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耐えないサウナが、あった。

ゴールデンウィークは、どこへ行っても人がいます。

それはもう、わかっていました。わかっていたので、最初から観光地という選択肢を頭の外に出していました。にぎやかな場所へ行って、写真を撮って、混んでいる店に並ぶ、という連休の過ごし方が、今年はどうしてもできる気がしなかった。ただ、日常からすこし遠いところへ行きたかった。

それだけを手がかりに探していたら、グランピングの候補が出てきました。いくつか見ていくうちに、一つの文字が目に入りました。

プライベートサウナ付き。

それ以上、読みませんでした。ここにしようと思いました。


🏡 一軒家みたいなところに泊まった

到着して、ドアを開けた瞬間に、施設に来た感じがしませんでした。

家に入ったみたいでした。広くて、整っていて、自分の場所みたいな空気がありました。大きなテレビ、おしゃれなキッチン、全自動のトイレ、広いシャワー室にお風呂。寝室には大きなベッドがあって、横になった瞬間に沈み込むような感触がありました。プロジェクターのスイッチを入れたら、天井いっぱいにYouTubeまで映りました。

YouTubeまで、です。

不便を探しました。見当たりませんでした。何かを諦めようとして、諦めるものがない。旅先に来たはずなのに、どこにも力が入っていませんでした。普段、旅先ではどこか気を張っています。荷物の置き場所、明日の準備、シャワーの順番。そういう小さな段取りを、ずっと頭の片隅に置いている。それが、この場所では全部、ふっと消えていました。

一通り見て回って、最後にサウナの扉の前に立ちました。


🌿 最初のサウナ、緑の中で

サウナポンチョに着替えて、扉を開けたら、もうそこがサウナでした。

中に入ると、目の前に緑がありました。窓の向こうに木々がそのままあって、まだ明るい時間で、光が葉のあいだを通り抜けていました。サウナの熱の中で、その緑をぼんやり眺めていました。

しばらくして、気づきました。肌が、ひりつかない。

私はサウナが好きで、月に何度かは行きます。ただ正直に言うと、サウナそのものより外気浴の方が気持ちいいと思っていました。サウナ室で熱さに耐えて、水風呂に飛び込んで、冷たさが全身に広がったところで外の空気の中へ出る。体がじわじわと整っていく、あの感覚のためにサウナに入っていた、というのが正直なところでした。

普段のサウナは、ある温度を超えると皮膚が痛くなります。熱さではなくて、痛さ。それが限界の合図で、合図が来たら出る。それがサウナというものだと思っていました。今日は、その合図が来ませんでした。

息も苦しくない。パートナーと普通に話せています。体は確かに温まっているのに、追い詰められていく感じがない。どこかで身構えていたものが、ずっと来ないまま時間だけが過ぎていきました。

耐えていない。なのに、サウナにいる。

出るタイミングがわかりませんでした。限界が来ないから、終わりがわからない。いつまでも入っていられる気がして、それが少し、怖かったです。

ロウリュウも、自分でできました。ストーンに水をかけると、蒸気がふわっと広がります。その量も、タイミングも、全部自分で選べる。普段は、誰かが整えた環境の中に入らせてもらっている感覚があります。温度も湿度も、こちらには何も決められない。今日は違いました。温度も、湿度も、蒸気のタイミングも、全部こちら側にある。

アロマを垂らすと、熱波と一緒に香りが来ました。目を閉じると、熱さと香りと、窓の外の緑だけになりました。ロウリュウの後でも、まだ心地よかった。普段なら体がきつくなって、そろそろ出ようという気持ちになります。今日は、そうならなかった。しばらく、出る気になりませんでした。

気づいたら、ずいぶん長い時間が経っていました。


🔥 食べすぎた夜のこと

サウナから出て、夕方になって、外でバーベキューをしました。

火を起こして、炭の前に座っていると、それだけでもう十分な気持ちになりました。何もしゃべらなくても、肉が焼ける匂いと、火の音と、だんだん暗くなっていく空があれば、それで成立してしまう夜というものが、あります。

ただ、量を完全に読み間違えていました。火を眺めながら、なんとなく心細い気持ちになって「食材が足りないかもしれない」という根拠のない不安に駆られて、ピザを2枚追加で注文しました。

注文してしばらくして、テーブルの端に気づきました。ホイルにしっかり包まれた、かなり大きな塊がありました。ずっしりとした存在感で、形からして、いい肉の塊が最初から用意されていたのだと思いました。

期待しながら、ゆっくり開けました。

おにぎりが、4個入っていました。

2枚のピザと、おにぎり4個。静かな夜に、二人で顔を見合わせました。どうにもならない量でしたので、おにぎりは翌朝に持ち越しました。癒しを求めて来た場所で、在庫管理をしています。

食後、もう一度サウナに入ることにしました。


🌑 夜のサウナは、真っ暗だった

扉を開けたら、窓の外が何も見えませんでした。

昼間あった緑は、どこかに消えていました。ガラスの向こうは真っ暗で、自分の顔が少しだけ映り込んでいました。同じサウナなのに、まるで別の場所みたいでした。見るものがないから、熱さだけがありました。

昼間とは違う種類の気持ちよさでした。景色がない分、体の内側に意識が向かう感じ。目を閉じると、暗さと熱さだけになって、どこかへ沈んでいくような感覚がありました。

部屋に戻って、プロジェクターをつけました。天井にYouTubeを映しながら、そのまま眠りました。


🐦 朝のサウナで、ウグイスが鳴いた

翌朝、目が覚めてすぐサウナに入りました。

扉を開けると、窓の外にまた緑がありました。昨夜は何も見えなかった場所に、朝の光の中で木々が戻っていました。しばらくして、鳥の声がしました。

ほーほけきょ。

ウグイスでした。サウナの熱の中で、その声がはっきりと届きました。こんなにきれいに聞こえたのは、初めてでした。音がどこか遠くにあるのではなくて、自分の周りの空気ごと、その声に満たされているような感じでした。

目を閉じたまま、しばらくそのままでいました。そのまま、ぼんやりと考え始めていました。


💭 何と戦っていたんだろう

わたしはいつも、サウナで何かと戦っていたんだと思います。

熱さに耐えて、水風呂に入って、外気浴でととのう。その流れがサウナで、サウナを乗り越えた先に気持ちよさがある。そういう構造をずっと当たり前にしていました。今回は、乗り越えるものがありませんでした。

サウナにいること自体が、ただ気持ちよかった。そういうサウナが、あるんだと知りました。


☀️ また、絶対に行きます

チェックアウトの準備をしながら、自分がずいぶん軽い気がしていました。

体の内側のほうから、静かになっている感じ。うまく言えないのですが、清められた、という言葉が一番近かった。大げさかもしれないけれど、それ以外に当てはまる言葉が見つかりませんでした。

おにぎりは、ちゃんと完食しました。

また絶対に行きます。次はもう少し、食材の量を考えます。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。



#創作大賞2026 #エッセイ部門

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