【小説】『ココロ走る』第二章:交わる足跡編 第22話 KRT誕生
2022年4月。大阪城には満開の桜が咲いていた。春になって陽気がよくなったせいか、家族連れの姿もちらほら見える。
全体練習も何度か重ねてきた頃で、そろそろ「決めなければならないこと」がいくつかあった。
一つ目は、チーム名。
二つ目は、キャプテン。
三つ目は、目標。
今日はそれを決めるのに最適な日だった。メンバーがいちばん集まっている。
ランを終えたあと、皆で桜の木の下に腰を下ろす。
私は口を開いた。
「お疲れ様。人によってはもう4回、5回と来てくれてる人もいるけど、今日はたくさんいてるから、まずキャプテンを決めたい」
陽介がすかさず言う。
「森山さんでしょ?なあ、みんな」
「ありがたいけど、俺はキャプテンって柄じゃないわ」
「練習メニュー考えたり、フォームの指導したり、頼まれてないのに号令出したり……。そういうの、木下にお願いしたい」
今日は木下だけが来ていないが、実は本人にはすでに話を通してある。私が欲しかったのは、みんなの了承だけだった。
「聡太は中高と陸上部で、キャプテン経験者ですし、適役ですよ」と松田。
キャプテンが決まり、次はチーム名だ。
「Kōfuku Homesの社名を借りて、『チームしあわせ』ってどうかな?」と私が提案すると、
「いや、昭和感出すぎですって!」と水嶋が割って入った。
「チームなんとか、より、アルファベットで3文字とかにしません? たとえば……」と松田。
「Kōfuku Homes・ランニング・チームの頭文字で、KRTはどうですか?」
「KRTかぁ。言いやすいし、印象にも残りますね」と桐谷も賛成してくれた。
「KRTか〜。よっしゃ、おれ、お揃いのランニングウェア作ります!」
「どんなデザインがいいですか?」松田はもう止まらない。1人であれこれ、思索し始めている。
「そういや前に社内イベントでTシャツ作ったとき、デジタル工房幸福堂ってとこに頼んだな。一枚からでも注文できたと思うし、デザインできたら、ウェアの注文は俺がやるわ」と陽介も乗り気だ。
「幸福堂でKōfuku Homesがウェアを開発するって……もう、絶対幸せにしかならんやないですか」とたっぷりの間をとって水嶋が言う。
彼は無邪気だが、時に絶妙なタイミングで場を白けさせるスキルを持っている。
——あとは、目標だ。
「皆に発表したいことがある」
「なんですか、森山さん?」と陽介。
「淡路島玉ねぎリレーマラソンに出場したいと思ってる」
「玉ねぎ……ですか?」陽介がキョトンとした表情を浮かべる。
「6月5日に淡路島で開催されるリレーマラソンや」
「1人が1kmずつ走ってタスキをつなぐ」
「フルとハーフの部があるけど、今年はハーフで出場したい」
「おまけに、途中で玉ねぎが拾えて、参加賞も玉ねぎや」
私は少し緊張しながら皆の反応をうかがった。だが、拍子抜けするくらいポジティブだった。
「やろうや、みんな! 」
「楽しそうやん」
「ハーフって、21キロやから1人3キロってことやろ? 今から練習すれば間に合うって! 」
と陽介が場を盛り上げてくれた。
「そう思って、実は……エントリー用紙、もう用意してる」
「森山さん、気が早すぎでしょ」と桐谷が笑う。
「ほんなら、俺1番な! 早速ー! 」と松田が勢いよく書き込む。
今日、木下は来られなかったが、きっと理解してくれるだろう。
キャプテンが決まり、チーム名が決まり、目標ができた。
──桜の木の下、チームに光が差し込んだ。
——そんな気がした。
※デジタル工房幸福堂(@t_shirt_kobo)様にお名前使用の許可は事前にいただいております。
