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【SS】いとこという関係

「いとこ」は不思議な関係だ。否応なく近しいきょうだいと違って、親同士の関係性次第で近くも遠くもなる。
私にはきょうだいのように近しいいとこが何人もいた。父のきょうだいの子どもたちで、新年には祖父母の家に集まり、一日中遊んで過ごした。快活な伯母たちは自分の子であろうとなかろうとまとめて世話をし、まとめて叱り、まとめて庭に連れ出した。それこそ、傍目にはきょうだいにしか見えなかったろうと思う。
その年もそんなふうに過ごしていたが、遊び疲れた私は子どもの遊び場所だった和室から抜け出し、大人たちが宴会をしている玄関脇の客間にひとり向かった。母になにか、飲み物か食べ物をねだろうと思ったのだ。
だから、そのふたりと玄関で会ったのはまったくの偶然だった。
「…ごめんください」
遠慮がちに玄関に佇んでいたのは、大人と言うにはまだ若い、綺麗な男女だった。顔がよく似ていて、「きょうだいなのかな」と思ったことを覚えている。
「おきゃくさま」だ。大人を呼ばなくては。
そんなことを思いながらふたりを見ていた私に、最初に気づいたのはお姉さんのほうだった。はっと目を見開き、背後のお兄さんを振り返ったところで、来客に気づいた母が現れた。
「…あら、」
驚く母に、ふたりは静かに頭を下げた。そしてお姉さんは私と母を交互に見て、母に向かって戸惑ったような笑みを浮かべた。何かを問う眼差しだと、今ならわかる。
背後に立つ母の表情はわからなかったが、お姉さんの綺麗な顔がくしゃりと崩れて、細い腰を折って私と目線を合わせた。
「…そうか…あなたが、…にいさんの子どもかぁ…」
なんのことを言っているのかわからなかった。私を見つめるお姉さんの目元が赤く染まっているのを、お兄さんが母に向かって頭を下げ、寂しそうに微笑むのをぼんやりと見ていた。
「上がっていく?」
母の問いかけに、ふたりはそっと頭を振った。そう、と呟く、母の吐息のような声。穴が開くほど私を見ていたお姉さんは、不意に腕を伸ばして私を抱きしめた。
「ありがとう。元気でね」
ぽかんとする私を置いて、お姉さんは母に深く頭を下げ、最後に私に笑いかけると、静かに玄関を出ていった。
「…お父さん似だな」
お姉さんを追って出ていくとき、お兄さんは小さくそう呟いて、私の頭をそっと撫でた。

あの人たちは誰?と訊いた私に、母は従兄姉だと答えた。
いとこ?あのふたりが?だって会ったことない。
「お父さんのお姉さんの子どもたちよ。…お父さんのお姉さんには、会ったことがないものね」
父に姉がいること自体知らなかった。年の離れた姉は、父が物心ついたときには既に嫁いで家を出ていた。祖父母との折り合いが悪かったその人は、それ以降きょうだいの結婚式と親族の葬式にしか顔を出さず、現在では交流はほぼないと言う。
「伯母さんとおじいちゃん達はいろいろあって…あのふたりは、ずいぶん寂しい思いもしたようだよ」
伯母と祖父母がどのような関係だったのかはわからない。やむない事情があったのだろう。そしてそれはそのまま、子どもたちにも幾ばくかの影を落とした。
そんな姉の家庭に、高校生になった頃から、父はふらりと顔を出すようになったらしい。いとこたちは小学生だった。
唯一交流を持った父方の親族。叔父と頼るにはあまりに若い父と幼いきょうだいがどのような関係だったのかは、母にもわからない。
それでも、父と母が結婚してからも度々、父は姉の家を訪れていたという。祖父母の嫁のなかで、ふたりと直接言葉を交わしたことがあったのはおそらく母だけだった。
父がふたりと過ごした時間が、ふたりに何を与えたのか。あの日、ふたりが-本当は父に会いたかったであろうことは私にもわかる。それが叶わなかったあの時、父にそっくりだと言われていた私があの場に居合わせたのは、ふたりにとってどのような意味があったのか。…それもまた、私にはわからない。

正月に親族が集う。その場に、かつての母の立場で参加するようになってから、たまにあの日を思い出すようになった。
義妹の子どもたちと遊ぶ我が子。彼らはきょうだいのように過ごし、育っている。その、不思議な関係。
ありがとう。元気でね。
初めて会った人から向けられた、手放しの親愛。それはそのまま、父に向けられるはずだったものだ。
そしてもしかしたら…幼かったふたりに、父が与えたものの一部なのかもしれない。
大人同士の関係性次第で近くも遠くもなる、いとこという関係。それは子ども同士の関係に見えて、実は親同士の…親子としての関係に他ならない。
伯母、祖父母、父。その関係が少しでも違えば、あの日ああして、抱きしめられることはなかった。
元気でね。
優しい声。優しい抱擁と、頭に触れた手の感触。
そんなことを思い出しながら、今年も新年を迎えている。




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