短編物語「みなくいアヒルの子」
今となっては昔の話。ヨーロッパのデンマークと
いう国に、卵の孵化(ふか)を見守るアヒルの
母鳥がいた。可愛い雛(ひな)たちがどんどん
生まれて喜んでいたが、ひとつだけ、なかなか
かえらない卵があった。
その卵から、ようやくオスの子どもが生まれて
きたのだが、その体は、他の雛たちとは違い、
大きくて、色も変わっていた。
やがて、まわりのアヒルの仲間たちや、
きょうだいたちは、その子を
「みにくい」
だの
「猫にさらわれればいいのに」
だのと言って、いじめ始めた。そして母鳥にまで
「できそこないの子め。まるで七面鳥みたいだ。
ほんとうに、おまえがどこかに行ってくれたら、
私はどれだけせいせいすることか」
と言われてしまった、そのアヒルの子は、とうとう巣を逃げだすしかなくなった。
しかし、どこへ行ってもアヒルの子は、仲間はずれにされたり、攻撃されたりした。鴨たちの棲む
沼では
「俺たちの家族の者とは、ぜったいに結婚させないからな」
と言われ、猟犬を連れた狩人には、危うく鉄砲で
撃ち殺されそうになった。
行くあてもなく、さまよっていると、ある日
アヒルの子は、大きくて強そうな大鷲(おおわし)の群れを見かけた。その勇ましさに見ほれながら、アヒルの子は
「あの群れの仲間に入れてもらえたら、どんなに
うれしいことだろう」
と呟いた。けれども、
「みにくいみにくいみにくい」
と、何十回、何百回、何千回と言われて生きてきたアヒルの子には、大鷲のようにたくましい姿になるなんて、夢に見ることさえできなかった。
ひとりぼっちで寒い冬を越えると、ようやく暖かい春がやってきた。アヒルの子が、翼を羽ばたかせてみると、前よりも強く空気を打つことができ、
体が持ち上がって飛ぶことができるようになって
いた。そんなとき、大鷲の群れが飛んでくるのを
再び見かけた。
「あのたくましい大鷲のもとへ、飛んでいこう。
自分はこんなにみにくいのだから、きっと食い
殺されるに違いない。だけど、大鷲にだったら
それでもいいや、喜んで殺されてしまおう」
そう、自分に言い聞かせ、群れに近づいていくと、勇ましい大鷲たちもまた、アヒルの子のもとへ
近づいてきた。
「さあ、僕を殺してください」
と、アヒルの子は頭を湖の上に垂れた。ところが、湖面に映った自分の姿は、あの、みにくいアヒルの子ではなかった。このとき初めて、アヒルの子は、自身がアヒルではなく、大鷲だったことに気づいたのである。
そうして、おなじ仲間として大鷲たちに歓迎されて
いるうちに、これまで抱いていた悲しみの感情が、だんだんと強い憎しみに変わっていくのを覚えた。
さあ、復讐のときは来た。母鳥も、きょうだいたちも、昔の仲間たちも、皆殺しにしてやろう。
なぜなら、自分はもはや、鳥の王者なのだから。
数時間後、古巣へ飛んでいった若き大鷹は、悲鳴を上げて逃げまどうアヒルたちを、一羽残らず、
片っ端から食い殺していった。かくして
「みにくいアヒルの子」は「みな食いアヒルの子」となったのである。
(アンデルセンの童話は、パロディ化の
やり甲斐があります。名作ぞろいですからね)
