エッセイ「話し言葉の粋」
年上に敬語を使わない若者が嘆かわしいとか、若者に馴れ馴れしい話し方をする年寄りが嫌だとかね、そんな箸にも棒にもかからない話を聞くとね、そんなものはお互いの度量しだいでしょうよと思うんだよ。
私は知り合いの若いヤツに敬語を使われなくても平気だ。そこには敬ってくれている気持ちが分かるからね。もしただの口の悪い人間なら距離をとるか、「君が恥ずかしい思いをするんだからおやめなさい」とピシャリと言う。まあ、平気かというよりね、敬語で話されるとまどろっこしいんだよ。「ご馳走していただけるんですか?ありがとうございます」なんて言われるより「奢りなの?ありがとう」という具合にテンポがいい。
このテンポのよさが大いに役に立つのが職務質問の受け答えなんです。自慢できるような話じゃないけどね、昔は都内を歩けばこの手の話で呼び止められることが多かったんだ。そうするとね、ベテランの警察官は「おお、兄さん、悪いね」なんて切り出してくる。そうなるとこちらもね「お勤めご苦労さん。いま財布を出すから待っててくれよ」「おっ、慣れてんのか?」「おかげさんでね」なんて軽口を叩いているうちに、あっさり終わるんだ。
あるときなんて「お兄さん、前にも池袋で声をかけたことあったな?」なんていう笑える話にもなる。これで気分がよいまま別れられるんだから、面白いものですよ。
あとはね、都内の古びた居酒屋なんかで一人で飲んでいるとね、隣に座った年配の男と話が始まり、意気投合してハシゴすることなんていうのも珍しくないね。一度なんかはね、どこぞの大学の教授という身なりのいい男と飲んでいてね、そのままふぐ料理をご馳走になったんだけど、こうした出会いも敬語じゃ生まれませんよ。
それにね、本当に慕う年上には私もきちんと敬語を使うしね、そういうものは損得なんて野暮な話じゃなくてね、いかに話をなめらかに進められて人間関係を良くするかという大人の知恵の話んだよ。
だからね、そういう話し言葉を理解して使い分けられる人間というのは粋に見えるし、人生が少しばかり得をするんです。
フォロワーさんもね、私と話すときには敬語なんていらないよ。我こそはと思う人はいきなりでもかまわないから、タメ口で話してくださいな。
了
いいなと思ったら応援しよう!
自分の記事の価値を知りたいと思っています。
いただいたチップで一杯の美味しいコーヒーを飲ませていただきますので、応援よろしくお願いします。
