架空生徒との壁打ち③好きなものが特にない田中君
今回も過去の生徒との壁打ちです。
ナンバリングとしては③ですが、生徒としてはまだ2人目ですね。
今回もまだ7000文字ぐらいあります。
最初の方の生徒は丁寧に説明している部分が多くて、文字が多めですがお付き合いください。
生徒(1年生・田中): 「先生……あの、スキタンのテーマなんですけど。僕、本当にこれといって好きなものがないんです。
放課後はだらだらYouTubeを見てるか、寝てるかだけで。部活も入ってないし、趣味もありません。佐藤みたいに『これが好き!』って熱く語れるものが何一つないんです。
親からは『勉強に関係することにしなさい』って言われるし、でも自分では何も思いつかないし。僕みたいな『何にもハマれない人間』は、スキタンで何を書けばいいんでしょうか? 適当に、誰かが書いたような『SDGsのまとめ』とかでもいいですか……?」
(先生)
こんにちは、田中君。
いろいろと聞きたいことや話したいことがあるのですが、一度に出すと君も疲れちゃうので、一つだけ出します。
君がダラダラ見ていると言っているYouTube、どんなのを見ていますか?
YouTubeの閲覧履歴を見てみて、「自分ってこういう動画をよく見ているな」と気づく部分はありますか?
生徒(田中):
「YouTubeの履歴……。うわ、改めて見るとめちゃくちゃ恥ずかしいですね。人に見せるようなオシャレな動画なんて一個もないですよ。
えーと、履歴を見てみると……意外と多いのが、**『ボロボロの古い道具をひたすら綺麗にする動画』**です。 錆びきった包丁を研いでピカピカにしたり、泥だらけの古い絨毯を高圧洗浄機で洗って、汚れがドバドバ出てくるやつ。あとは、何十年も放置されて動かなくなった時計をバラバラにして、掃除してまた動くようにする修理動画とか……。
自分でするわけじゃないんです。ただ、夜寝る前にベッドの中でぼーっと見てるだけ。 汚いものがみるみる綺麗になっていくのを見てると、なんか頭の中がスッキリして落ち着くというか。これって単なる『暇つぶし』ですよね。
これを『好きなもの』って言っちゃっていいんですか? 何かを作るとか、誰かの役に立つとかじゃなくて、ただ他人が掃除してるのを眺めてるだけですよ。こんなのテーマにしたら、それこそ『もっと勉強に関係することにしなさい』って親に怒られそうで……」
(NotebookLM用のログとしてのポイント)
このやり取りでは、生徒が「自分には何もない」と思っている背後に、**「無意識に惹かれている対象(快感のポイント)」**があることを掘り起こそうとしています。
生徒の心理: 自分の行動を「無価値な暇つぶし」と決めつけている。
教員の狙い: 履歴という「客観的な事実」から、本人の言語化されていない興味(この場合は「再生」「洗浄」「秩序の回復」など)の断片を拾い上げる。
(先生)
YouTubeの閲覧履歴はとてもデリケートな個人情報だと思うので、自分だけの秘密にしたままでいいですよ(笑)
高圧洗浄機で洗う動画、面白そうだし見てて気持ちよさそうですね。
僕も昨夜、夜中になぜか、大量のこびりついた歯石を取るという歯医者さんの動画を見ていました(笑)
普通に考えると気持ちの悪い動画だと思うのですが、なぜか不思議な爽快感と中毒性があるんです。
そしてなんだか、こんな何の役にも立たない動画を、ついつい見ちゃうんですよね。
だから君がだらだらと動画を見ることも、否定はしません。
そればかりで一日を過ごしてしまうと、さすがにバランスは良くないと思いますけれどね。
肝心なのは、そのような時間の過ごし方をした後になって後悔しないということだと思います。
あ、「スキタンのテーマ探し」から話が脱線しちゃいましたね。
君の場合は、とてもシンプルに「高圧洗浄機で何かをきれいにする動画」をテーマにしちゃっていいと思います。
君のおすすめの一本をクラスメートに見せて、それを発表にしちゃってください。
動画1本をメインにして、そこに自分が気に入っているポイントを頑張って3つぐらい言語化できれば、それだけで立派な発表になりますよ。
こんなのでいいのかと思うかもしれませんが、「スキタン」は何週も何週もやっていく中で、どんどんとアップデートしていくものなので、1週目はそれくらいで大丈夫です。
そしてまた、高圧洗浄機で何かを洗う動画などを、君はダラダラと見ているかもしれないけれども、見ていない人は一生見ない動画です。
自分が一生見ないタイプの動画を見せてもらって、紹介者なりの「いいな」と思うポイントを伝える。
これだけで、聞き手にとってはほんの少しだけ世界が広がります。
その広がった世界の方向が有益かどうかはともかくとして、世界が広がること自体に価値があります。
だからあんまり身構えず、「立派なものを作らなければならない」とも思わず、まず1周目はこんなお手軽な感じでやってみたらいいかなと思いますが、田中くんはどう思いますか?
生徒(田中):
「……先生も歯石取る動画見てるんですか!?(笑) ちょっと安心しました。あれも確かに、最後にごそっと取れる瞬間、めちゃくちゃスッキリしますよね。
僕が見てるのもまさにそれと同じ感覚です。『何の役に立つの?』って聞かれたら言葉に詰まるけど、あの**『あるべき姿に戻っていく爽快感』**みたいなのは、確かに僕の中にあります。
でも、本当にそれでいいんですか? 『僕のおすすめ動画はこれです!』って紹介して、僕が『ここの汚れが落ちる瞬間が最高なんです』って3つポイントを言うだけで……。 それって、休み時間に友達と喋ってるのと変わらない気がして、逆に『そんなの家でやれ』って怒られないかヒヤヒヤします。
でも……。
『見ていない人は一生見ない動画』
『世界が広がること自体に価値がある』
先生のその言葉を聞いて、ちょっとだけ考え方が変わりました。 確かに、僕がこの動画を教えなかったら、クラスの真面目な女子とかは、一生『泥だらけの絨毯から真っ黒な水が出てくる動画』なんて見ないかもしれない。それを僕が『見てみて、これ気持ちいいから』って紹介するのは、ちょっと面白いかも……。
……分かりました。1週目は、あまり難しく考えずにやってみます。 僕が最近一番『うわ、スッキリする!』って思った**『海外のボロボロの高級時計が、プロの手で新品みたいに復活する動画』**をベースにしてみようかな。
ただ、先生。一つだけ心配なのが……。 動画を見せた後に、クラスのみんなに『……で?』って冷めた目で見られたら、僕たぶん立ち直れない気がするんです。『それで、結局何が言いたいの?』って聞かれたら、なんて答えればいいんでしょうか?」
(NotebookLM用のログとしてのポイント)
田中君のケースでは、**「趣味のなさを肯定し、消費行動を表現に変える」**ステップが描かれています。
共感による心理的安全: 先生が自身の「歯石動画」の話をすることで、生徒の「恥ずかしい」「無価値だ」という自意識を解きほぐしています。
「世界を広げる」という定義: 立派な成果物ではなく、「自分が見ている景色を他者にお裾分けする」という低ハードルなゴール設定が、動けない生徒の背中を押しています。
生徒の不安: 「意味(So what?)」を問われることへの恐怖。これは、目的意識を重視しすぎる教育を受けてきた生徒が抱きがちな、根深いブレーキです。
(先生)
君の心配はごもっともだね。
じゃあ、いくつかの工夫で、君の心配を減らしていこう。
1つ目は、スキタンは発表者と聞き手役との対話形式での発表をします。
発表というのは、究極言えば発表者と聞き手役との共同作品です。
だから、聞き手役がとても大事なんですよ。
そして、その聞き手役は君が指名できるんです。
君の仲のいい友達でもいいし、クラスで一番のリアクション名人の彼でもいいんです。
テレビとかで見たことありませんか?
大して面白い話ではないんだけれども、司会者や聞き手役の引き出し方が非常に上手で、ついついとても面白い話だと錯覚してしまう。そのようなことです。
だから、そういう「いい聞き手役」に、君の発表を面白おかしく仕立て上げてもらいましょう。
時には「こんな動画を見て何が面白いのか?」といったツッコミも、発表の良いアクセントやスパイスになると思います。
もしそういう聞き手役になってくれそうな仲の良い友達や、リアクションが上手い友達がいないのであれば、先生が聞き手役になってあげることもできます。
僕はプロですから、どんなつまらない話も、面白い話に仕立て上げる自信がありますよ。
2つ目ですが、みんなの発表が終わった後、発表を聞きっぱなしにするのは良くないので、生徒たちにフィードバックのアンケートフォームを取ろうと思っています。
でも君の言うように、自分の好きなものを否定されると傷つくよね。
ですので、フォームの回答には「良かった点」や「面白かった点」を中心に書くようにお願いしようと思っています。
ダメ出しからの改善というよりも、「良かった」「面白かった」の相乗効果が生徒の中で起こればいいなと思っていますし、そういうふうに設計しています。
3つ目ですが、君がそのように立ち直れないと思う、その感性が大事です。
君がそう思うということは、他の人もきっとそう思っているはずです。
そういう想像力が働けば、君も他の人の発表を否定しないし、他の人も君の発表を否定しないはずです。
社会はもっと厳しい場所かもしれないけれども、君たちが学ぶ教室の中だけでも、そういう優しさのある設計にしています。
そういう授業の設計と、友達の優しさを信じて、勇気を出して発表してくれたら嬉しいです。
生徒(田中):
「……発表者を指名できるんですか!? それ、めちゃくちゃ気が楽になります。それなら、いつも一緒にゲームしてる、僕の話を適当に笑って流してくれるあいつにお願いしようかな。あいつなら『なんだよこれ、きったねぇ絨毯だな!』とか言いながら、面白がってくれそうな気がします。
先生がプロの聞き手になってくれるっていうのも、心強いです(笑)。『どんなつまらない話も面白くする』って、ハードル上げすぎじゃないですか? でも、それくらい言ってくれると、僕もちょっとだけ肩の力が抜けます。
『良かった点』だけを書くアンケートも、すごく助かります。 正直、学校って『ここがダメ』『ここを直せ』って言われる場所だと思ってたから……。お互いの『好き』を肯定し合うだけの空間なら、僕みたいな何もない人間でも、居場所があるのかもしれません。
先生の話を聞いて、僕が感じてた不安は、実は**『みんなが持っている優しさ』**で解決できるんだって気づきました。僕も他の人の発表を聞くときは、その人が何に惹かれているのか、いいところを全力で探そうと思います。
よし……それじゃあ、僕の1周目のプラン、固まってきました。
僕の「スキタン」1週目プラン:時計修理動画のススメ
選ぶ動画: 50年前の動かなくなった高級時計が、油汚れを落とされてピカピカに組み直される動画。
伝えたいポイント:
「バラバラにする快感」:精密な部品が整列していく見た目の美しさ。
「時が動き出す瞬間」:最後に時計が『チクタク』と脈打ち始める瞬間の、命が宿るような感覚。
「新品より輝く美しさ」:古いからこそ、磨き上げたあとの輝きに深みがあること。
先生、これで行ってみます。 『役に立つか』は置いといて、僕が感じてる**『あるべき姿に戻るスッキリ感』**を、あいつと一緒にクラスのみんなに届けてみます。
……でも、先生。最後にもう一つだけ。 もし、これをきっかけに『田中って、意外とこういうマニアックなのが好きなんだな』って思われて、そこから新しい友達ができたりすることって、本当にあるんでしょうか?」
(NotebookLM用のログとしてのポイント)
田中君のケースは、**「心理的安全性の構築」と「受動的な興味を表現に変える」**プロセスを完璧に捉えています。
教員の介入: 「聞き手の指名」「ポジティブ・フィードバック限定」「教室を優しい設計にする」といった具体的なルールを提示し、生徒の最大の懸念(拒絶への恐怖)を取り除いています。
生徒の変容: 恐怖心が好奇心に変わり、最後には「他者との繋がり(新しい友達)」という、スキタンの副産物である**「自己開示によるコミュニティ形成」**への期待が芽生えています。
(先生)
世の中に、まして、人間関係というところに確実性なんてものはないよ。
ただ、常に一定確率で、いろんなことが起こりうるという世界で君たちは生きています。
自分の行動が何かのリアクションとして返ってくることもあるし、返ってこないこともあります。
望んだようなリアクションであることもあれば、望んでいないリアクションであることもあります。
ただ、一定確率で起こる以上は、試行回数が増えるほど、それが起こる確率が上がっていくということだね。
先生たちはスキタンを導入するために、先生たち同士でスキタンのデモプレイをして勉強会を開きました。
その勉強会では、13人の先生たちがあえて自分の専門分野を外して、意外性のあるテーマを選んで発表してくれました。
例えば、以下のような先生がいました。
1. アルミ製のフライパンが大好きな、商業科の野球部の先生
2. サッカーをスタジアムで応援することが大好きな、商業科の先生
3. 定年間近でとても上品なのに、若い頃はスキューバダイビングをやりまくっていて、その話をしてくれた先生
本当に、いろんな先生がいました。
そして、そういう先生たちの発表を聞いて、聞く側は「ああ、この人にはこんな一面があるんだ」と、とても親近感が湧いたんです。
人って、長く同じ空間にいて一緒の時を過ごしていても、案外知らないことが多いんですよね。
スキタン構想が、そういう意外な一面を知る、とても貴重な機会となりました。
僕も5つのデモプレイをする中で、より一層他の先生と仲良くなれた気がするよ。
田中君に新しい友達ができるかは保証できないけれども、少なくとも君の意外な一面をみんなが知って、君に興味を持ってもらうことはできます。
それはまさに君にとって、新しい友達を作るきっかけになるかもね。
また、もう片方、逆の視点も忘れないでいてください。
君が他の人の発表を見て意外な一面を知ったときに、それをスルーせずに、なるべくポジティブなリアクションとして返してあげてください。
アンケートでもいいけれども、できれば終わった後に直接「面白かったよ」と声をかけてあげてください。
君の自分ごととして考えると分かると思うけれども、そういうふうに言われたら最高に嬉しいよね。
だから君が発表した場合と、君が他の人の発表を聞いた場合、その両方で新しい友達が増えるチャンスがあるんだと思います。
生徒(田中):
「……試行回数、か。確かにそうですね。何もしなければ確率はゼロだけど、まずは自分の『意外な一面』を投げてみないことには、何も始まらないですもんね。
先生たちの勉強会の話、めちゃくちゃ面白いです。野球部の先生がアルミのフライパンについて熱く語ってるとか、想像しただけでちょっと笑っちゃうけど、でも確かにその先生のこと、今までよりずっと身近に感じられそうです。
僕も、クラスのあいつや、あんまり話したことない隣の席の女子に『ああ、田中って古い時計がピカピカになるのが好きな、ちょっと変だけど面白い奴なんだな』って思われるくらいから始めてみます。
あと……逆の視点。それ、すごく大事ですね。 自分が『声かけてもらえたら嬉しい』って思うなら、僕も他の人の発表を聞いた後、勇気を出して『あの絨毯の汚れが落ちるとこ、ヤバかったわ(笑)』とか言ってみようと思います。自分が発信側になるだけじゃなくて、誰かの『好き』を受け止める側になる。それが友達ができる一番の近道なのかもしれないですね。
先生、なんか僕、『何もない人間』だと思ってましたけど、スキタンのおかげで自分の履歴の中にあった小さな種を見つけられた気がします。
時計修理の動画、さっそく見直して、みんなに『おっ』と思ってもらえるようなポイントを整理してみます! 1週目の発表、ガチガチにならずに、でも僕なりのスッキリ感を全力で伝えてみますね。ありがとうございました!」
(このログのまとめ:NotebookLM 投入用エッセンス)
田中君のケースを通じて、スキタンの非常に重要な役割が描き出されました。
自己開示と関係性の構築: 趣味の提示を「自己開示の試行回数」と捉え、それがクラス内の心理的安全性を高め、新しい人間関係のきっかけ(アイスブレイク以上の深い繋がり)になること。
双方向のコミュニケーション: 「発表して終わり」ではなく、聞き手としてのポジティブなフィードバックが、巡り巡って自分の居場所を作っていくという「互恵的」な学びの場。
教師の役割: 生徒の「自分には価値がない」という思い込みを、共感と客観的な視点(YouTubeの履歴など)で解きほぐし、小さな「成功予感」を持たせる伴走。
(最後に僕からの感想)
誰にでも、ついつい見ちゃうようなYouTubeの動画ってあるような気がします。
僕もいくつかあります。
特段好きというわけでもないんだけれども、つい見ちゃうし、もう生活の一部になっているんですよね。
そういうものの魅力を言語化して伝えるということは、やはり自己理解やテーマ内容の構造化につながると思います。
