今日の紫音 #004|休日のカフェ時間
休日の朝は、平日より少しだけ遅い。
目覚ましを止めて、もう一度だけ布団に顔をうずめる。
「……あと5分だけ」
そう思っていたはずなのに、次に時計を見たときには30分ほど経っていた。
まあ、今日は休みだ。
急ぐ理由もない。
私はゆっくり起き上がると、カーテンを開けた。
窓から入ってくる夏の光は、思っていたよりも明るい。
今日は家で一日過ごしてもいい。
動画を見たり、スマホを触ったり、眠くなったら昼寝をしたり。
そんな休日も嫌いじゃない。
でも今日は、なんとなく外に出たい気分だった。
行き先を決めないまま外へ
軽く身支度を済ませて家を出る。

今日の私は、いつもの仕事の日より少しラフ。
お気に入りのトップスにパンツ。
必要なものだけをトートバッグに入れて、駅とは反対方向へ歩き始めた。
特に目的地は決めていない。
「暑かったら、どこか入ろ」
そんな適当さも、休日なら許される。
平日は時間を気にして歩く道も、休みの日は少し違って見える。
気になっていた小さなお店。
いつの間にか変わっていた看板。
公園のベンチで話している人たち。
急いでいるときには気づかなかったものが、意外とたくさんある。
そして10分ほど歩いたところで、一軒のカフェが目に入った。
前から何度か通り過ぎていた店だった。
「……ここ、入ってみよっかな」
今日は、そんな気分だった。
窓際の席とアイスカフェラテ
店内に入ると、冷たい空気が一気に身体を包んだ。
思わず小さく息を吐く。
注文したのはアイスカフェラテ。

本当は少し甘いものも気になったけれど、
「あとで考えよ」
と、とりあえず飲み物だけにした。
案内された窓際の席に座り、バッグを横に置く。
カフェラテを一口。
冷たさと苦味がちょうどいい。
「……おいしい」
誰に言うわけでもなく、小さくつぶやいた。
外を見ると、暑そうに歩いている人たちが見える。
信号待ちをする人。
自転車で通り過ぎる人。
スマホを見ながら歩く人。
その景色をぼんやり眺めながら、私はスマホをテーブルに置いた。
せっかく来たのだから、今日は少しくらい何もしない時間を楽しみたい。
「何もしない」が意外と難しい
とはいえ。
数分もしないうちに、無意識にスマホへ手が伸びる。
SNSを開いて。
閉じて。
また別のアプリを開いて。
「……私、スマホ見すぎじゃない?」
自分で少し笑ってしまった。
仕事の日は、
「休みになったら何もしないでゆっくりしたい」
なんて思うのに。
いざ自由な時間ができると、何かしていないと落ち着かない。
予定。
連絡。
SNS。
明日のこと。
来週のこと。
考え始めれば、いくらでも出てくる。
だから私は、スマホを裏返してテーブルに置いた。

そしてもう一度、カフェラテを飲む。
何もしない。
ただ窓の外を見る。
店内に流れる音楽を聞く。
氷が少しずつ溶けていく音を聞く。
最初は少し退屈だった。
でも不思議なことに、しばらくするとその退屈さが心地よくなってきた。
結局、甘いものも頼んだな
しばらくして。
私の視線は、隣の席に運ばれてきたケーキに向いていた。
「……やっぱり食べよ」
休日なのだから、それくらいはいい。
追加で小さなケーキを注文した。
写真を撮ろうとして、一度スマホを構える。
でも途中でやめた。
今日は誰かに見せるためじゃなくて、自分が食べたいから頼んだものだ。
もちろん写真を撮るのも楽しい。
でも全部を残さなくてもいい。
フォークで一口。
思っていたより甘い。
でも、それがちょうどよかった。
「これ当たりかも」
今度は少しだけ嬉しそうに笑った。

予定のない休日も悪くない
気づけば、カフェに入ってから一時間近く経っていた。
何か特別なことをしたわけではない。
旅行に行ったわけでもない。
誰かと遊んだわけでもない。
ただ近所を歩いて。
カフェに入って。
飲み物を飲んで。
ケーキを食べただけ。
それでも、家を出る前より少しだけ気分が軽くなっている。
私はバッグを持ち、店を出た。
外はまだ暑い。
「帰りにアイス買って帰ろ」
結局また甘いものを買う。
でも、そんな休日も悪くない。
何かを成し遂げなくてもいい。
予定がぎっしり入っていなくてもいい。
誰かに見せたくなるような一日じゃなくてもいい。
自分が少し機嫌よく過ごせたなら、それで十分なのかもしれない。
そんなことを考えながら、
私はゆっくり家へ向かって歩いていった。

今日の紫音。
特別な予定はなし。
特別な出来事もなし。
でも、お気に入りのカフェラテとケーキがあった。
休日なんて、それくらいがちょうどいい。
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