門番レイン 第二十話 旋律と同期
第二十話「旋律と同期」

「口ずさんだな」
背中から、鍵束の音。じゃらじゃら。
午前担当、元・盗賊。
目が細くて、真顔で言う。
「……口ずさんでません。ハミングです」
「口ずさんでもいた」
「……まじってた、かもしれません」
盗賊はレインの喉元を見た。
「喉が軽いときほど、情報が漏れる」
「喉から情報って漏れますか?」
「漏れる。音は足跡より正直だ」
盗賊は耳を澄ませる仕草をした。
そのまま腕を組む。
「で、その旋律。途中から同じになるな?」
レインはわずかに目を見開いた。
「……なります。なんでわかるんですか」
盗賊は畑の道の先――門通りの方を指さした。
「村は今、なんとか亭の客が増えつつある。
楽しみは、口が覚える。覚えたものは、勝手に出る」
「……まあ、なんとなくはわかります」
盗賊は満足そうに言った。
「つまり、お前の喉は今、村の楽しみに乗っ取られてる」
「乗っ取らないでください!」
盗賊はレインの肩をぽん、と叩いた。
「午前の対処をする」
「必要ですか?」
「必要だな」
盗賊は少し身をかがめ、地面に小石を三つ並べた。
靴先で「トン、トン、トン」と地面を鳴らす。
「歩き方を変える。
旋律が同じなら、足でズラせ。足は盗られにくい」
「足も盗る?」
「盗れるのは、俺くらいだがな」
(どんなスキルだよ!)
盗賊は小石を指さした。
一、音をズラせ。
二、口を止めるな。
三、音の終わりに足せ。
盗賊は紙にスラスラ書く。
「……ほんとに貼るんだ」
「貼る。貼ったら村が従う」
レインは紙を見つめた。
(……貼るほどのものじゃない。ハミングだ。)
盗賊は鍵束を鳴らして、門通りのほうへ向かった。
午後。
風が少し落ち着き、日が高くなるころ、空気が少しだけ暖かくなる。
黒い外套の男が、音もなく現れた。
「午後の門番。魔道士である」
掲示板の前に、盗賊が立っていた。
さっき書いた紙を、ぴたりと貼る。鍵束が、じゃら、と小さく鳴った。
盗賊は魔道士の方を見て、あごで合図した。
任せた、という感じだ。
それだけ残して、門通りのほうへ歩いていった。
レインはさっそくたずねた。
「……ハミングが途中から同じになるんです」
魔道士はうなずいた。
「旋律の同期である」
「同期って、カエルが一斉に鳴き出すやつじゃないんだから」
「世界は同期する。特に村は同期しやすい。狭いからである」
魔道士はレインの喉元を見て、淡々と告げる。
「対処を置く。唱えよ。『旋律、共鳴』」
「共鳴……?」
「区切りである」
「音は揺れである。揺れは止めず、切って流せばよい」
魔道士は淡々と付け足した。
「共鳴は、同期の上に乗る」
理屈が強引すぎて、レインは理解が追いつかないまま、言ってみた。
「……旋律、共鳴」
言った瞬間、近くの草花が、波のように揺れた。
「……今、揺れましたよね」
「共鳴である」
「しょうもない!」
「しょうもない現象ほど本物である」
魔道士は続ける。
「次に口ずさみたくなったら、先に唱えよ」
「ほんとに?」
「よい。……ただし」
「ただし?」
「村がすでに覚えた旋律は、戻ろうとする。
戻る力は強い。戻る直前に、一拍足せ」
(手遅れじゃないのか、これ。)
同時に隣の門が鳴った。
ギィ。
第二十一話 「土鍋セッション」
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