【掌編】『帰宅クエスト』
「いや、おかしいだろう」
つい声に出してしまった。
終電での家路、若干、酒も入っている。自宅のある住宅街は入り組んでいて、運送業者ですら迷うことがあるほどだ。たまにアマ○ン届かない。
だが、それにしたって。
何度も往復している駅から自宅までの道で迷うはずがない。
思いはしても実際迷っている。
このところ、自宅近辺では持ち主がいなくなる家屋が多く、大手不動産がまとめて買い取り、まとめて壊し、まとめて建てる。小奇麗でデザインに優れた、見分けがつかない家だらけだ。
いざ迷って目印を探そうとすれば、自宅傍にあるはずの家があちらこちらに建っている。
まさか、家路で使う羽目になるとはな。
普段、外回りで大活躍の地図アプリを起動する。
自宅住所を入力し、現在地からの道筋を……ん?
アプリ上だと自分は自宅前に立っていることになっている。
だが、今、眼前にあるのは無個性新築住宅だ。自宅は親から相続した築50年の一軒家。フルリフォーム済だが、そこらの住宅とは一線を画す佇まい。これが我が家なわけがない。
アプリの異常を疑って、ネットのマップでもみたが、アプリ同様の結果となった。
なんだ、これは?
少量の酒しか飲んでいないが、疲労がたたって、想像よりも酔いが深いのかもしれない。
いずれにせよ、疲れた。もう休みたい。
駅まで戻るしかないか。
散々、迷った後なので、駅まで戻るのも至難かと思いきや、あっさり駅前へと辿り着く。
狐につままれたような気分だな。
駅前のネットカフェの個室で眠りについた時は、ただ一夜の不思議な出来事として、それほど深刻には受け止めていなかった。
翌日の帰宅は比較的早い時間だった。酒も入っていない。だが、自宅にはたどり着けなかった。
住宅街の迷路で深夜まで迷い続け、結局諦め、疲れた体をひきずって、またネカフェの個室へ到着。
さすがに事態の深刻さに冷や汗がでる。
ネカフェの設備で下着とシャツを洗濯乾燥、素肌にスーツの革新ファッションで店内をうろつき、自販機のカップラーメンで一人寂しく夕食を摂る。
視界が滲んで手で拭う。
嫁に会いたいのに帰れない……声が聞きたいのに電話しても意味がない……。
ふとそんなことを思ってしまったせいで、ぬぐってもぬぐっても目が曇る。
会いたいのに会えない。なおさらに辛くなり、諦めて頬をぬらした。

今夜こそはと挑む三度目は、心構えからして違う。
先端の文明の利器が通用しないのであれば、オールドスタイルで挑むまで。
100均で方位磁石、コンビニで地図を購入。ボールペンを片手に、嫁に会う決意を胸に。住宅街へと踏み込んだ。
だが、方位磁石はくるくる回ってパーとなり、地図はどうみても眼前の街並みと一致しない。ボールペンで経路を書き込む余地もない。
結局、闇雲に動き回って疲れて今度もネカフェがゴールになった。
こうして三日目のネカフェとなると不自由も出てくるかと思いきや、クレジットと電子マネーにスマホ決済で、金なら自宅に帰らずともどうとでもなる。着替えも簡単に手に入る、スーツも一着新たに仕立ててしまえば、クリーニングで使いまわせる。面倒であまり干さない自宅の布団よりも、ネカフェのリクライニングの方が寝心地がいい。そもそも生活の大半は会社かビジネス街なのだから、考えてみれば、自宅の重要度などほとんどない。
そのことは身に染みた。
だが、それでも帰りたかった。嫁に会いたい。もう涙を抑える気力もない。
気弱になった気持ちも一晩ぐっすり休んで回復した。
通勤は自宅よりもネカフェのほうがはるかに距離が近くて便利。そのことも気持ちを前向きにしてくれた。
朝日に向かって、誓いを立てる。
今夜こそ、必ず帰宅してみせる。
嫁の顔を思い浮かべた。
体中に力が満ち溢れてくる。
今夜こそ、帰宅して嫁に会う。
いや、嫁たちに。
保存フォルダのマイハニーズ。画像に音声、動画と愛が待っている。
絶対帰るぞ! 二次元最高!
わっふー!
▶︎ ED THEME『マイハニー☆ホーム』
Now Loading Love...
♪ 画像生成が生み出す奇跡
ポリシー違反でもう無い奇跡
保存フォルダで大事に奇跡
使う時だけ、見る奇跡
マジラブ、マジラブ、ハニー
愛しのスイート、マイハニー
必ず帰って見せるよハニー
オタクの帰宅を待つハニー
So say わっふー
Oh yes わっふー ♪
— Thank you for playing —
Let's retry the RETURN HOME QUEST.
▶ START

<了>

