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エッセイ「唐揚げ一筋四千年」

​ 前にも書いたけどね、レモンをかけるか、かけないかの論争があるほど日本の国民食になっているでしょう、唐揚げは。居酒屋の定番だったりね、弁当のおかずの主役であったり、それこそ夕食の食卓では王様だよ。醤油やニンニクのタレに漬け込んだ鶏肉に衣をまとわせ、ジューシーに揚げる。揚げたてを口に放り込めば、ジュワッと肉汁が溢れて白ご飯がいくらでも進むんです。

​ だとげね、町中華とは違う、例えば中華街にあるような格式ある中華料理屋で出てくる本場の唐揚げ、「炸鶏(ザーチー)」なんかはね、日本のそれとは全く毛色が違うんだよ。餃子なんかと同じようにね。

​ まずね、揉みダレもちろんだけど、あの衣にまでしっかりと香辛料が練り込まれている。下味や衣にはね、「五香粉(八角、花椒、シナモン、陳皮、フェンネルなど)」や山椒塩を用いているから、まさに大陸の味ですよ。

    揚げ上がりもふんわりジューシーというよりね、歯を立てるとバリッと音がしそうなほど固く香ばしく仕上げられているんところも大違いだ。

​ おまけに、大ぶりな鶏肉をドカンと中華包丁でぶつ切りにするものだから、ひとつひとつのサイズがとにかく大きいでしょう。それを小皿に添えられた、あの独特なスパイス混じりの塩胡椒にちょんとつけていただく。衣に歯を立てるとジュワッと肉汁が小籠包のスープのように溢れ出る。中華独自の少しばかり甘ったるい香辛料が立ちのぼるころには、噛みごたえのある肉と衣を頬張っているんだ。

 日本の唐揚げとはまるで別物でね、この違いが実に面白いじゃないか。

​ それよりなによりね、この中華の唐揚げというヤツは気取りすぎていて品があるのが鼻につく。白いご飯のおかずには驚くほど合わないんだよ。日本の唐揚げなら「飯を喰わせるためのパワー」があるんだけど、中華のやつは揚げ物としての主張を身にまとってテーブルに出てくるようなヤツだからね、どうにも白飯と一緒だとお互いにそっぽを向いてしまうでしょう。どうにも鼻持ちならないね。

​ じゃあ何と合うのかと言えば、これがもう、まるで最初からあつらえていたかのように、紹興酒と恐ろしいほど相性がいい。ことここに至ると急に頼もしい戦友に思えてくる。

​ バリッとした衣の歯ごたえと香辛料の華やかな香り、そこに絶妙な塩気が加わったところへ、温かい紹興酒を一口流し込む。するとね、口の中に残った油分を綺麗に流しながら、大豆やザラメの芳醇なコクと旨味が一体になって広がるんだ。これには思わず「参りました」と唸ってしまう。

​ いやはや、やっぱり四千年の歴史というのは伊達じゃないね。中華料理の奥深さには、つくづく感心させられるわけですよ。

​ それでね、昔からテレビでも本でも当たり前のように「中国四千年の歴史」なんて言うけれど、あのカウントはいつになったら「五千年の歴史」に繰り上がるんだろうね。まあ、美味しいものが食べられるなら、六千年や一万年を称しても気にしないけどね。


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山下静希 自分の記事の価値を知りたいと思っています。 いただいたチップで一杯の美味しいコーヒーを飲ませていただきますので、応援よろしくお願いします。