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確定申告をしたことで逆に損する人の話

― 「申告すれば得をする」は、計算してから言ってほしい ―


確定申告をしたら、お金が戻ってきた。


そういう経験をした方は多いと思います。

でも、申告したことでトータルで見ると損をしていたというケースがあります。

所得税は還付されたのに、
翌年の住民税が上がって
国保料も上がって
扶養から外れて
結果として手取りが減った。

申告する前に「申告したらどうなるか」を計算した方は少ない。

税務署の窓口でよく受けた相談のひとつが、
「申告したら逆に損をしたんですが、どういうことですか?」でした。

今日はその「申告して損するパターン」を、
具体的に話します。

■ 確定申告で「損をする」とはどういう状態か

最初に整理します。

確定申告をすると、
所得税の過不足を精算できます。

払いすぎていれば還付。
払い足りていれば追納。


でも確定申告で申告した所得は、
所得税だけに影響するわけではありません

住民税・国民健康保険料・介護保険料・児童手当・保育料など、
所得をベースに計算されるものすべてに連動します。

所得税の還付が1万円あったとしても、
翌年の住民税が3万円増えて、
国保料が2万円増えたら、
トータルでは4万円の損です。

この「連動コスト」を計算せずに申告している方が、
実際にはかなり多い。

■ パターン①:扶養から外れる

これが一番影響が大きいケースです。

パートや副業をしている配偶者が確定申告をして、
所得が一定額を超えると、
配偶者控除・配偶者特別控除が変わります(所得税法第83条・第83条の2)。

配偶者控除が使える上限:合計所得金額48万円以下
(給与収入に換算すると103万円以下)

配偶者特別控除が段階的に減る上限:合計所得金額133万円以下
(給与収入に換算すると201万円以下)

副業で少し稼いで確定申告をした結果、
合計所得が48万円を超えた場合、
配偶者の配偶者控除(最大38万円)がなくなります。

配偶者の所得税率が20%なら、
38万円 × 20% = 7.6万円の税負担増が配偶者側に発生します。 

さらに住民税でも配偶者控除(最大33万円)がなくなるため、
33万円 × 10% = 3.3万円の住民税増。

合計で約11万円の負担増が配偶者側に出ます。

副業で稼いだのが数万円なのに、
世帯全体で11万円の税負担が増えるという逆転現象が起きます。

配偶者の扶養に入っている方は、
自分の所得が48万円を超えるかどうかを必ず確認してから申告してください。

■ パターン②:国民健康保険料が跳ね上がる

フリーランス・個人事業主・扶養から外れた方に関係する話です。

国民健康保険料は、
前年の所得をベースに翌年の保険料が計算されます(地方税法第703条の4)。

確定申告で所得が確定すると、
その数字をもとに市区町村が翌年の国保料を決定します。

副業で年間100万円の所得が増えた場合、
国保料の所得割(所得に応じた部分)が増えます。

所得割の税率は自治体によって異なりますが、
おおむね所得の7〜9%程度が国保料の増加分として跳ね返ってきます。

100万円の所得増なら、
翌年の国保料が7〜9万円増える計算になります。

しかも国保料には上限があって(2024年度の医療分上限は87万円)、
高所得者は上限に達していることも多いですが、
中間層は所得増がそのまま国保料増につながりやすい。

所得税の還付額より国保料の増加額の方が大きくなるケースは珍しくありません。

■ パターン③:児童手当の所得制限に引っかかる

子どもがいる家庭で、
副業収入を申告したことで所得が増えて、
児童手当の所得制限に引っかかるケースがあります。

児童手当は、
2024年10月の制度改正で所得制限が撤廃されましたが、
それ以前の年分については影響があります。

また、児童手当以外にも所得をベースにした給付・制度は多数あります。
保育料(自治体によって所得に応じた階層区分がある)
高校の就学支援金(所得に応じて支給額が変わる)
奨学金(家計基準に所得が使われることがある)
住民税非課税世帯向けの各種給付(給付金・補助制度)

「副業で少し稼いだ」という事実が、
複数の給付・補助の対象から外れるきっかけになることがあります。

これらは申告する前に「自分が該当する制度に影響が出ないか」を確認する必要があります。

■ パターン④:住民税非課税世帯から外れる

これは特に影響が大きいパターンです。

住民税非課税世帯とは、
住民税が課税されない一定の所得以下の世帯のことです。

この「住民税非課税」の状態にあると、
様々な給付・優遇が受けられます。

・高額療養費の自己負担上限の軽減
・介護保険料の軽減
・国民健康保険料の軽減
・各種給付金(コロナ給付金・物価高対策給付金等でも住民税非課税が条件になることが多い)

住民税が非課税になる所得の目安は、
単身者で45万円以下(均等割・所得割ともに非課税)、
扶養家族がいる場合はさらに高い水準まで非課税になります(地方税法第295条)。

この境界線のすぐ上にいる方が、
副業で数万円の所得を申告したことで課税世帯になり、
各種軽減・給付の対象から外れた場合、
失う金額が副業収入を大幅に上回ることがあります。

「少し稼いだら大損した」という状態が、住民税非課税の境界線では起きやすい。

■ ヤバいリアルな話

守秘義務の範囲で話せることを書きます。

税務署の窓口で、
「医療費控除を申告したら翌年の国保料が上がった。申告しなければよかった」
という相談を受けたことがあります。

医療費控除の申告で所得税が数千円還付された。

でも申告によって「所得ゼロ」から「一定の所得あり」という状態に変わって、
翌年の国保料が数万円上がった。

この方は、それまで所得がなかったため、
確定申告書を提出していませんでした。

医療費控除を申告するために初めて確定申告をした結果、
所得の情報が市区町村に伝わって、
国保料の計算に使われてしまった。

「申告しないことで所得が把握されていなかった」という状態が、
申告によって解消されて逆効果になったケースです。

これは申告義務がない方が任意で申告した場合の話であって、
申告義務がある方が申告しないことを勧めているわけではありません。

ただ、申告の影響が予想外に広範囲に及ぶことを、
事前に理解しておく必要があるということです。

■ 申告「する前に」計算すべき4つのこと

申告して損をしないために、
事前に確認すべきことを整理します。

① 所得税の還付額を計算する

申告書を作成して、
還付される金額がいくらかを先に計算する。

freeeやマネーフォワードを使えば、
申告書を提出しなくても試算だけできます。

② 扶養の状態を確認する

自分が配偶者の扶養に入っている場合、
申告後の合計所得が48万円を超えないかを確認する。

超える場合、
配偶者側の税負担増がいくらになるかを計算する。

③ 国保料・住民税への影響を試算する

所得が増えた場合、
翌年の住民税と国保料がいくら上がるかを
自治体の計算シミュレーターで試算する

多くの市区町村のウェブサイトに
国保料の試算ツールがあります。

④ 受けている給付・補助に影響が出ないか確認する

児童手当・保育料・就学支援金・各種補助金。
自分が受けているもので、所得が基準になっているものをリストアップする。

申告後の所得がその基準を超えないかを確認してから動く。

■ 申告は「義務」のラインを理解した上で判断する

重要なことを付け加えます。

申告が損になるケースを話しましたが、
申告義務がある場合は、損得に関わらず申告しなければなりません。

副業所得が年間20万円を超える場合、確定申告が必要です(所得税法第120条)。

義務がある申告を「損だから」と省略すると、
無申告加算税・延滞税のペナルティが発生します(前回の記事で話した内容です)。

今日の話は「任意で申告するかどうかを選べる状況」の場合の判断材料です。

還付を受けるための任意の申告については、
申告期限の翌年から5年間、いつでも申告できます(国税通則法第74条)。

急いで申告する必要がない場合、
影響を計算してから申告するという選択肢があります。

■ 今日のまとめ

・確定申告の影響は所得税だけでなく住民税・国保料・各種給付に連動する
・配偶者の扶養に入っている場合、合計所得48万円超で配偶者控除がなくなる
・国保料は所得の7〜9%程度が翌年の保険料増につながる
・住民税非課税の境界線にいる場合、少しの申告で大きな給付を失うことがある
・申告義務がある場合は損得に関わらず申告が必要
・任意の申告は「影響を計算してから動く」という順番が重要
・還付額+扶養・国保・給付への影響をトータルで計算してから申告を判断する



「申告すれば得」という思い込みで動くと、
計算していれば防げた損が出ることがあります。

申告の前に30分だけ試算する。
それだけで結果が変わることがあります。
としでした。



次回は「給与明細の見方を知らないと損する話」を書きます。

源泉徴収・社会保険・年末調整の仕組みを給与明細から読み解く内容で、
会社員副業層の両方に刺さる記事にします。

また読みに来てもらえると嬉しいです。

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