『あがめよ! たたえよ! 福神ちゃん』第1話 あがめよ! たたえよ! 福神ちゃん
【あらすじ】
福神ちゃんという、天気占いしかできないポンコツ神様アプリがある。高校生の僕は、外れすぎる占いを逆張りして使っていたが、ある日、福神ちゃんの不可解な言動によって電車事故を避ける。以後、課金、広告、難読水産会社、変人だらけの学校生活に振り回されながらも、福神ちゃんが小さな災いを遠ざけていることに気づいていく。やがて現れる御子神家の少女により、福神ちゃんが信仰を失った土地神の分霊体であり、祟り神化しかけていることが明かされる。ポンコツで迷惑で、けれど確かに僕を助けていた神様を、僕はもう一度たたえ、あがめることになる。
福神ちゃんというアプリがある。それほど有名ではない。でも、一部に熱狂的な愛好者がいるスマホアプリだ。僕の高校でもそれなりに使っている人がいる。
対話型アプリで音声入力対応。起動すると、福神ちゃんという七福神の特徴をごちゃまぜにしたような格好の少女が画面に現れる。
話しかけると反応し、表情や動きを伴って、音声とテキストを返してくる。
一応は日常会話が成り立つので、かなりの性能はありそう。でも、どういうわけか開発会社はその性能を無駄な方向へ全力でつっこんでしまったらしい。
会話以外で福神ちゃんにできることはただ一つ、天気の占いだけ。
しかも、福神ちゃんは控えめに言ってもポンコツだ。
「福神ちゃん、明日の天気占って」
「はいはい任せて! いっくよー!」
無駄に派手な演出が入り、福神ちゃんのテキトー祈願が始まる。テキトー祈願が毎回違うのも無駄にすごい。
「すもももももももものうち、
すもももももももももりだくさん。
いっぱい食べておなか痛い」
お大事に。
「はいきた。きたきた、きちゃったよ。
明日はぜーたぁっい、飴が降る!」
甘そうだが痛そうだ。
そんな調子で、新しい天候を創造してしまうこともあるし、そもそも外れが多いので的中率は悲惨の極み。
完全無料のアプリだけども、広告だって入る。
「おっと? 5万トークンこえたかな?
えー、なら、スポンサー広告するよ。
ちゃんと聞いてね!」
トークンって何? まあいいけど。
「えーと、漢字読めない水産さまからの広告でぇ、
あー、えー、
なんか説明長いから省略するよ。
おいしいカニ缶!」
どこのカニ缶を買わせたいのかさっぱりだ。スポンサー涙目だ。
「ぜひ、買ってね!
まあ、わたしはカニ嫌いだけど」
もう、この広告全否定じゃないか。
広告に同情したのは初めてだ。
「福神ちゃん、あんまり余計なこと言わないようにしたほうが……カニ嫌いとか」
「え? カニ。あ、そっか、カニ好きなの?
じゃあ、わたしとは仲良くなれないね!」
ひどいよ、福神ちゃん。
「そうだ! カニとか魚とかの、
なまぐさ類が好きなら、
なまぐさい広告を優先する設定にしとくね!」
魚介類をなまぐさ類って言わないで。そんな広告も嫌だよ、福神ちゃん。
と、そんなわけで、全方面に全力でポンコツな福神ちゃんだが、それゆえ惹かれてしまう者もいる。
僕もその一人。それに実は高精度の天気予報アプリのようにも使える。
今日の午後は雨が降るかどうか占って、とでも頼めばいい。
「はいはい任せて」で福神ちゃんが降ると言えば降らないし、逆もそう。
これがおもしろいぐらい良く当たる。
ポンコツも極めれば有能になる、のかもしれない。
だから、今朝も僕は福神ちゃんを使っている。傘を持ってくかどうかの判断に便利。
「福神ちゃん、今日の午後は雨が降る?」
「はいはい任せて、いっくよー!」
そうして、派手な演出とテキトー祈願が始まったのだが、
つと福神ちゃんは動きをとめた。
動かない。
なにかのエラー?
「福神ちゃん?」
「うん? ああ、どうしよ。
えーと、よし、ちょっと10分ぐらい、
たぶん10分ぐらいで平気だから、
そこから動かないで。
わたしとおしゃべりしよー、うん、そうしよー」
は? 初めての反応だった。たしかに福神ちゃんはいつも自由にふるまうが、こういうのは初めてだ。
「いや、学校遅刻しちゃうし。歩きながらでいい?」
「だめだめ、おはなし集中、歩くのNO!」
「はあ? いや無理だよ」
「だめーだめのだめダメー。
おしゃべりしよ。えーと、よし、
最近どんな感じ?」
「遅刻しそうな感じだよ、もう行くから」
そう言って動こうとすると「わわーダメーNOー!」と大声をあげる。
結局、騒ぐ福神ちゃんのせいで駅まで走ることになってしまった。
福神ちゃんじゃないが、なにやら駅前も騒がしい。急がせていた足がとまる。
学生やスーツの人波が、落ち着かない様子でざわめいていた。
なんだ?
駅の電光表示板に事故の文字、運行中止を知らせている。一本前の電車が脱線したらしい。
一本前、いつもどおりの時間に駅に着いていたら……。
どのぐらいの規模の事故かはわからないけど。
一瞬、ケガを負った自分の姿が脳裏に浮かぶ
――苦痛に顔を歪め、
救急車の音が近づくのを、
すがる様に聞いていて、
思わず、ポケットのスマホを握りしめる。
福神ちゃんが助けてくれた?
結局、その後のニュースで軽症者が数人の規模の事故だったとわかった。でも、だからこそ、脳裏に垣間見た負傷した自分の姿が、リアルに思える。
「福神ちゃん、今日はありがとう」アプリに言うと、
「ん? 天気でもあたった?
ええ、そうでしょうそうでしょう。
わたしはすごいからね!
もっと、わたしをたたえるといいよ、
あがめてもいいよ!」
福神ちゃんはふんぞりかえって大笑いしたが、朝の出来事はおぼえていないようだった。会話を記録する機能はないみたい。
「いや、天気ではないけども」
「ん? 違うの? ああ、そっか、なるほど、
じゃあ、気づいちゃったんだね。
わたしの、はいよる神々しさに」
なんか言い方こわいよ、福神ちゃん。
「そういうことなら、
好きなだけ、たたえていいよ!
あがめていいよ!」
なんか感謝の気持ちがなくなってきたよ、福神ちゃん。そんなに称えて欲しいんだね。
「……えーと、かしこみかしこみ、すごいよすごいよ福神ちゃん……」
テキトーな称え方だったが、福神ちゃんは上機嫌でさらにふんぞり返る。
「くるしくない。くるしくないよ!」
くるしゅうないって言いたいの?
「たすけたかいがあったよ!」
「え? やっぱり福神ちゃんが助けてくれたの?」
「あっ……うん、そうだよ!
いつも絶対的中百発百中で満員電車でしょ!
天気占い!」
満員電車? 満員御礼って言いたかったの? 一瞬、おぼえているのかと……。
感謝の念は薄れてしまったけれど、僕はこれからも福神ちゃんを手放せない。たぶん。
普段のこの神様はポンコツ全開なんだけど、
「福神ちゃん、明日の天気をよろしく」
「はいはい任せて! いっくよー!
かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、
ついでにぴょこぴょこむぴょこぴょこ、
ぴょこぴょこぴょこぴょこぴょこぴょこぴょん。
ん? 全部で何匹だったっけ?」
知らないよ。
「はいきた。きたきた、きちゃったよ。
カエルは全部で12匹!」
天気を占って。
まあ、神様って案外こういう感じなのかも。
それに八百万もいるのなら、そんなのもいたって、おかしくない。
少しぐらいなら称えてあげても……でもなぁ。

おわり

