『虎に翼』は私たちに翼をくれたのだ
これまでも朝ドラをみたことはあったし、好きな作品もある。ただ、こんなにも私の、私たちの物語だと感じたことがあったろうか。
法律関連の末端資格である(怒られそうな言い方だが)行政書士の自分でも、『虎に翼』は始まる前から楽しみにしていた。大好きな伊藤沙莉さん主演で、女性法曹の草分け的存在のお話ときたら、期待が高まるというもの。久しぶりに朝ドラを熱心に毎日見てきた。
娘にも見ることを強く勧め、そのためにNHKオンデマンドにまで入り、寅子とその周辺の人々それぞれに胸を熱くしてきた。
行政書士試験では憲法も学ぶ。不思議なことに行政書士試験は、実務に関する問題はほとんどなく、法律を結構勉強しないと受からない試験なのだ。加えて、毎年予想が難しいと言われる一般教養の問題。法律はもちろん行政法ががっちり出るのだが、案外憲法もしっかり判例までやらないと落ちてしまう。
ずいぶん大人になってから、学び直した憲法。日本国憲法の前文は、読むたびになんて素晴らしい!と思わずにはいられない文章だと思う。あの戦争を経て日本国民が手に入れた憲法。立憲主義。
私の母方の祖父は、特高に捕まったこともあるらしい。そんな過激な活動家でもなかったようだが、そういう運動の周辺にいて、祖母と知り合い、結婚したらしい。祖母はなんと陸軍中将の娘だったみたいだが、父親に思うところあったらしく、何故か祖父と結婚してしまい、遠く九州の地主の家に嫁いだのだ。
語れば長くなりすぎるので端折るが、祖父はなかなか狷介な性格で、実の娘である母たちは最後まで愛憎半ばする、という感じだったが、亡くなったとき、祖母が「娘たちはこの人に色々思うところあったとみたいだけど、私は社会運動の途中でこの人に会って、ずっと大切に思ってきた」みたいなことを私にポツリと言っていた。祖父は晩年パーキンソン病になり、祖母は13年間くらい一人で介護した末の死だったのだ。
聞いておけばよかった。もうずっと前に亡くなってしまった祖母。憲法についてどう思うか。聞きたかった。
年齢はたぶん寅子より数歳年下。終戦の年に私の母を産んでいる。その頃、アカだった夫は南方へ送られ、終戦後も数年戻らなかった。
祖母の兄は、陸軍中将の息子だったが、祖母に「日本は負ける。」と言っていたらしい。詳細はわからないが、戦地に行くことを拒んで自死したとのこと。父親の陸軍中将はそれで戦争が終わる前に失脚しており、おかげでというのも変だが戦犯にもならずに済んだらしい。らしい、ばかりだが、祖母は父親とは決裂していたらしく、私までほとんど話は伝わっていない。
泣いた。寅子が憲法発布された新聞を握りしめて優三さんを思い出した場面。憲法14条の化身のような優三さん。
祖母はあの頃の女性には珍しく大学を出ていた。家政科だったらしいが、それでも大変教養豊かな人だった。彼女は、憲法が発布された時、何を思っただろう。
私は高校生のとき、祖父母の家から通学していたが、ニュースをみてよく祖母が言っていたこと。
「政府は国民を守ってはくれない。国を守るだけ。政治家に騙されないようにしないとね。」
戦後、事業に失敗した祖父と家族のために教員となった祖母。穏やかな口調だが、大変批評的な論評を辛辣にする人だった。ただ、私に例えば「女の子らしくしなさい。」とか言ったことはない。今思えば大変申し訳ないが、高校3年間、ろくに手伝いもせずにのんびり過ごすことができた。勉強しなさいとも言われず、ただあるがままの私を大切にしてくれた。
寅子と同じ時代を生きてきた彼女のことを思いながら、寅子がもがきながら自分らしく生きていくのを応援してきた。というか、自分のことのようにたくさんの喜び、悲しみを感じてきた。戦後、憲法があることで確かに私たちは新たな武器を手に入れたが、100年経っても変わっていない不自由さが私たちにはある。
寅子と違って祖母は表立って戦った女性ではなかったかもしれない。私だって、男女雇用機会均等法後に就職した世代だが、性別や家父長制に捉われずに人生を送ってきた、とは言えない。
何度も「はて?」としか言えない場面があり、飲み込んだり流したりしてきた。面倒くさい女と思われたくなくて、その方が大人の対応だと自分を納得させて。
今思えば、もっと捉われずに遠くに飛べたのではないか、とも思う。
大学の学部を選ぶときも、就職のときも、本当の自分の気持ちを探ることさえせず、無難な選択をした。戦うエネルギー、自分の可能性を信じる力がなかった。
母は、割とリベラルな意識もあったと思うが、私に「女性らしさ」「賢い女性らしさ」を期待した。女の幸せは、結婚する男次第だ、結局。なんて言われたこともある。
女の子は、部屋に入ってきたら、パッと全体が明るくなるようじゃないと、と言われた時は、寅子のお見合い並みに困惑したものだ。なんせ、そういうキャラじゃなかった。毎日毎日本ばかり読んで、中学生までは周囲から自分を守ってばかりいた。
私が進学するのは応援してくれたが、同時に飲み会の席でもお酌して料理を取り分ける賢い(?)女性でいるよう暗に期待されたし、私もその方がオトナだと勘違いしていた。なんて視野が狭かったのだろう。
だけど、今は『虎に翼』が半年放映された後の世界なのだ。男性も女性もそれ以外も、その人らしく個人を尊重されて、生きていこうぜ、って世界なのだ。
祖母にも見せたかったな。どんな感想が聞けただろう。
祖父母と過ごした高校時代、私は何者かになりたかった。全然どうしたらいいかわからなかったが、誰でもない私になりたかった。
ずいぶん紆余曲折あって、予想外に結婚して子育てもしたが、私は今が一番私らしい。
ただ、日本の子どもたちや女性の人権が尊重されていない今の世界には、責任を感じている。私たちの世代がそのままにしてきた問題が、今もあるのが申し訳ない。
『虎に翼』はこれからの私たちの勇気になる作品だ。私たちには憲法があるって、改めてはっきり教えてくれた。あの日の寅子みたいに気持ちもあらたに戦っていきたい。
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