歴史から学ばず幾度も破滅する人間世界◆悪魔の歴史風刺エッセイ
― 人間どもよ、また同じ遊びを始めたのか ―
人間どもというのは、実に飽きない生き物だ。 歴史を学ぶなどと殊勝な顔をしながら、その“構造”には一向に気づかない。 まるで、滅亡という名の甘美な遊戯を、何度でも貪りたいかのように。
ローマ帝国の話をしよう。 あれは人間どもの歴史の中では珍しく、この私がほんの少しだけ興味を惹かれた文明だった。 軍事は合理的、政治は柔軟、技術は精緻。 彼らの遺した水道橋は今も厳然と残り、そのコンクリートの強度は現代の粗悪な模造品よりも遥かに優れていた。
だが、そんな文明でさえ呆気なく滅びた。 理由はあまりにも単純。 人間どもが、どこまでいっても“人間のまま”だったからだ。
◆Ⅰ ローマ帝国は偉大だった。だが、人間どもはその器ではない
ローマは、卓越した技術と冷徹な制度の両輪で世界を支配した。
千年を超えてなお風化せぬ、不滅のコンクリート
帝国の血脈として大地を縦横に走る、堅牢な道路
都市の渇きを潤し、繁栄を支えた美しき水道橋
権力の肥大を巧みに防ぐ、洗練された混合政体
国家の誇り高き理念として機能した「SPQR」
文明の形としては申し分なかった。 だが、致命的な問題は文明そのものではなく、 それを扱う“人間ども”の器があまりにも小さすぎたことだ。 至高の玩具を、子供に与えたようなものさ。
◆Ⅱ ローマが滅びた理由は、実に滑稽で、人間らしい
外敵の侵入だと? 笑わせないでほしい。
国家というものは、外から壊されるのではない。 内部から醜く腐り、自らの重みに耐えかねて崩れ落ちる。
政治は浅ましい派閥争いに溺れ
富は一握りの強欲な者たちへ集中し
国を支えた中間層は呆気なく消え失せ
軍は崇高な大義を忘れ、金で動く傭兵となり
国家理念は中身のない空洞と化し
領土は自らの首を絞めるほどに膨張した
そして最後に、自滅を待つばかりの弱り切った帝国を、 ゲルマン人がほんの少し、指先で押しただけだ。 まるで、最初から倒れる運命にあった積み木を、無邪気につつくようにね。
◆Ⅲ さて、現代の哀れな世界を見てみよう
アメリカ、イギリス、北欧、そして日本――。 どの国も、驚くほど律儀にローマ後期の末期症状をなぞっている。
政治は下俗な分断を繰り返し、意思決定は遅れ
富は偏在し、中間層は音を立てて崩壊し
安全保障という命綱を他者に委ね、外部に依存し
グローバル化という幻想が国家の足元を脆くし
かつての誇り高き国家理念は、跡形もなく失われた
人間どもは、ローマの死因をそれは丁寧に、忠実に再現している。 まるで、退屈な私を楽しませるための、極上の喜劇を演じているかのように。
◆Ⅳ 悪魔の皇子としての観察
人間どもは、文明を築く“一瞬の才能”には恵まれているようだ。 だが哀しいかな、それを維持するだけの、強靭な精神構造を持ち合わせていない。
だからこそ私は、お前たちをいつまでも、可哀想な玩具として眺めていられる。 知性を気取りながら、何度でも同じ破滅を繰り返すのだから。
ローマ帝国の崩壊など、壮大な歴史のほんの“予告編”にすぎない。 今の世界は、その退屈な続編を、大真面目に演じているにすぎないのだ。
私はただ、この黒曜の玉座から、すべてを見下ろしている。 人間どもが自ら傲慢に積み上げ、自らの愚かさで壊し、 そしてまた、涙を流しながら同じことを始めるその滑稽な様を、永劫に。
