エッセイ「まずいビールの飲み方」
ビールというものはね、料理屋なんかでも生ビールはうまくないんですよ。まずくはないけれど、うまくもない。冷えすぎていると香りが立たないからね、それは当然でしょう。
だからね、喉越しとかキレを謳い文句にするのだけれど、グーッと飲んだあとに、時間差で麦汁の香りが追いかけてくるから間の抜けた味になるんだ。ジョッキも口が広いから、さっさと飲まないとぬるくなって香りの成分が飛んで、炭酸も抜けてしまう。
暑い日に、駆けつけ1杯で飲むならいいんだよ。思いきり喉を鳴らして、黄金色した命の薬を流し込む。苦味が味覚を刺激して、腹へ「おい、起きろ」と急かせてね、微細な泡が喉にこびり付いていた不純物を綺麗に洗い流す。それはいいですよ、気持ちいいんだからね。
でも、本当に美味しいビールを味わうなら、やはり瓶がいいんだよ。常温のコップに注いだそれは、温度が少し上がって、1杯目からホップの香りが静かに立つんだ。欲をいえば抜いた栓も置いてくれれば一番いい。1杯注いで飲みきるまでは、栓をしておく。最初は炭酸を逃がさないため、後半は香りを閉じ込めるため。
だからね、宴会なんかで上司のコップにビールを継ぎ足すマヌケがいるでしょう。あんなのはバカの骨頂だね。ビールを一番まずくする飲み方ですよ。せっかくいい具合の温度になったところへ、冷えたビールを注げば香りが死んでしまうんだから。自分で飲むなら好きに飲むのがいいけれど、お酌というものは相手をねぎらったり、もてなす行為なんだから、やっちゃいけないよ。熱燗に冷酒を注ぐようなものだ。
本当にビールの味を知りたいならね、温度と器の飲み口の大きさを考えないとダメなんだよ。それを知った上で冷えた生ビールを飲むと、ビールというのは「こういう」飲み物なのかということがよく分かるんです。
ドイツなんてビールを冷やす文化がないんだからさ。
逆にホッピーは冷やさないとダメだね。ホッピー、ジョッキ、焼酎を冷やした「三冷」は、ホッピーを美味く飲むには欠かせない。ホッピーも麦芽とホップが原料だけど、ビールのそれより香りが弱いんだよ。だから生ぬるいと、焼酎独特なアルコールの匂いが勝っちゃう。ホッピーは冷えれば冷えるほど、香りと味のキレが良くなるからうまいんだ。
クセや雑味がなくて、無臭に近いキンミヤ焼酎があれば最高ですよ。シャリキン(かき氷状に冷やしたキンミヤ)をホッピーで割れば、香りの変化がよりはっきりと楽しめる。
ビールよりマイルドな、ほのかな香りと少し強めのアルコール。しかし、冷えているから、グーッと飲めてしまう。焼酎の麦茶割りみたいな感覚でね、実に飲みやすいですよ、ホッピー。ホッピーに合わせるなら、やっぱり焼き鳥とか、串かつとかね、油っこい食べ物との相性が抜群にいいね。
瓶ビールがないときはね、グラスビールを半分くらいまで煽って、残りは少し常温に近付けてから飲めば味の違いが分かるんだ。今度やってごらんなさいよ。
了
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