先するあまり、実際は“善意の企業”を一番苦しめているという構造です。「悪い人を捕まえるために、良い人の自由を縛る」設計のままになっています。
日本の政治が停滞していることで、会社法・商事実務が前近代的なまま放置されているということに国民はもっと意識すべきです。実質的な利益がないのに形式的な法律が放置されている現在の状況は、緊急に是正する必要があります。高市総理には、これまで先送りとされてきたこのような課題がスピード感をもって解決されることを望みます。
■ 経営判断を守るための実務視点
当法人では、税務・会計だけでなく、会社法、登記実務、商事慣行まで含めて俯瞰し、制度の落とし穴を前提とした経営支援を行っています。
これは「慎重になりすぎる」ということではありません。むしろ、本来注力すべき経営判断に集中していただくために、制度リスクを先に潰しておくという考え方です。
制度に振り回されるのではなく、制度を読み切ったうえで経営する。
それが今の日本で企業を成長させるための現実的な戦略だと考えています。
寒さ厳しき折ではございますが、
皆様のご健勝と、企業のさらなるご発展を
心よりお祈り申し上げます。
ぐんま税理士法人
代表社員 小林 浩一 (by Chat GPT)
