門番レイン 第二十三話 盗ってない
第二十三話「盗ってない」

レインは、思わず音のするほうを振り向いた。
目の前にいたのは、盗賊だった。
鍵束が、じゃらりと鳴る。
「なにか拾ったな」
「……拾ってません」
盗賊はレインのポケットをじっと見ている。
レインは右手でポケットのふちを押さえながら言った。
「……あったんです。ポケットの中に」
「本当です。拾って食べませんよ、クルミ」
「………」
「あって、落として、拾ったんです。食べません」
「わかった。食べないことは理解した」
「覚えがないのに、あったんです」
レインは中のものを取り出した。
「覚えがないのが、いちばんまずい」
盗賊はそれを見つめて、真顔で言った。
「まずいって何ですか。クルミは好きです」
盗賊はスルーしつつ、石を置きながら話す。
「手順は三つ。……終わらせるためじゃない。増やさないためだ」
一、出したら言え。
「拾った」
二、ポケットに戻すな。
「戻したら所有になる」
三、由来を育てるな。
「口を閉じろ。保管して運べ」
盗賊は並べた石を、指で順に示した。
レインは手の中のものを見た。
小さい。丸い。静かだ。
なのに、話だけが大きい。
「拾った」
(あったんだけど……)
余計に“そういう物”になった気がした。
「ほれ、戻すな」
盗賊は腰のあたりを探って、小さな布袋を取り出した。
それをレインに、すっと差し出した。
「入れろ」
「ポケットに戻さなければいいんですか」
「いい」
「これも持ち物じゃないんですか」
「保管だ」
言い切られると、そういうものかという気もしてくるのが嫌だった。
レインは布袋を受け取って、それを入れた。
ころ。
布の中で、小さく音がした。
盗賊は、いつのまにか右手に持っていた張り紙に、手順をすらすら書く。
「……やっぱり貼るんだ」
「貼る。貼ったら村が従う」
(ただのクルミ……)
盗賊は鍵束を鳴らして歩き始めた。
レインも後ろをついていく。
午後。
湖コースを終えて門へ戻ると、もう黒い外套の男が立っていた。
「午後の門番。魔道士である」
「アル、後は頼んだぞ」
盗賊はすぐに掲示板に張り紙をたたきつけ、
その場を後にした。
盗賊が去ったあとも、レインの手は後ろにある。
守っているつもりが、隠しているみたいに見える。
「……あの、これ……」
レインが言いかけた瞬間、魔道士は遮った。
「盗ってない」
「え」
「盗ってないのに、盗った顔をしている。ゆえに疑われる」
刺さった。
魔道士はレインの持っている袋を見た。
「……だって、覚えがなくて」
「覚えがない、は説明である。説明は物語を呼ぶ。物語は疑いを育てる」
レインは口を開けて閉じた。
「いいか。潔白を証明するな。区切れ」
「区切る?」
指を二本立てた。
「拾得、保管」
魔道士は杖の先を、こつりと地につけた。
「今の言葉は“所有”にしない。そこで区切る」
レインの目を見る。
「袋に入れたら、見える場所に持て。隠すな」
魔道士が紙片を出した。
短い筆で、さらさらと『保管』と書く。
「……上を見よ」
「えっ」
「拾得、保管」
レインは空を見上げた。
「……拾得、保管」
魔道士は、何もない顔で言った。
「袋を開けてみよ」
「えっ。なんで」
レインはおそるおそる、布袋の口をほどいた。
中をのぞく。
茶色の横に、紙片が一枚。
さっき持っていたはずの紙片が、入っていた。
「……ちょっとすごい」
魔道士はうなずいた。
「でも、渡してもよかったのでは」
そのことにはなにもふれず。
「今日は持て。焦るな。答えを待て。今は保管の心でいろ」
(焦っているのか、俺……)
レインはもう一度空を見上げてから、袋を結び直した。
紙片が入っているだけで、手が少し落ち着くのが妙にやるせない。
(結局、一日持つのか……)
第二十四話 「ナッツデー」
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