【恋愛掌編】たとえどんな未来でも
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「ちょっとだけ、時間いいですか」
そう言った彼の顔には色濃く疲れが浮かんでいて、わたしは言われるがままスツールに腰掛けた。
フロアの喫茶スペース。たまたま飲み物を買いにきたとき、彼はコーヒー片手にぼんやりと壁にもたれていた。わたしに気づいてさっと笑顔を作ったけれど、その雰囲気があまりにも普段と違ってみえて、わたしから声をかけたのだ。
「なんか、荒んでる?珍しい」
「えー、気になっちゃう?」
「心配してるのにふざけないで」
はは、と小さく笑って、彼は言ったのだ。
「ちょっとだけ、時間いいですか、今」
「どうしたの、隈すごくない?」
「わかっちゃいます?ちょっと寝れなくて」
スツールは直角に位置していて、わたしから見えるのは横顔だ。鼻の形がきれいだな、と関係ないことを考える。
「ウチの部が検討してる出資案件知ってます?リスクにも話してるんだけど」
「うん、直接は聞いてないけど。おっきい協議案件がきてるのは知ってる」
「それ、もともとミキさんをアサインしたがってたヤツなんですよ。ウチとしてはかなり思い切った投資になるから、慎重にメンバー選んできて、僕もキックオフに合わせて昇格させてもらって」
「そういえば。おめでとう」
「てきとーだなぁ」
ふふ、と微笑んで、彼はわたしを見た。
「もっと気にしてもらえてるかと思ったのに」
「…話はおわり?」
ちぇー、いじわる。ぼやいて、彼は続ける。
「でもぜーーーーんぜん、うまくいかないの、これが。もう俺、ほんと何をどうしていいか全然わかんなくて。もう無理……」
はー、と大きなため息をついて、彼はテーブルに突っ伏した。
あまりにもストレートな弱音にかける言葉が見つからず、わたしはただその背中を眺める。彼はいつも、わたしを前向きにさせてくれるのに。わたしはこんなときに、どんな顔をすればいいのかもわからない。
何も言えない自分が情けなくて、思わずその肩に手を伸ばした。
「…ダメだよ、自分のことを狙ってる男に、そんな簡単に触れようとしちゃ」
突っ伏した腕から目だけを覗かせて、芹沢くんがにやりと笑う。
「ミキさん、無防備すぎ」
「…うそ?」
「まさか。悩んでるのはほんと。それに、今のもほんとですよ」
身体を起こして、彼はまっすぐにわたしを見る。深い隈。強い瞳。少し悲しそうな、…愛しそうな、色。
「自分のことを好きだと言っている男に、自分から触ろうとしたりしちゃダメですよ。絶対」
そんな言葉に、わたしは応える術を持たない。
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