【企画SS#シロクマ文芸部】花びらを
(字下げ含み600字)
花びらを散らす風に、彼はわずかに目を細めた。艶やかな髪に薄紅がはらはらと降り注ぐ。
「……晴臣さま?」
手を伸ばせば、磨き抜かれた貴石のような瞳が自分を映して……
溶けるように、微笑った。
「清羽」
囁くように呼ぶ。
静かに、低く。
急くような鼓動など、微かにも感じさせないように。
焦がれ、灼かれる胸のうちなど、微塵も悟らせることがないように。
けれど花びらと同じ色の唇には、今日もまた、愛しむような微笑が滲む。さぁぁ、と耳をくすぐる風に、遠くあの日の声がする。
ハルくん。
今日もまた、
自分は愛らしい幼子としてしか、彼の瞳には映らない。
「……清羽、」
焦れる心に苦みが漏れる。
その声にまた微笑んで、彼は頬に伸ばされた手をそっと制した。
「お戯れはいけません」
「清羽」
花びらを散らして風が吹く。艶やかな髪に薄紅が降る。
伸ばされた手を拒んで、唇に淡く笑みを浮かべて、彼は静かに瞼を伏せる。
その眼裏では、いくつの自分が彼を呼ぶのか。
いつまで自分は、あの日の子どものままなのか。
あの日から、とうに十を超える春の日を、こうして。
「いつまで待てばいい」
思わずこぼれたそんな言葉にも、彼はやはり微笑むだけだ。
その、花よりも美しい微笑。
いつになったら、
「……晴臣さま」
咎める響きにさえ痺れる心は。
あと何度の、春を……
「お戯れは、いけません」
諭すようなその声を、
花びらを散らす風がさらう。
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