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乾いていないまま会いに行く





乾くまで待っていたら、もうあなたには会えない。

雨の日。

窓の外は、白くにじんでいた。

そんな夜に、
一曲の歌が流れてきた。

歌の中では、
Tシャツがまだ乾いていない。
柔軟剤の香りが、
少しだけ残っている。

濡れたコンクリートの匂いの中、
誰かに会いに行こうとしている。

不思議だった。

恋の歌なのに、
私の耳に残ったのは恋ではなかった。

乾いていない、ということ。

部屋干しのシャツ。

言いかけた言葉。

書きかけの記事。

まだ途中の人生。

私たちは、
何かが完成したら
誰かに会えると思っている。

もう少し整って、
自信がついて、
今より胸を張れるようになったら。


そうやって、
乾くのを待つ。

だけど、
乾くのを待っていたら、
会えないまま終わるものもある。

歌の主人公は、
少しだけ自信がない。

少しだけ迷っている。

それでも、
雨の匂いをまとったまま、
歩き出す。

その姿が、
なぜか綺麗だった。

完璧だからじゃない。

未完成だから、
綺麗だった。

書くたびに思う。

本当はもう少しだけ、
言葉を探したい。

もう少しだけ、
乾くのを待ちたい。

だけど、
誰かに届く文章はきっと、
乾ききった言葉ではなく、
体温の残った言葉。

未乾歌



この歌は、まだ途中の自分を急かさない。

それでも、
会いたい人がいる。

届けたい言葉がある。

だから人は歩いていく。

乾かないままでも。


雨の匂いのままで。




降り出した雨のせいで
今日はちょっとだけ寒いね
乾ききらないTシャツと
柔軟剤の残り香

窓の外 白くにじむ
信号とか車の音
こんな夜に限ってまた
会いたくなるのずるいな


部屋干しみたいな匂いのまま
あなたに会いに行ったらさ
少しだけ困った顔して
笑ったりするかな


ねえ
雨の匂いのままでいいかな
ちゃんとしてない今日のままで
会いに行ってもいいかな

コンクリートが濡れる匂い
髪についたままでも
嫌われるかもしれないって
思うほど会いたいよ


改札前 人混みの中
急に立ち止まってしまう
鏡越しに見たわたしは
少しだけ自信がない

もっとちゃんとしてからとか
そういうのも思ったけど
たぶん今日いちばん欲しいのは
あなたの顔だった


雨上がりまで待てなくて
ごめんねって思うけど
それより先に会いたくて
ここまで来てしまった


ねえ
雨の匂いのままでいいかな
少しくらいだめな日でも
そばにいたいと思った

部屋干しみたいな恋だって
乾く日が来るのかな
そんなことどうでもいいくらい
今は会いたいよ



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