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都合の良すぎる地球は本当に特別なのか

※この記事は約6800文字です。

以前、塩はどこからきたのかという記事と、水循環について書かれた記事を投稿した。

関連記事
『塩はどこから来たのか』

『塩の惑星 水循環と必要毒の哲学』

今回の記事はもう少し根源的なことを書いていこうと思ってる。

なにも「地球の奇跡に感謝すべき」だなんて偉そうなことを書くつもりはない。

何かを知っているというのは過去に興味を持った歴史に過ぎないのだから。

それでも、何がどうなって今があるのかを大雑把にでも知っておくくらいのことはしても損はしないと思っている。

そして、知れば知るほどに思うはずだ。

「この地球はあまりにも人類にとって都合が良すぎないか?」

たとえば、

呼吸が出来る。

水がある。

土がある。

どれも当たり前の出来事のように感じるはずだ。

でも、どれ一つとっても
実はまったく「当たり前」じゃないとしたらどうだろう。


0 当たり前じゃない前提条件

いま見ている火星や地球の話を、いったん宇宙全体のスケールまで引いてみる。

ビッグバン直後にできた「普通の物質(バリオン)」の内訳は、おおよそ

原子の数で、

• 水素:約 92%
• ヘリウム:約 8%
• それ以外:1%もないリチウムなど。

質量で(重さベース)

• 水素:だいたい 75%
• ヘリウム:だいたい 25%
• それ以外:ほぼ0%(リチウムなどがごくごく微量)

それ以外の炭素・酸素・鉄とかは、ほぼ全部「星の中での核融合+超新星」で後から作られたものだ。

金やウランのような、さらに重い元素については中性子星同士の衝突など別の生成ルートも議論されているが、この記事ではいったん話を簡略化している。

人類は、ビッグバンから138億年経過した現在の宇宙を構成している成分の割合の5%しかわかっていない。

ここで挙げる数字は観測や解析手法によって多少前後するけれど、だいたい「普通の物質 5:ダークマター 25:ダークエネルギー 70」くらいの比率だとイメージしておけば十分だ。

「普通の物質」が5%

これは、水素とか鉄とかになる。

また、「バリオン」と呼ばれていたりもする。

「正体不明の物質」が26%

これはダークマターと呼ばれている。

「正体不明のエネルギー」が69%

これはダークエネルギーと呼ばれている。

その「普通の物質」のうち、およそ98%は水素とヘリウムで占められている。(細かく言えば96%から99%のレンジで見積もられている。)

星の内部で炭素や酸素や鉄が大量に作られるようになっても、宇宙全体の質量に換算すると 誤差レベルでしか重元素は増えていないことがわかる。

ちなみに、地球を構成している物質のうち約35%は鉄で水は0.02%しかないなんて話もある。

酸素は3〜4番目に多いが、気体として存在する酸素はほとんどなくて、大概は他の何かと結合している。

酸素は、他の物質と反応しやすいという性質を持っているからだ。

それでも地球の大気中には21%も含まれている。

古生代の石炭紀には、酸素濃度が 30% を超えた時期もあり、
その頃には翼長 70cm 以上の巨大トンボのような昆虫もいたと考えられている。

一方で、恐竜時代の終わりには白亜紀末の大型隕石衝突による環境激変があり、
その中を生き延びたのは、比較的体の小さい生き物たちだった。

当時の人類の祖先は現在のネズミに近い生き物で、主に森林などで穴を掘って生活していたとされている。

他にも、水は酸素と水素が結合したものだけど、液体の水が長期間安定して広がる地表を持つ天体が、太陽系の中で確実に確認されているのは今のところ地球だけだ。

たとえば、火星にも水はあるけれど、
その多くは極域に氷として存在していると考えられている。

地表の気圧は低すぎて、地球の海のように液体として広がることはできない。

季節によっては、二酸化炭素が「ドライアイス」として凍ることもある。

そして、土

土は地球上のどこにでもあるようでいて、実は人類の科学力をもってしても作ることは出来ない。

人工的にそれっぽい培地を作ることはできても、
何万年もの風化と生物活動で出来上がった「生きた土壌」を
一から完全再現することは、まだできていない。

月にも火星にも砂と岩石は存在するが、地球型の「厚い土壌」はほとんど見当たらない。

少なくとも、何万年もの風化と生物活動が積み重なった厚い土壌層が、はっきり確認されているのは今のところ地球だけだ。

ここまでくるとこういう考えが出てきても不思議じゃない。

「これって人類に都合が良すぎないか?」

この先を読んでくれれば、地球が人類にとって都合が良すぎるという理由と、そう考えたくなってしまう人間感情について、さらに詳しく書いている。


1 都合の良すぎる世界という違和感


人間が住んでいる地球を、あらためて条件だけ並べてみると変な気分になる。

気体の酸素が豊富にあって
液体の水が表面に広がっていて
適度な厚さの大気があり
重力は強すぎず弱すぎず

しかもその上で

ミトコンドリアが酸素呼吸で大量の ATP を生み出して
DNA の塩基は窒素入りの分子で情報を安定して運んで
窒素は大気の中でほとんど何もしない背景ガスとして君臨している。

ここまで揃うと
地球という惑星がやけに生き物に優しすぎるように見えてくる。

ただその違和感は
少し目線を変えると別の姿になる。

この記事ではその構造を一段ずつほどきながら
最後に人間中心主義へのオチに着地してみたい。


2 一回きりのエネルギー革命としてのミトコンドリア


ミトコンドリアは
細胞の中にたまたま住み着いた便利な小器官
などというレベルではない。

生命史のスケールで見れば
これはほぼ一度きりの大事件だったと考えられている。

当時の地球には酸素がなかった。

必然的に地球の海には嫌気性の細菌しか住んでいなかった。

しかし好気性の細菌の登場により事態は一変した。

現在の地球上では極端な環境下を除いては、そのほとんどが好気性の細菌だという。

それだけエネルギー効率が良かったのだ。

つまりはこういうことだ。

元は好気性の細菌だったものが
原始的な細胞の中に取り込まれ
消化されずに共生を始めた。

それがミトコンドリアの起源とされる。

その結果何が起きたか

一個の細胞が扱えるエネルギー量が
桁違いに増えた。

大きな細胞
長い軸索を持つニューロン
複雑なシナプス
免疫系
恒温性の維持

こうしたものはすべて
とんでもないエネルギーコストの上に成り立っている。

ミトコンドリアは
ただの付属パーツではなく
真核生物というエネルギー浪費型生命の土台そのものだ。

ここですでに一つ目の都合の良さがある。

地球にはたまたま
酸素を使って途方もない量の ATP を叩き出す共生システムが生まれている。


3 窒素という奇妙な役者


DNA の中でも大気中でも主役級の存在がいる。

次の主役は窒素だ。

窒素は、まだ地球が溶岩の海だったころに地球に降り注いだ隕石から発生したとされるアンモニアが主成分だ。

この頃はまだ大気にオゾン層は存在していなかったのだ。

そのアンモニアが紫外線にあたることで窒素と酸素に分解された。

DNA の A T G C はすべて
窒素を含む芳香族ヘテロ環になっている
窒素が入る事で

平らで積み重なりやすい形を作れ
水素結合のドナーにもアクセプターにもなれ
電子の分布を微妙にいじって塩基ごとの相性を調整できる。

そのおかげで
A は T と
G は C と
特異的なペアを組みやすくなる
情報分子として
窒素はほぼ理想的な部品になっている。

地球上に窒素がなければ、細胞もタンパク質も作れなくなるということだ。

一方で大気を見てみると
約八割が N₂ だ
この分子は三重結合が強すぎて
常温常圧ではほとんど何もしない。

反応しない
ただ圧力と希釈を提供するだけの背景ガスとして働く。

分子レベルでは情報を支えるキープレイヤー
大気レベルでは酸素の毒性を薄める静かな溶媒

同じ元素が
情報の核と環境の背景
両方を握っている

これはかなり変な構図だ。


4 ジーンズ散逸と大気散逸


どんなガスが生き残るか

ではなぜ地球の大気は
そんな N₂ と O₂ を主成分にしているのか

ここで登場するのが
ジーンズ散逸と総称としての大気散逸だ。

気体分子は熱運動をしていて
軽い分子ほど速く動く
惑星の重力が弱かったり
分子が軽すぎたりすると
たまたま速くなった分子が脱出速度を超えて
宇宙空間へ逃げていく。

若い恒星からの強い紫外線や
太陽風によるスパッタリング
磁場を伴うイオン流出なども含めて
惑星の大気は長い時間スケールで
少しずつ削られていく

そのふるいにかけられ

水素やヘリウムのように軽すぎるガスは
地球の重力では長くとどまりにくい。

逆に窒素や酸素や二酸化炭素くらいの分子量だと
まだ保持しやすい。

結果として
地球は

軽すぎるガスには支配されず
かといって金星のような超厚い温室暴走にもならず
火星ほどスカスカでもない。

中庸な厚さと組成の大気を
長期間維持できるポジションにいる

ここでもまた
都合の良い中間地点に落ちている。

さらに、地球は強めの磁場を持っていて、
太陽風から大気をある程度守っている。

火星は磁場をほとんど失った結果、太陽風に直接あぶられて
上層大気をかなり削られたと考えられている。

重力だけでなく、磁場という“見えない盾”まで持っている点でも、
地球はかなり条件の良い位置にいる。


5 酸素呼吸という高リスク高リターン代謝


これまで何度も語られてきた酸素は猛毒でもある。

活性酸素種
脂質過酸化
DNA 損傷
タンパク質変性
オゾン層

細胞にとって
これは日常的な暴力だ。

しかし同時に
O₂ を最終的な電子受容体にして
電子伝達系を回す事で

一分子のグルコースから
嫌気条件なら数個しか取れない ATP を
三十個以上取り出せる。

代謝の世界では
酸素は利回り最強クラスの投資商品だ。

だから生物は

活性酸素を分解する酵素
酸化ストレスに耐える修復系
細胞死の制御機構

といった防御インフラを抱え込みつつ
それでもあえて
毒物をエネルギー源として使う道を選んできた。

毒性と ATP 生産性のバランスが
ギリギリ折り合うところで
酸素呼吸という戦略は成立している。

もしもう少し毒性が強かったら
もしもう少し利回りが低かったら

ここまでエネルギー浪費型の生命は
成立しなかったかもしれない。

 ここで忘れてはいけないのは、そもそもこの酸素を大気にばらまいたのが「二酸化炭素を吸って酸素を吐くバクテリア」だということだ。

原始の海でシアノバクテリアのような光合成生物が増えはじめ、CO₂ を食べながら O₂ を副産物として出し続けた結果、何億年もかけて大気の性質そのものを塗り替えてしまった。

 その過程では、酸素が鉄をどんどん酸化させてしまい、海底には「縞状鉄鉱層」が積み重なった。

言い換えると、初期の地球は、バクテリアによる「酸素テロ」と「鉄のサビの雨」で空と海の成分を調整し続けてきた星でもある。

酸素呼吸の華やかさの裏には、そうした気の遠くなるような“酸化の時代”が横たわっている。


6 暖かい海は酸素が乏しい


物理バケツと代謝の欲望

さらにややこしいのは
酸素の水への溶けにくさだ。

気体の溶解度は
温度が高くなるほど下がる。

暖かい海は
生物の代謝にとっては好条件になりやすい。

化学反応は進みやすくなり
成長速度も上がる。

だが物理的には
酸素という燃料を蓄える水のバケツは
温度が高いほど容量が小さくなる。

代謝の欲望は増すのに
燃料タンクは小さくなる
という構造になっている。

CO₂ についても事情は似ている。

寒い海ほど二酸化炭素をよく溶かし込み、深層へと沈めてしまう。

高緯度の冷たい海は、言ってみれば「地球の CO₂ 貯金箱」のようなもので、そこが働いてくれているあいだは、大気中の CO₂ 濃度の暴走がいくらか緩和される。

暖まりすぎれば酸素も CO₂ も溶けにくくなり、タンクは空になっていく。

ここにも
ギリギリの綱渡りがある。

地球規模で温度が上がりすぎれば
溶存酸素が減り
同じ生物量を支えられなくなり
生態系が崩れ始める。

酸素呼吸の世界は
よく見ると
かなり綱渡りの上に立っている。

しかも、この綱渡りは
大気や海だけでなく、
地球の中身の動き(プレートテクトニクス)までも巻き込んで成立している。

ここから先は、その「多段フィルター」をざっくり積み上げてみる。


7 多段フィルターとしての地球


ここまでを
一つの構造としてまとめてみる。


宇宙の物理定数や化学のルールが
炭素や窒素や酸素のような
有機化学に都合の良い元素を許している


星形成や惑星形成のスケールが
ジーンズ不安定性などを通じて
地球サイズ程度の岩石惑星を頻出させる


ジーンズ散逸や大気散逸が
軽すぎるガスをふるい落とし
中くらいの重さの窒素や酸素を
長期的に残す


液体の水が安定する距離と温度に
惑星軌道が落ち着く


光合成によって
元々は毒でしかなかった酸素が
大気中に蓄積される


ミトコンドリア共生という
ほぼ一度きりのエネルギー革命が起き
酸素呼吸による高利回り代謝が開かれる


DNA は窒素入りの塩基で情報を持ち
その情報を持った細胞が
酸素と窒素と水の世界で進化を続ける


プレートテクトニクスと炭酸塩–ケイ酸塩サイクルが、二酸化炭素を岩石と大気のあいだで行き来させながら、数億年スケールの気候を“液体の水ゾーン”に引き戻し続ける。

具体的には、雨に溶けた CO₂ が岩石を溶かして炭酸水素イオンになり、それが川から海へ流れ込み、海底で炭酸塩として堆積し、プレートごとマントルに沈み込んでいく──という、気の遠くなるような循環だ。

地球は、表面で CO₂ を吸い込み、深部に“隠す”仕組みをたまたま持っていた星でもある。

このように見ていくと
地球が生き物に優しいというより

宇宙から惑星
惑星から大気
大気から海
海から細胞
細胞から代謝と遺伝子

各階で不適な条件がふるい落とされ
最後に残った細い可行領域の上に
今の生命が立っている。

という姿が浮かび上がる。

都合が良いというより
たくさんの都合の悪さを
かろうじてかいくぐった結果として
こうなっている。

ついでに言えば、地球には不自然に大きい月がいて、自転軸のブレを抑えたり、潮汐で沿岸環境を揺さぶったりもしている。

これもまた、生命史の細部に効いていそうだが、
ここまで行くと“ご都合主義セット”のフルコンボみたいになってくる。

地球の方は「もともと生きた惑星として、どれだけ条件が揃っているか」という話を書いた。

火星はその真逆で、「ほぼ死にきった惑星の上に、どこまで人工の“生”を貼りつけられるか」という話になる。

火星のテラフォーミングについて興味を持ったら以下の記事も読んでみて欲しい。👇

関連記事
『死んだ星に「生」を貼り付けるという発想』


8 それでも都合が良すぎると感じてしまう理由


人間中心主義というラスト

それでもやはり
ここまで読んでみると
地球が人類に都合が良すぎるように感じられるだろう。

ミトコンドリアがいて
酸素呼吸が動き
窒素が空と DNA の両方を支え
重力も温度もそこそこ
水もある

どう見ても
人類に最適化されたステージのように見える。

しかしこの感覚自体がすでに
人間中心主義の表れでもある。

人間は
人間にとって快適かどうか
人間の体温
人間の呼吸
人間の代謝
人間の文明

そのスケールで世界を評価してしまう。

人間から見れば
二十パーセント前後の酸素濃度は
ちょうど良い

けれど、
別の惑星で進化した異星人がいたら
まったく違う条件を都合が良すぎると感じているかもしれない。

メタンの海を好む生命にとっては
極低温と高圧が
快適な環境になるかもしれない。

アンモニア溶媒の世界では
水はむしろ猛毒だろう。

高重力の惑星で進化した存在から見れば
地球の重力は
ふわふわしすぎて暮らしにくいと
評価されるかもしれない。

都合が良すぎる地球
という感覚は

人間という
酸素呼吸で ATP を燃やし
窒素入り DNA で記憶をつなぎ
九点八メートル毎秒毎秒の重力の下で
脳をこねている生物にとっての
ローカルな評価にすぎない。

異星人には異星人に適した世界がある。

その意味で
地球は特別であり
同時に特別ではないとも言える。

宇宙は人間に優しすぎるのか
それとも
人間がたまたま
宇宙の一部のギリギリ成立している領域に
自分の巣を作っているだけなのか

その問いを抱えたまま
この都合の良すぎる星で
もう少し考え続けてみる価値はあると思う

そして、この地球が都合が良すぎるのではなくて、地球という環境の整った星が存在したから人類が宇宙を観測することが出来ている

そう考えることもできるはずだと


余談

このような考え方を「宇宙のファインチューニング」と呼ぶこともあるらしい

それはどこか星空のパラドックスのような話なのかもしれない


関連記事

『宇宙文明0.8の壁 人類はどこに行くのか』

『帰還の窓は、わずか数度 アポロ再突入の哲学』

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