【企画SS#片想い文芸部】アイデア

(約2,000字)

「アイデア出しとして、明日少し打ち合わせしましょうか」
「ええ……」
「『ええ……』!?拒否ですか?」 
「いえまさか、そんなことは」
 慌てて否定したわたしを、上司は疑り深い目で見ている。
「拒否でしたよね?」
「いいえ、上司からの提案を拒否するなんて滅相もない。部下としてあるまじき行為です」
「拒否というか、お叱り自体はまぁまぁの頻度で承っている気がしますが」
「業務上の進言も部下の務め、上司のため部のため会社のため、血を吐く思いで申し上げております」
「なる……ほど……?」
 頑として認めないという意思を汲んだのか、上司はため息ひとつで黙認することにしたようだ。
 よし、勝った。
「では明日13時、どこか部屋の予約をお願いします」
「部屋?!」
「え」
「そそそそのへんのミーティングスペースで良いのでは!?わざわざ部屋の予約なんて……」
 狼狽えるわたしに、上司はこくんと首を傾げた。パチパチと音がしそうな瞬き。
「ついでに毎月の個人面談もやってしまおうかと思ったんですが」
「個人面談……」
「期中フォローのやつですね」
「不要です、進捗は随時お伝えしているとおり」
「あ、いえ。それはもちろん承知してますが、それはそれ、これはこれです。プライベートの悩み等を含め、部下の状況を適切に把握すべしという人事上の対応ですので」
「プライベート!?」
「あ、いえ……もちろん話したくなければ無理にとは……あくまで部下のパフォーマンス最大化のため、不穏の芽は先に摘め、というのが趣旨ですので……」
 はぁ、と生返事するわたしに、上司の瞳がキラリと光った。
「拒否ですか?」
「いえまさかそんなことは!」
 負けた。

 個人面談とはぬかった。明日、密室でふたりきり。
「いやいやいやいや!?仕事だから!!」
「おーい、起きてるかー?」
 背後から同期に呼びかけられて飛び上がる。テンパってるねぇ、と憐れむような笑み。
「ねぇ個人面談ってやってる!?毎月の!」
「うん、だって必須じゃん。え、木戸マネやんないの?」
「いややるけど」
「先月は?」
「……やった、けど」
 同期は首を傾げる。わたしは頭を抱えたくなった。
 そう、先月もやった。密室で、ふたりきり。何の問題もなかった。
 先月までは。
「いや、上司にさー、わざわざプライベートのことまで毎月さぁ、相談する必要なくない?」
「まぁそうだけど、『著変ないです、業務順調です』で終わりじゃないの。若手社員と気さくな上司とか、実際にいろいろ相談してたりするかもだけど、ウチらの年次で相談ったってねぇ……。キャリアアップを目指してなんたらとかを、上司としては期待するんだろうけど」
 誰もがそんなに意識高いわけじゃなし。とにかく業務上問題になるような状況にはない、ってことを伝えることが最重要。
 それ以上のことは、上司との関係性しだい。
「じゃない?」
 そう言うと、同期は「さぁお昼いこっか」と笑った。
 上司との、関係性しだい。

「あの……最近、何か悩みでも?」
「いえ特には。なぜでしょう」
「空気がピリついているので」
「そんなことは!?」
「……今もまさに、という気もしますが」
 上司はこくんと首を傾げて、静かな瞳でわたしを見ている。
 会議資料を、分析結果を、他部からの提案事項を見ている時とは、全く違う瞳。
「もし、何かお悩みがあったとして」
「ございません!」
「……あったとして、」
 素直に黙ったわたしに、上司は薄く微笑む。
 目を逸らしたくなる衝動を抑えて、わたしは努めて冷静にその顔を見た。
「それが業務負担に起因するなら、遠慮なく言ってください」
「はい」
「間宮さんに限って、黙って耐えるとは私も思っていませんが、念のため」
 なんだその評価は。心外だぞ、と心のなかで抗議する。
「もし、業務負担ではなく、私の言動自体が原因なら」
 どくん、とひとつ鼓動が鳴る。
 自分以外に聞こえないことが不思議なくらいの、大きな音。
「遠慮なく言ってください。……と言われても、難しいとは思いますが。どんなことでも結構ですので、ぜひ伝えてくださると嬉しいです」
「どんなことでも、ですか」
「はい。自分が間宮さんのストレスになっているかも、というのは、単純に悲しいので」
 にっこりと、少し困ったように。
 …鼓動が、うるさい。
 黙って頷くわたしに、上司は笑みを浮かべたまま続けた。
「信頼する部下にとって、いい上司でありたいですし。間宮さんが、しっかり実力を発揮するためにも」
 どくん、とひとつ、また鼓動が鳴る。
 こんなにも大きいのに、この音は本当に、彼には聞こえないのだろうか?
「……信頼する、部下」
「はい」
「いい、上司」
「はい。……え?ひっかかります?」
 良いことを言った、となるところでは……と呟く声を聞きながら、わたしは自分に言い聞かせる。
 上司と部下。
 ただ、それだけ。彼にとっては。

 ……当たり前の、ことではないか。


*****************************************************
こちらの企画に参加させていただきます↓
よろしくお願いいたします。
#片想い文芸部
#アイデア

あれ……
せっかく自覚したのに……!?
片想い感は増してる、かも(自己評価甘め)

前回のふたり

これまでのふたりはこちらからどうぞ☆
いつも楽しく参加させていただいてます、
ありがとうございます!


いいなと思ったら応援しよう!