『風音』 目取真俊(リトル・モア)



風音
『風音』

 2004年に公開された映画『風音』(東陽一監督)を、原作者である目取真俊氏自身が長編化した作品で、オリジナルの短編が五倍ほどに書き伸ばされている。
 沖縄の村に、特攻で死んだ従兄の消息をもとめて老婦人が訪ねてくる。第二次大戦末期、その村では海岸に漂着した飛行兵の遺体を村人が崖下の風葬場に葬っていた。白骨化した遺骨は風葬場にそのまま残されていて、風の強い日には、頭蓋骨のこめかみに開いた銃弾の穴を空気が吹き抜け、物悲しい音が鳴りわたり、いつしか「泣き御頭うんかみ」と呼ばれるようになっていた。
 ところが、老婦人が来てからは音はぴたりと止まり、村では他所者を風葬場にいれたからだという噂が飛びかった。
 このエピソードと並行して、DVから逃れてきた若い母親の物語が語られる。
 彼女は高校を卒業後、東京に出て男の子を産むが、最初の夫には逃げられ、再婚した男には暴力をふるわれるようになり、子供を守るために村に逃げもどってきたのだ。
 二つのエピソードをつなぐのは清吉という老人である。清吉は父親とともに飛行兵の遺体を風葬場に運んだ当人で、飛行兵が老婦人の探している従兄であることを証明する遺品をもっていた。彼は彼女に遺品をわたすべきかどうか迷うが、わたさずに終わる。
 その一方、彼は若い母親のために、最後にある選択をする。どちらも村を守るためにしたことである。沖縄の海人の伝統を一身に背負った清吉の人物像が強い印象を残す。
 『水滴』に収録されている原作の短編では、本土から訪ねてくるのは特攻隊の生き残りのテレビ局の老プロデューサーで、戦争体験が主題となっていた。長編としてよみがえった本作では、戦争をも一エピソードとして呑みこむ沖縄の共同体と、その危機が前面に出てきている。より分厚くなった小説世界を堪能した。

(初出:公明新聞 2004-07)
(改訂:2026-08-13)


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