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生きることは、食べること。





医療や福祉、そして保育の世界では、

「どこが正しいか」

という話になりやすい。

けれど本当は、誰が悪い、誰が正しい、という単純な話ではないのだと思う。

保育園には、保育園の事情がある。

人手不足。

衛生管理。

安全管理。

働き方改革。

限られた人数で、多くの子どもを守るために、効率化が必要になることもある。

だから、外部委託という仕組み自体を、否定したいわけではない。

その形が合う家庭もあると思う。

ただ、今回苦しかったのは、

「合わなかったこと」

そのものではなかった。

説明と実際が違ったこと。

そして、代替案が存在しなかったことだった。



説明会では、園内で身体に良い和食中心の給食を作っているという話だった。

ところが、入園前説明会で大手業者への委託と説明された。

実際に通い始めると、

「完全委託なので、保育士は調理室に入れません」

と言われた。
6歳児と茹で時間は同じで、調整はできないと。

ミルク対応もできない。

刻みやミキサー対応もできない。

食中毒が心配だから持ち込みは許可できない。
と、言われた。

食事介助も、基本的には難しい環境だった。

食材持参、お弁当、バナナ、市販の離乳食など、

できる範囲で代替案を伝えた。

けれど、園側から別案が提示されることはなかった。

そして、通常食が出た。

大人サイズの照り焼きチキン。

長めのほうれん草

硬いご飯。

あれ?
離乳食の本は1歳6ヶ月まであるけどな?
と思いながら。
合わせようと努力した。
奥歯ないけど。。。

息子は、ご飯粒が苦手。


お粥にしても、柔らかくしても、急に「赤ちゃん返り」のように、食べられなくなる時がある。

私は看護師なので、つい考えてしまう。

消化機能?感覚過敏?発達?自律神経?

でも最近、もっと大きな視点で見るようになった。

夫は中国・河北省の寒い地域の出身だ。

山は砂と岩ばかりで、木も育ちにくいという。

冬は厳しく、昔は食べること自体が大変だったそうだ。

山には、ウサギくらいしかいない。

日本のように、白いご飯を毎日食べる文化ではない。

小麦も貴重。

だから、長い歴史の中で、

「少ない食べ物で生きる身体」

が育ってきたのかもしれない。
ちなみに貧しくてお肉も食べずに夫は180センチです。

そんな土地で育った夫は、7歳まで母乳を飲み、お母さんが噛んだものを食べさせてもらっていたという。

私は最初、驚いた。

けれど、人類の歴史で見れば、その方が自然だったのかもしれない。

今みたいに、1歳で何でも食べて、スプーンを持って、自立していく方が、むしろ新しい。

だから最近、息子を見る時に、

「普通より遅れている」

ではなく、

「まだ粒の世界に来ていない」

そんな感覚で見るようになった。

不思議なことに、息子は身体能力は高い。

6ヶ月からママパパと話し、
公園では懸垂をするし、
検診では必ず力が強いと驚かれる。

目の前のものへの興味や欲がすごい。。。

観察していると、“世界を吸収する力”が強い子だなと思う。

でもその分、消化や咀嚼の成熟は、ゆっくりなのかもしれない。

私は、蒸し器を出し、ミキサーを使い、食材を工夫し、茶碗蒸しを作り、スープを試す。

けれど、発達には、努力だけでは動かせない「季節」がある。

植物が、春になったら芽吹くように。

子どもにも、身体が準備できる時期があるのだと思う。




この子は、平均に合わせるために生まれてきたのではなく、

この子自身の身体のリズムで、生きているのだと。

私は、育児をしているというより、

ひとつの命の歴史を、観察させてもらっている気がする。

そして、食べるということは、栄養だけではない。

安心して、世界を受け入れることなのかもしれない。


1歳児クラスで、早生まれが半数以上を占めるのは、初めてだったそうだ。




その中で息子については、

「食べようとする意欲はありますが、ほとんど口から出してました。」
「食べる意欲はあります。」

とだけ言われた。

顔を真っ赤にしながら、食事を顔中に塗っていたのだろう。

顔は、ただれていた。

お迎えに行くと、下着も着せてもらえず、

4月初めのまだ寒い日に、薄いTシャツのまま、涙の跡が残る顔で眠っていた。

その姿を見た時、胸が締めつけられた。

きっと、ひとりで頑張っていたのだと思う。

食べようとして。

合わせようとして。

小さな身体で、必死だったのだと思う。

そしてその時、論文で読んだ言葉を思い出した。

登校拒否をして、命を絶ってしまった子どもに対して、

「生きたい意欲はあった」

と語られていた言葉だった。

もちろん、同じではない。

比べられるものでもない。

でも、どこか重なってしまった。

“意欲がある”

という言葉だけでは、救われない苦しさがある。

やりたい気持ちがあることと、

「できる環境がある」

ことは、別なのだと思った。

そして途中から、相手に期待しなくなった。

変わらない。

伝わらない。

相手には、相手の正義や事情がある。

だから、「どうにか理解してもらおう」

を手放した。

保育園を変える責任まで、こちらが背負う必要はない。

だから、慣らし保育の期間終了2日で、転園を決めた。

園からは、

「食べられるまでは、3時半かな?早く迎えに来てください」

という言葉を繰り返された。

それはつまり、

食べられないなら、仕事をせず迎えに来てほしい、という意味だった。

責めたいわけではない。

きっと、園側も困っていたのだと思う。

でも、その時に感じた。

ここは、この子に合う場所ではないのだと。

そして同時に、

“預けない”

という選択が、命を守ることもあるのだと思った。

転園後、驚いたことがあった。

新しい保育園では、細かな相談が、普通にできた。

食事形態。

介助。

食べ方。

様子の共有。

「どうしたら食べやすいか」

を、一緒に考えてくださった。

そこで初めて、大きな違いに気づいた。

最初の保育園は、

“個別対応をすると園側の負担が増える”

と思っている保育園だった。


新しい保育園では、全く違っていた。


まず状態を聞く。

優先順位を考える。

できること、できないことを整理する。

代替案を探す。

小さな調整を重ねる。

その積み重ねによって、

子どもが安心する。

安心するから、混乱が減る。

混乱が減るから、大人も落ち着く。
それは論文にも示されていることだし、
知識では知っていた。

お願いをする立場として、

同じ困り事に対しての取り組み方や

専門家としての力学を拝見できたことは大きな学びとなった。

そして感謝や愛で心が満たされた。


大人が落ち着くから、空気が柔らかくなる。

つまり、

「余裕があるから個別対応できる」

のではなく、

“個別性を大切にするから、結果として余裕が生まれる”



これは、発達支援やトラウマケアでも言われている。

人は、安心できない環境では、力を発揮しにくい。

逆に、その人に合った関わりがあると、問題行動や混乱が減り、結果として支援全体が安定しやすくなる。

近年の医療や保育でも、

「画一化」より、個別性への配慮の方が、長期的には安全性や安定につながる

と考えられるようになってきている。

そしてこれは、キャリア支援にも、とてもよく似ている。

社会には、「普通」がたくさんある。

同じ働き方。

同じスピード。

同じ成果。

でも、本当は人によって、

力を発揮できる条件は違う。

誰かには普通でも、別の誰かには、とても高い壁になることがある。

それなのに、苦しくなると人は、

「努力が足りない」「適応できない自分が悪い」

と思ってしまう。

けれど本当は、

“合わない環境で、力を失っている”

だけかもしれない。

逆に、環境が変わるだけで、自然に笑顔が戻ることもある。

呼吸が深くなることもある。

眠れるようになることもある。

人は、「正しさ」だけでは生きられない。

安心できること。

理解されること。

無理を続けなくていいこと。

それによって、やっと本来の力を出せることがある。

だから、合わない場所から離れることは、逃げではない。

自分と、大切な存在を守るための、静かな選択なのだと思う。

本当に良い場所とは、

完璧な場所ではなく、

“目の前の人を、ちゃんと見ようとする場所”

なのかもしれない。


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